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カテゴリー「ブログ小説」の記事

2017年2月20日 (月)

夢幻の函 Phantom share 37

「これは、あれですね」と、私は感想をいう。

「それは、あれだよ」と、童話作家はなんだかフテる。

レイさん・ハルちゃん「トルストイの『イワンのばか』と旧約聖書の『ヨブ記』の/リミックス/ということですね」

「私も、そう読んだけど」

「そうなんだから、そうだ」

 と、童話作家は私を睨むように、いや、どっちかというと憐れむようにみて、

「あんた、社会不適合者だな。独り暮らしは出来るが、結婚、夫婦生活、家庭、そういものは出来ないんだろ」

 と、鼻で笑った。

 だから、なんだってんだ。

童話作家は、声高にいう。

「わたしゃね、いいたいことぁね、これだけ。あのね、/あんたなんのために生きてんだ、こんなバカバカシイ〔この世〕に/、ね。それはそれ、私自身に突きつけてるアポリアなんだけどね」

 そうして今度はバカ笑いした。

 しかし、私は、この童話作家を軽蔑する。低能だろうと思われる思想を嗤う。

 

 さて、海のほうに向かうか、山沿いにいくか。

 レイさん・ハルちゃん「山は熊いるので、ヤです」

 でしょうねえ。じゃあ、海に向かいますか。

 と、海に向かったが、ひょっとして海に向かって逃げたひとの屍体が浮いてるんじゃなかろうな。と懸念、思案しているあいだに函館の港だ。

 どこへいってもどこでもナイ。あっちがどっちだかも知れない、〔私〕と、孕み女ふたりの旅は、ここから始まるかのようだ。

 

Season1 はここまで。

Season2 は、本年の六月頃始まります。

2017年2月19日 (日)

夢幻の函 Phantom share 36

天国です。

「あのバカのドブには困ったもんだな。二級天使じゃ相手にならんな。まあいいか。そんなことは大天使のわたしにはワカッテいたことだ」

天国のルシフは、昼寝している神ヤハイを起こしました。

「ヤハイさま、出番ですよ。ヒトは弱りはてています。いまこそ、神さまのヤハイさまの偉大さをみせてやるのです」

「そうか、そうだな、そうするか」

ヤハイは、大きなあくびをひとつすると、それから地上近くにおりていきました。 

ドブは、たおれたままです。

「おい、ドブよ」

と、ヤハイは、空いっぱいにとどろくような声でドブの名をよびました。

「オレをよぶのはだれだ」

「わしは、ヤハイという神だ。よく聞くがよい、この世界をつくったのは私だ」

「そうかい。けれども、この田畑はオレがつくったよ」

「こんな田畑と、世界とはくらべものにならん」

ヤハイの声はカミナリのようにきこえました。

「田畑がなければ、ヒトは食っていけなくなるよ」

「田畑くらいがなんだというのだ。わしは、山を動かすこともできるのだぞ」

「山なんて動かされたら、ヒトは困るだけだ。田畑のほうがタイセツだ」

うーん、こいつはかなり、バカだな。とヤハイは思いました。

「ドブよ、おまえのタイセツなツキを生きかえらせることも、わしにはできる。そうしてほしいか」

「ヒトは死ぬもんだ。せっかくやすらかに死んだのに、ツキはもう生きかえりたくナイにチガイナイ」

「毒へびにかまれて、苦しんで死んだのだろう」

「毒へびにかまれても、熊に食われても、死ぬときは同じだ。みんなやすらかだ。ツキも、さいごのときは、そんな瞳をしていたよ」

ほんとうに困ったバカだな。ヤハイは、舌をうちました。

「お前の父も母も兄たちも、いっしょに生きかえらせてやろう。それから、お前のチカラももとにもどしてやろう」

「そうするなら、そうすればイイさ。そうなったところで、どうなるのか、オレにはワカラナイけどな」

「おまえには、あっというまに木々が千本も伐りたおせる斧をやろう」

「オレは、たかが一本の木を伐るときも、いっしょけんめいにする。なぜなら、木も伐られたくはナイだろうからな。だから、オレの命もやがて土になって、お前たち木々にくれてやるからと、そう思いながら木を伐るんだ。その刃を木にむける斧だって、オレと同じ気持ちにチガイナイ」

ヤハイは少し腹立たしくなってきました。

「ドブよ、おまえは、神のいうことを信じないのか」

「オレはバカだから、神というものがどんなものなのかワカラナイ。ワカラナクても生きてきたから、それでイイのだ」

「あらゆる苦しみをとりのぞき、死ぬことのナイ命すら、おまえにやるといっているのだ」

ヤハイの声は天にも地にもひびきわたりました。

「オレはバカだが、生きるのは苦しいものだと生きてみてよくワカッタ。それでも生きてこられた。それにヒトは死ぬものだということくらいは知っている。それでも生きてきた」

はなしにならんな。ヤハイは天国にもどっていきました。 

ルシフは、とっくにどこかにすがたをかくしています。

「ああ、たいくつだ。ヒトなどいらないな。いらないものはいらん」

ヤハイは、また、大あくびをしました。 

さて、それから、ドブは最後のチカラをふりしぼってツキを埋めてやり、自分もそのかたわらによこになりました。

そうしてやがて土になりました。

次の年、そこから新しい芽が二つ出て、それは100年ほどで二本の木になりました。

そうして、毎年、それぞれの木にチガウ花が咲くようになりました。

もう、国はありませんでした。ヒトもいませんでした。

田畑はだんだん森にもどっていき、川のせせらぎと、鳥の声が聞こえるだけになりました。

ことしも二本の木には、それぞれの花が咲いています。/

2017年2月18日 (土)

夢幻の函 Phantom share 35

エブの国が、つまりはビブやドブたちの住む国なのですが、しだいに弱々しくなっていることを知り、となりの国が攻め込みました。戦争をしかけたのです。

もう兵隊がほとんど動かなくなっていたので、エブは嫁を置きざりにして、ビブといっしょに逃げ出しました。けれども、帰り着くころに、家は戦火に燃えてしまって、アトかたもなく、父親も母親もとなりの国の兵隊たちのために、命をうばわれてしまっていました。

「やあ、兄さんたちおかえり」

それでもドブは笑顔で、兄たちの帰りをよろこびました。

「ドブ、父さんも母さんも死んだのか」

「ああ、戦争だったからね。しかたがナイよ。でも、父さんも母さんも寿命だったし、それに、ヒトは何処でいつ死ぬかなんてワカラナイもんだよ」

そういって、ドブはエブとビブに山羊の乳をふるまいました。

「田畑がふえたよ。また、いっしょにタネをまこう」

けれども、エブもビブも、なんにもヤル気がしないのでした。

「夢はかなったらオワリだ。けれども欲はチガウ。欲にはキリがナイ。エブ兄さんの夢はほんの少しのあいだだったが、げんじつになった。げんじつになったら、このザマだ。オレの大金持ちになる欲もかなったが、キリがナイというのは、カラダに悪いらしい。どうも苦しくてたまらない」 

そんなときに、となりの国の兵隊たちが、エブとビブをつかまえにきました。ツキはドブにしがみついていました。

となりの国の隊長さんは、それをみて、

「この二人はいいだろう。となりきんじょにきいたのだが、男のほうはちょっとバカで、娘のほうは口と耳が不自由らしい。そちらの二人だけをつれていけ」

それをきいたとたん、まずビブが弱りはてたようすで死んでしまいました。

それからすぐに、エブも、力なく、はててしまいました。

「ちょっとへんだが、死んだものはつれていってもしかたがナイ」 

ドブは穴をほって、エブとビブを埋めてやりました。ツキは兄たちの墓に、どこからか花をつんできて、そえました。それから二人は新しい田畑にタネをまきにでかけました。

すると、ツキのようすがおかしくなりました。

毒へびにかまれたようなのです。

「こんなところに毒へびなんていないはずなのに」

ドブは、いっしょけんめいツキの、てあてをしましたが、ツキはドブをみつめたまま死んでしまいました。 

ドブはしばらく泣きました。けれども田畑にタネをまくことにしました。

そのとき、あの二級天使があらわれました。

「おい、ドブよ、おまえはひとりぼっちになってしまったな」

「いいさ、オレには田畑がある」

「その田畑をたがやす力も、タネをまくチカラも消してやろう」

二級天使がそういうと、ドブのカラダからチカラがぜんぶ抜けて、ドブは、なえてしまい、土の上にたおれてしまいました。

「いいさ、オレはこのまま田畑の土になっていくさ」

2017年2月17日 (金)

夢幻の函 Phantom share 34

「もっと立派なお城が欲しいな」

とエブがビブにいいました。

「そりゃあ、そうだよ。エブ兄さんにふさわしいお城をつくらないと」

ビブは、エブに、国の民から税金をおさめるだけではなく、城づくりのしごとをするように命令すればイイとアイデアを出しました。もちろん、賃金はナシです。そのうえ、城づくりのとき、国の民にビブの経営する弁当屋がつくった弁当を買わせることに決めました。

ビブは大金持ちになってから弁当屋をはじめたのです。もちろん、弁当屋はタイセツなしごとです。しかし、ビブは、税金がお金ではらえない民に米や野菜をおさめさせる命令を、兄の国王エブに出させました。それを使った弁当ですから、タダどうぜんでつくれます。

さて、城の次は宮殿、その次は高い塔、その次は、その次はと、国の民の税金のとりたてとタダ働きがつづいたので、国の民はだんだん、びんぼうになっていきました。

税金の支払いがとどこおってきました。あれこれと、国王のしごとばかりで、米も野菜もつくっている時間が民にはありませんでした。ですから、弁当どころか、兵隊たちの食料も少なくなってきました。

やがて、そっと国を逃げ出す民がふえはじめました。

兵隊たちも、どんどん腹ペコになって動かなくなりました。

 

二級天使がやって来た日、ドブが仕事を終えて家にもどると、父親と母親がしょんぼりした顔で、ろうそくを一本だけたてたテーブルを前にすわっておりました。

「どうしたんだい、父さん、母さん」

父親と母親は、エブとビブと牛と馬がいなくなったことを話しました。

「それは、たいへんなことだ。でも、しんぱいしなくていい。オレが明日から100倍働く。だから、山羊の乳を毎日バケツに一杯飲ませてくれ」

たいせつな商いの品でしたが、父親も母親もドブを信じて、そうすることにしました。

そうすると、ドブは次の日から眠らず休まず、たった十日で、木こり千人分を働いて、新しい田畑になる土地をひらきました。ツキはうれしくてパチパチ手をたたきました。

ドブとツキは毎日、夜明けになると、手をつないでは森にいき、いちばん星が出ると、手をつないで家にもどっってきました。それから父親と母親と四人で、カボチャを食べました。カボチャだけは、農作地でなくても、どこにでも実をつけるべんりな食べ物でした。

ドブはいつも三つは食べましたし、ツキはカボチャのつるを、ちゅうちゅう吸うのが好きでした。

 

このできごとには、天国のルシフもあきれながら、二級天使をしかりつけました。

ヤハイの神さまは、あくびを連発しています。

「ヤハイさま、これから、オモシロクなるのは、これからですよ」

とりつくろってルシフはいいました。

2017年2月16日 (木)

夢幻の函 Phantom share 33

さて、次はドブのところに二級天使はやってきました。

「おい、ドブよ。おまえはたいへんな仕事をしているな。その斧、一本と、木こり千人とを、とりかえっこしてやってもいいぞ」

「そんな木こりが、どこににいるんだ」

二級天使は、ざるにいっぱいの麦わらを差し出して、それをひとつかみ、バラバラとまきました。すると、麦わらは木こり千人になりました。

しかし、

「こんなにおおぜいの木こりを食わせていくことはできない。オレは斧、一本でイイ」

あらららっ、二級天使はちょっとあわてました。しかし、

「食事つきならどうだ」

と、なにくわぬ顔でいいました。

ドブは、しばらく考えていましたが、

「オレは頭が良くないので、千人もの木こりの名前なんかおぼえられない」

と、いいました。

「木こりたちに、なふだ、を、つければどうだ」

「オレは字が読めない」

こいつ、ほんとうにバカだな。二級天使は、木こりたちを消しました。

「じゃあ、そ、そ、そうだな」

と、二級天使はかたわらの娘、ツキをみました。

「このこは、耳と口が不自由なんだろ。それを治してやるぞ」

いくらなんでも、これには反対しないだろう。二級天使はしてやったりの顔です。

ドブはじっとツキをみました。ツキの瞳をみているだけで、二人のココロは通じるのです。

ツキは首をよこにふりました。

ドブは二級天使にいいました。

「ツキは世の中のよくない話なんか、聞きたくナイそうだ。それに、ひとの悪口やうわさをするのもイヤだそうだ」

うえっっっ、困ったヤツだな。

二級天使はしかたなく、出なおすことにしました。

 

「なんだ、やっぱり、たいくつだな」

と、天国では、神のヤハイが大あくびをしました。

「ここからですよ、オモシロクなるのは」

と、大天使ルシフはニタニタ笑いました。

2017年2月15日 (水)

夢幻の函 Phantom share 32

その日の朝ごはんも、トウモロコシのスープと、牛や馬や山羊に食べさせる麦わらを粉にして焼いたパンでした。山羊からは乳がしぼれましたが、それは売り物で、父親と母親は山羊の乳をしぼっては町の市場にそれを売りにいくのが仕事です。

エブは牛を、ビブは馬を使って、田畑をたがやす仕事をしていました。ドブとツキの仕事は少しでも農作地を広げるために、森林の木を伐り、根っこを引き抜き、草を刈ることでした。

ツキはまだ幼かったので、ドブのあとについて、小さな雑草を抜いていました。

 

二級天使はまずエブのところにいきました。ぬかりなく、ちょっとした魔法使いのかっこうをしていました。

「おい、エブよ、おまえは兵士になって、戦争をして国王になりたいというのが夢だったな」

「そうだが、それがどうした」

二級天使はニヤリと笑って、

「では、戦争に必要な兵隊とその牛とを、とりかえっこしてもイイぞ」

「そんな兵隊がどこにいるんだ」

二級天使は、ざるにいっぱいの麦わらを差し出して、それをひとつかみ、バラバラとまきました。すると、麦わらは数千人の兵隊になりました。

「どうだ、ひとつかみで数千人の兵隊、それが、ざるいっぱいだ。これでおまえはいまからその隊長さんだ。この国の城に攻めこんだら、あっというまに、この国はおまえのものだ。そのときは、王様の首はハネてもイイが、お姫さまは生かしておいて嫁さんにすればイイ」

エブはよろこんで、ざるの麦わらと牛をかえっこしました。

そうして二級天使のいうとおりに、その兵隊を使って戦争を起こし、あっというまに国王になりました。

 

次に二級天使はビブのところにいきました。今度は大金持ちのかっこうをしています。

「おい、ビブよ、お前は私のように大金持ちになりたいのだろう。ありあまる金貨と、その馬とを、とりかえっこしてやってもイイぞ」

「そんな金貨がどこににあるんだ」

二級天使は、ざるにいっぱいの麦わらを差し出して、それをひとつかみ、バラバラとまきました。すると、麦わらはすべて金貨になってふってきました。

ビブはよろこんで、馬と、ざるいっぱいの麦わらをかえっこしました。

「それから、いいかよく聞けビブよ。金貨というのは使い切ってしまえばなくなるものだ。おまえは兄のエブの国へいけ」

「エブ兄さんの国って」

「エブは牛と兵隊をかえっこして、たったいまこの国の王さまになったのだ。いまでは兵隊の数は数万人以上だ。ところが、この兵隊たちを食わせていくのには、食料を買う金貨がいる。そこでその金貨を使うのだ」

「でも、使い切ればなくなるっていったじゃないか」

「エブは国王だ。そこで、国の民から税金をとりたてるように命令させればイイ」

「なるほど、そうすれば金貨がなくなることはナイな。おまけにエブ兄さんと助け合って、オレも商売ができる」

ビブは大よろこびでエブのところにでかけ、二級天使のいうとおりにしました。

2017年2月14日 (火)

夢幻の函 Phantom share 31

ドブ記

 

 

ある天国のお昼すぎです。

あんまり神さまがたいくつそうにしていたので、大天使のルシフが近づいてきました。

「ヤハイさま、ずいぶんと、たいくつそうですね」

ヤハイというのは、神さまのなまえです。

「そんなふうにみえるかな」

ヤハイは大きなあくびをしました。

「どうです、このまえつくった、ヒトを使って、遊んでみませんか」

「ヒト、そんなものつくったかな」

「いっしょにつくったじゃありませんか。わたくしたちとよく似たのを」

「そういや、そうだったな。それで、どんな遊びをするんだ」

「試してみるんですよ」

「試すって、何を」

「ヒトが、どれだけヤハイさまのことを信仰しているか、そいつを試してみるんです」

「オモシロイかな」

「そりゃあ、オモシロイですよ」

「じゃあ、やってみるか」

神さまは、目をまんまろにして、わくわくしながらルシフをみつめました。

「で、ナニをどうする」

「まず、遊ぶあいてをえらびましょう」

そういうとルシフは、てきとうに地上に向けて指をさしました。

 

ルシフの指先の地上。そこには、三人の兄弟と、一人の娘と、その父親と母親が住んでいる農作地と小屋のような家と、小さな納屋がありました。

いちばん上の兄はエブ、二番目がビブ、三番目はドブという名で、末娘の名はツキでした。

農作地といっても持っている田畑は少なく、牛と山羊と馬が一頭ずつ、納屋のそばに飼われているのでした。

 

「あのものたちをどう試すのか」

と、ヤハイはルシフにたずねました。

「それは、わたくしの手下の二級天使にやらせます。なあに、ヒトのことですから、わざわいがふりかかれば、すぐにヤハイさまを呪いますし、うらみますよ」

「呪われたり、うらまれたりは、ヤだな」

「いえいえ、そこで救ってやるのです。そうしたら、あのものたちは、また神、ヤハイさまをあがめます」

「なるほど、しかし、そんなことがオモシロイのかな」

「オモシロクするんですよ」

ルシフがたのしそうに笑うと、ヤハイもうなずいて笑いました。

 

ルシフの手下の二級天使が、すぐに兄弟と娘、両親の情報をルシフにしらせてきました。

「兄のエブは、びんぼうな暮らしがイヤで、兵士になって戦争にいき、やがては国王になる夢などをもっています。ビブもびんぼうから逃げて、大金持ちになりたいと思っているようです。ドブとやらは、少しバカのようで、とくに何も考えてはいません。ツキという娘は口がきけませんし、耳がきこえません。父親と母親は、もうなにもかもあきらめています」

「戦争に国王か。それと大金持ちだな。よくもそんな、だいそれた出来もしないことを。しかし夢や望みは大きいほうが、やぶれたときのショックも大きい。ドブというのはバカのようだが、バカはバカなりに欲しいものもあろう」

二級天使はルシフの命令で、地上におりていきました。

2017年2月13日 (月)

夢幻の函 Phantom share 30

「本質(タチ)はどうしようもナイ。しかし、情況は変えていける。要はそのみきわめということかの」

 「の」ばかりだな。

 なるほど、それで夢幻「の」函か。なにがなるほどなのか、なんだかな。洒落にもならんワ。

 比目魚の禅坊主は、そういい残すと、今度こそ、何処かへ去った。

が、さらに、

去りぎわに、

「虹だけは、抱いていくがいい」

 と、最後っ屁だ。

こういうillusionは嫌いではナイけど。

私は、プラトンからアリストテレス、カント、ヘーゲル、シェリング、スピノザ、キルケゴール、ハイデガー、フッサール、マルクス、バクーニン、ソシュール、ウィトゲンシュタイン、フーコーと時系列を追っていって、お復習いし、デリダのデコンストラクション(déconstruction脱構築)までやってくると、なるほど、その考え方は、昨今いわれているsamplingremix というcategoryに置き換えられるナ、と、漠としてバクしていた。貘は夢を食べるというからな。私は私の夢を食っていたのだ。

ほう、虹ね。たしかにありゃあ、そうだワなあ。

 prism、断片化した光を、デフラグする。そういうの、抱いてみたいね。

 

「これだけ焼けると、どっちが北だか南だか、焼けなくてもワカラナイんだけど」

レイさん・ハルちゃん「あちらが小樽、あちらが津軽。海と山の位置でワカリマス」

 林檎のふるさとは、北国の街。トボトボと、孕み女二人を供にに、焼け跡をいく。

 いまだ燻る瓦礫の中に、呆然と立っているのは、誰だろう。

「オレは、これでも童話作家でね。とはいえ、持ち出せた原稿は、この一掴みだけなんだけどナ」

 白髪交じりの長髪はいう。いって、手にしている原稿らしきものを私に差し出した。

「童話作家ね。とすると、これも、作品でござんすか」

「ああ、そうだ。書き終わった頃に、ちょうど家のほうも丸焼けで、オレはこの原稿だけ抱き抱えて、押っ取り刀さ」

「拝読いたします」

2017年2月11日 (土)

夢幻の函 Phantom share 29

「ところで、御坊は、蘇生術は知らんかの」

 おんや、口調がうつったナ。

「蘇生術というと、死人(しびと)を生き返らせるバテレン魔術のようなアレか」

「それ」

「やったことはナイが、方法なら一応学んだ」

 えっっっ、

「頭に木の葉を乗せて、アダブカダブラと唱える」

 嘘だろ。

「そんな簡単なものなんですか」

「どんなに難しいことをしても、石ころから金、goldは造れん。錬金術は成功した試しはナイ。しかし、あのフランケンシュタイン博士が造ったmonsterにしても、ようするに、肉のつぎはぎに墓場から掘り出した他人の脳髄を入れただけだからの」

 そういわれれば、そうだけど。

「一度、やってみるかナ」

 曹洞宗三休は、腰をあげた。

 で、レイさんとハルちゃんは蘇生した。

 夢だからナ。そんなもんなんだろう。

「肉体は蘇ったが、魂が抜けたままだ。どれ、では、魂入れをやるか」

 と、御坊は、ご立派な法根を下半身から剥き出しにすると、

「なあに、ちょっと目交(まぐ)あえば、よろしい」

 たしか、菩薩行の中に、そういう修行法もあるとは聞いていたが、いわゆる座位のラーゲで、二人にpenisを、いや、魂をいれなすった。

「生命(いのち)の交わりだからの」

 たしかに、そういわれれば、

「では、拙僧は失礼する。どうもケツカッチンでな」

 と、坊さんの姿は、もはや、ナイ。

 のかと思ったら、まだいるんだから、夢だなあ。

レイ・ハルちゃん「私たち妊娠しました」

 と、ザ・ピーナッツのように二人声を合わせていう。これまた夢だからナア。

「あんたかよ、孕ませたのは」

 と、坊主に訊ねたが、

「かも知れぬ」

 涼しい顔すんじゃナイよ。

「なあ、夢みる御仁よ。貴公は、こんなことを書いたな。女とは、

狡猾である。

自己中心的である。

他人の悪口を広めることが何より好きである。

姑息である。

嘘つきである」

 まあ、そう書いたかなあ。

「しかし、それは、みなおまえさんの〈思い〉に過ぎぬ。難しくいうなら〈了解〉というものじゃ。而、了解とはまたおまえさんの〈表現〉に過ぎぬ」

 正体を現したか禅坊主。さっきとは口調も趣もチガウ。

「『この世』というのが何故在るのか、それはワカラナイ。ワカラナイものは考えてもしょうがない。即ち〈不説〉。おまえさんが『この世』というとき、「この」というのはどの「この」か、それはおまえさんの了解において成り立っておるのだ。つまりは、おまえさんの〈表現〉じゃ。〔この世がナンであるのか〕という問いをたてれば、その命題にはおまえさんの表現がすでに含まれておる。了解とは表現と等価だからの。ただ、表現は加速度で変容する。加速度とは、おまえさんとこの世との微分係数をさらに微分して求められるものだからの。それは、現実と虚構の座標系じゃ。座標も接点を通過する線分の傾斜も、おまえさんとこの世との係数だからの。しかしの、表現であれば、変容もするというものじゃ。よって、『この世』をおまえさんがどう表現するかということだけが問題になるだけじゃ。

〔世界(この世)は私の表現であり、私は世界(この世)の表現である〕という、おまえさんの命題は、純粋疎外というものじゃ。この疎外を加速度をもった表現で倒していく。いいかえれば、〔私を表現する、ではなく私が、どう表現するか〕じゃ。つまりは、最後の敵、ほんとうに倒すものが、おのれ自身だと、禅坊主がよく口にするのは、このことだの。人生に勝ちは無い。おのれを倒し、さらにまた倒して、是、人生を倒すと云う。負けても、人生は〈倒せる〉。それが、『この世』における勝負、かつ、菩薩道の修行というものじゃ」

 んで、レイさんとハルちゃんの妊娠は、どうなる「の」。

2017年2月 9日 (木)

夢幻の函 Phantom share 28

私としては、レイさんとハルちゃんの蘇生を試みることにする。あれだけの宗教派閥が共生、共有してきた函館だ。どこかで蘇生術の研究をしている輩か族がいるやも知れぬ。と、私は比目魚いた。比目魚じゃねえだろ、閃いただろ。でも、比目魚も焼いて食っちまえ。

 えーと、黒ミサとかやってるとこはござんせんか。山田風太郎さんふうの、怪異な寺社はござんせんか。都筑道夫さんの伝奇小説ふうの屋敷はござんせんか。

 こういうとき、探しているものとはまったく関係のナイものが出没するのも夢の方程式だが、つまり、関数が等号(=)でむすべないということなのだが、比目魚だけは等価形態と相対的価値形態が等合していたようで、比目魚を焼いている雲水くずれ(だいぶんに汚い雲水、だからまあ、逆に信用出来るかも)が現れた。

「坊主が魚なんかを食っていいのかね」

 私は皮肉のつもりで、そう訊ねた。

「魚というても、これは布施だからの。それは拒むことなく受けねばならない。五種浄肉の一つということじゃな」

 なるほど。仏教は方便が多いからな。

 と、思った私のココロを観透かしたかのように、

「方便というのも方便での。釈尊がそれを〈方便〉としたので、ああ、方便かと修行者も信者も思うワケじゃな。しかし、方便が〈法〉ということも釈尊はおみ通しだったワケじゃの。嘘も方便というが、方便は嘘ではナイ。まっこと、うまく出来とるナ、仏教というものワ」

 だいぶんに年季の入っている坊主のようだ。たぶん、禅宗なんだろうけど。

「曹洞宗のくずれ坊主で、三休と申す」

 訊く前に答えた。千眼力とやらの神通力でもあるのかしらん。

「つまり、マルクスの最もアヤシイところは、『資本論』の最初のところ、そうそう、第1部「資本の生産家庭」/第一編 商品と貨幣/、あれね、交換価値形態から貨幣を導き出すところでな、あれは、あたかも、価値形態を等号でむすんでいくことによって、貨幣を導いているようにみえるのだが、実はその逆だ。もともと貨幣という交換価値形態を導くためにやっとることだから、貨幣が導かれるのはアタリマエなんじゃな」

 あるようだな、千眼通。

「マルクスがどれだけ数学とやらに通じていたかどうかは、知らん。しかし、拙僧の乏しい数学理解程度でも、あの等価形態と相対的価値形態をやたらとイコールで並べるのはどうかと思う。とはいえ、そうしないと肝腎の貨幣は出てこないからなあ。交換価値が同じだから、イコールで並べる。そのとき〈交換価値〉には/貨幣に変換したときの価値/というものがすでに含まれている。あれらは、物々交換による交換価値ではなくて、貨幣に変換したら、という前提が秘密のうちに入り込んでいる。ここは狡いのか、マルクスが数学について無知だったのか、その何れかじゃな。ともかくも、あの方程式はアヤシイ」

 ただの千眼通の年季じゃねえな、この坊主。

「まあ、比目魚、食え」

 あっどうも、いただきます。

「それに、マルクスによると、労働それ自体には価値はナイことになっとる。つまりは労働の対象化こそが価値ということだな。ところが、それはそれでマチガッテはおらんのじゃが、そのまんま認めてしまうと、ちと面倒になる。なんとならば、曹洞宗の修行は生活そのものだからな。労働も飯の食い方、つまり箸の使い方ですら修行じゃ。これらに価値がナイといわれては、修行が成り立たん」

 ますますもって、いや、もうマルクスはイイよ。

「まあ、そんなことは拙僧の解きたいことではナイ」

「御坊は、何の答を求めてらっしゃるんでござんしょうか」

 比目魚をご馳走になったので、態度を変えちゃう。

「簡単にいうと、/何故、ゴータマ・シッダールタが彼の苦悩を引っ提げて出家、彼の場合は、王子であるという享楽も家庭も棄てての出家なんじゃが、そうしなければならなかったか/だのう」

 だのう、といわれても、私の堕脳では、ナニをいわれているのかワカラナイ。

「あたかもそれが、運命のように、釈尊自身が否定した因果のように、突発的に、偶発的に、インシデンタルに、だ。誰でもよかったんじゃナイのかなあ。なのに、では、何故、シッダールタだったのか。彼でなければならなかったのは、何故か。そうなると、『法華経』の「如来寿量品」でも信じなければならなくなる」

「曹洞宗は、『法華経』を認めていないんですか」

「そうではナイと拙僧は思っている。『法華経』は要する/修行に分け隔てナシ/というスローガンだからの。開祖、道元の『正法眼蔵』は少なからず、『法華経』の影響がみられるように思う。何処ここということは、劣学の拙僧には指摘は出来んが」

「『法華経』というのは、あの大パノラマ劇場ですね」

「大パノラマじゃが、いうておることは、たった一つだけじゃ。さっきもいうたように/修行すれば誰でも仏になれる/これだけ」

「なんか、ナンかのcatch copyみたいですね」

「『法華経』を記したのは、かなりの智恵者、優れた学僧か、碩学の僧だろう。単数か複数か、拙僧の考えでは複数のものによってかなり意図的に書かれたと思われる。意図的にというのは、仏教の情況における問題をいっきに解決しようという目論見がみてとれるところからワカル。ま、しかし、問題はシッダールタだが」

 うーん、

「それはですね、御坊、こういうことじゃナイんですか」

「どういうこと」

「いっぱいいたんですよ、シッダールタみたいなのが、当時、ゴロゴロと、で、その中で彼が何とか成功したんですよ、悟りとかに。アトのものは全員失敗したので歴史に残らなかっただけ」

「それは、拙僧も、そう考えた。では、何故、シッダールタが成功したのか。こうなると、堂々巡りの自動律、同義反復になってしまう」

 そりゃ、まあ、運命、いや、仏教は運命論じゃナイからなあ。

「因果応報は、釈迦牟尼の考えではナイ。あたかもそうであるように後生が取り違えたんじゃが、さまざまな出来事には、つまり結果には原因が在る、というのはバラモンの考えだ。釈迦牟尼は、それに反撥して、結果にはどんな原因も無いと、こう解いた。つまりラプラスの悪魔の否定を物理学よりも数千年早くみつけたんじゃな」

 じゃあ、あれかい、

「そう、それだね。仏陀の思想は、いまでいう量子力学に最も近い」

 私もエライ夢をみてるな。

「そうすると、」

「そうそう、いわゆる〈縁〉という在って無きが如くのような結びつきじゃな」

 どうも、夢の中まで、私の悪い癖、論理癖、理屈が蔓延ってきそうなので、話題転換することにした。

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