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カテゴリー「ブログ小説 」の記事

2019年8月 2日 (金)

第二十一回

 切場銑十郎、例の黒塗りの鞘の赤毛結社の剣客だが、どうも自分のことは忘れられているのではナイだろうかと、多少不安げにはなっていた。
 とはいえ、勇んで右近との立ち会いを目的に結社のagitpunktを出たはいいが、その右近とどう出逢えばいいのか。いったい右近は何のため、誰のための仕事をしているのかさへもおぼろげになってきていた。
 たしか、十万両、簪、朱鷺姫とかいうておったな。で、それは何だっけ。こういうのを剣客の維新ボケと、当代では揶揄していたらしい。急激に世界の変化についていけないモノノフの哀れともいえた。
 ぶらりと、いやぼんやりと維新の町、煉瓦町通りと称される商店街を歩く切場銑十郎に近づく者があった。なんのことはナイ行商人なのだが、ワザとなのか脱ぐのを忘れたのか黒覆面をしている。といって、あの左近の遭遇した全裸湯浴の女ではナイ。これまた忘れ去られようとしていた卍組の忍び、手下の変装だ。
 つまり、黒覆面はワザとのボケのウケ狙いとみえる。
「旦那、なんだか困った顔をしてらっしゃいますが、ズバリ、当ててみましょうか。楠木右近をお探しなんでやしょ」
「ナニっ、貴様、何者だ。ただの行商ではナイことはすぐに見抜いたが」
 見抜いたも何も、覆面してんだから。
「あっしは、ただの行商人ではござんせん。実は、覆面を売り歩いております」
 かなり苦しいイイワケ、辻褄合わせだったが、なんとかスジは通っている(のかな)。
「妙なものを売っておるんだな」
「当世、いろんなモノが商売の種(ネタ)になりますゆえ」
「拙者は、」
「存じております。切場銑十郎様でござんすね。赤毛結社随一の腕利きとも聞いております。あっしは、卍組の、」
 と、つい、自らの組織を口に滑らせそうになったところも、手下らしい。
「なに、まんじ、」
「いえ、まんじゅうも売ってまして」
 まあ、誰でもイイわ、ちょっとアホのようだから。それより、こやつ右近の居場所を知っている様な口ぶり。切場銑十郎、懐に手を入れると、
「幾らで買えばよい、右近の居所」
「こいつはハナシがはええ。いえ、銭は、右近が倒されてからでようござんす。実は、楠木右近が尾張の港辺りに出没したという噂がござんす」
「尾張、ずいぶんと遠いな」
「いえいえ、馬なら早駆けで半日もあれば」
 と、覆面行商人の指さすところに、馬が一頭。
「随分と用意がいいな」
「心得ておりますので」
 切場銑十郎が馬に跨がると、覆面の行商人は竹の皮で包んだ握り飯と、竹筒を差し出した。
「どうぞ、召し上がりながら、参らせませ」
「ますます準備がよいのう」
「心得ておりますので」
 手綱を引くと、切場銑十郎、街道への方へ馬を駆った。
「勝てるとはおもわないんだけどなぁ。まあ、いろいろヤラセて、右近の弱点を探せというお頭のmissionだからなあ」
 手下は覆面をとった。覆面の造作とあまり変わらない顔が現れた。覆面はあまり意味がなかったようだ。
「お頭、うまくいきました」
 と、いままで何処に隠れていたのか、ご隠居姿の老人が現れた。さすがの隠れ方だ。こちらも覆面をしている。忍法面隠しだろう。
ともかく、この二人のplotになるとgagが懐かしい『魁、クロマティ高校』になってしまう作者だった。
「よし、では、後を追うぞ。たぶんあの切場銑十郎は右近に敗れるだろうが、右近の〔鍔鳴り〕の研究材料にはなるだろう」
「すげえ作戦ですね」
「名付けて、忍法かませ犬。おい、つまらん忍法なんぞ名乗らせていないで、我々の馬は何処だ」
「我々の馬って」
「だから、あの牢人を追わねば意味がナイだろう」
「そっ、そ、そうですね」
「むっ、キサマ、ひょっとして、」
「いえ、その資金が不足していまして、でも、安心して下さい。さすがに維新の世の中です。馬ではありませんが、この二頭を」
「おう、これはっっってって、これはロバじゃん」
「ダメでしたか」
「驢馬で(と一応漢字で喋ったが)、馬が追えるか」
「でも、たしか『熱血カクタス』という正義の味方はロバに乗ってましたよ。歌だって覚えています。~走れカクタスッ砂塵を蹴って~」
「うーんむむ。まあ、何もいないよりマシかも知れん」
「でしょ」
「仕方ない、これで追うか。それはそうと、オマエもう覆面をとってイイぞ」
「脱いでますよ、とっくに」
 うーん、ますますクロマってきた。

2019年5月12日 (日)

第九回

 ところで、この余りに余っていて寄せ集められた元侍の中にあの柳生玄十郎も含まれていたのは運命の悪戯としかいいようがナイのだが、そうすることによって、物語の展開がオモシロクなるだろうという作者の勝手なideaVektorなのはいうまでもナイ。
 手っとり早く夜半。いつの間にか尾張の国まで登場人物たちの歩は進んでいる。
 黒装束とはいえ、日本のものとはあきらかにチガウ風体の者が数名、渡屋の表戸の前に立つと、そのまま闇に溶けるようにして消えた。
 蔵前には余り人たちが十数名、龕灯(がんどう)を手に見回りについていた。他に店の主人の部屋、家族の部屋の前に数名ずつ。
 まず、蔵前に黒装束がひとり現れた。
「何者っ」
 と、いわれて氏素性を名乗る賊はいない。黒装束は余り人などには目もくれず真っ直ぐ蔵の入り口に迫った。
「こやつっ」
 と、余り人のひとりが抜刀、黒装束を背中から斬り下ろした。ところが手応えがナイ。切っ先はどういうことか蔵の錠前を叩き壊していた。
 この音で残りの余り人は黒装束を取り囲んだ。
「なんという不敵なヤツだ」
「成敗、成敗っ」
 余り人、いっせいに刀を抜くと白刃の襖が出来上がった。だが、黒装束に慌てる様子はナイ。
「そんナモノので、ワタシが斬レるのカネ」
 と、ヒトの声というより、なにか虫が鳴いたような声音で、そういった。
 余り人が握った自身の刀を観ると、業物が木の枝になっている。
 他のものも同様これには慌てた。段平が木の枝だ。
「それがニホンの兵法という、戦法か」
 と、また鈴虫の様な声音。
 この様子を羽秤亜十郎と帆裏藤兵衛は、厠から覗いて盗み見していたが、
「いやあ、呆れたナ。あれが南蛮の魔法かい」
 と帆裏藤兵衛が妙に感心した。
「見事なもんだ」
 羽秤亜十郎は別の意味でこれに関心を示した。
 ところで、いまひとり、慌てがさつく余り人を押し退けるようにして、黒装束の前に進み出た侍があった。柳生玄十郎だ。
「拙者なら、柳の枝でも、お主を倒してみるがナ」
こちらは不敵に笑って、閂差しの柄に手をかけた。

2018年10月30日 (火)

第四十三回

「ところで、羽秤、伴天連幻魔術というのを知っているか」

 突然、帆裏藤兵衛が片目を閉じてそう吐いた。この男が片目を閉じて何かを語るときは、あまり良い報せではナイことを羽秤亜十郎も知っていた。

「伴天連、バテレンというと、あの長崎出島にいた連中のことか」

「出島はもう形骸化している」

「伴天連幻魔術、そういう怪しげな法術だの仙術だの、魔法だのの噂を耳にしたことはあるにはあるが、それがどうした。まさか、」

「そのマサカリかついだ金太郎飴だ。西洋の奇妙な術を使う族が、やはり楠木右近の十万両に興味を示しているという報を、オレの手下(テカ)が手に入れた」

「伴天連幻魔術、ふむ、どんなものかは知らぬが面倒なことになりそうな気はするな」

 

 その頃、不知火朧は遅い晩飯を食べていた。

 食う寝る糞する。これはどんな達人もみな同じ。

 蝿が一匹、朧の周囲を旋回し始めたが、朧の唇がやや尖るようにみえてヒュッと音を発すると、その場で蝿は落ちた。三間先の敵をも倒す朧十忍の一つ、刺息(しそく)。吹き針の類ではナイ。息そのものを鋭い武器にしているのだ。おそらくこれは右近との次の闘いで用いられるのにチガイナイ。

 傷の癒えるのは常人より数倍早い。朧の身体はそんなふうにそれ自体が特殊に出来ている。生まれつきのものだ。それを見込まれて忍びの技を仕込まれた。

 ともかく、右近の刀身の届かぬところからの攻撃、いま思いつくことはその程度のものだ。〈邯鄲〉の術のように毒霧で包むのも手かも知れぬが、その程度の術で倒せる相手ではナイ。

 剣の柄を打つとき、手首が柄に届かぬように自由を奪うという〈闇縛り〉という十忍の一もあるにはあるが、それでも心許ない。

 と、黙考する朧の背に、ある声が聞こえてきた。耳にではナイ。幻聴でもナイ。それは聞き覚えからして師匠だった者の声だ。朧は閉じていた眼を開いた。黒い瞳がその声を観るかのように輝いた。〈観音〉の術。これは無意識の思考を聞き取る術だ。それゆえ、自在には使えない。一種のinspirationのようなものだ。

 声は述べた。

「あのもの〈隠れたるもの〉は、あの世の終わりからこの世のはじまりに来たものだ」

 朧はその声に応じて、

「では、如何にして」

「この世のものに〈隠れたるもの〉が敗れるとはおもえぬが、しかし、ぬしもまた〈隠れたるもの〉の末裔と心得よ」

 ここで、師匠の声は消えた。

 

 四面楚歌どころではナイ。至るところに強者ばかりの敵。時代考証など何処吹く風と、おっととこれは作者の立場。楠木右近は関の麒六を枕にして草の上、寝転がって空の雲を観ている。秘剣鍔鳴りとは如何なる兵法なのか、これだけは作者、出鱈目に書いているワケではナイ。いったい誰がその秘められた謎に気づくのか、また、鍔鳴りが敗れるときがやって来るのか。朱鷺姫と十万両はどこに忘れ去られてしまったのか。

 さらには、海の向こうから〈伴天連幻魔術〉を用いる新しい敵まで登場して、作者渾身の暇つぶしはつづいていく。

 というところで、

シーズン1 了

 

シーズン2は、来年の春頃から連載の予定でござんす。

2018年10月12日 (金)

第三十三回

 分身の術だとおもわれるが、その数が合わせ鏡に映った鏡の如く無限の数に増えていく。

 これには、右近よりも羽秤亜十郎のほうが驚いている。

「こいつぁあ、飽きねえなあ」

 羽秤亜十郎は戯れて影を一つ二つ斬ってみたが、手応えはナイ。それくらいは予想していたらしく、

「やっぱりキリがねえか。じゃあ、オレはオレで右近さんの命、頂くぜ」

 と、下段地擦りに構えた。

 じつに奇妙な構図だ。右近は無数の影にかこまれながら羽秤亜十郎と相対している。

「新陰流、後の先の極意の構えに似てはいるが、似非禅坊主、それも傾斜流の工夫か」

 と、右近は微動だにせず、そう、いう。

「新陰流とはチイっとちがうのさ」

「チガウといえど、後が先になる、先が後になる変化程度だな」

 と、右近は面白そうに羽秤亜十郎を穿った。

「おおっと、そのとおり。お見通しだが、見通されてもどうってことはナイんでえ」

 つまりは、攻撃に対し、撥ね上げるのが先になるか後になるかだけのこと。と、右近は述べたことになる。

 しかし、この撥ね上げを狙った地擦りにはもう一工夫、というか、かなり卑劣な仕掛けがあった。

 それを知ってか、あるいは他にかんがえがあったのか、めずらしく右近は関の麒六を事も無げに抜いた。

 それを観て、羽秤亜十郎は剣先を撥ね上げた。と、刀身が柄から抜けて飛んだ。これが仕掛けだ。間合いも見切りもあったものではナイ。刀身は、矢のように右近の胸に向かって飛んだのだ。

 これを右近が己れの抜き身で弾いたかというと、そうではナイ。羽秤亜十郎の飛ばした刀身はいきなり曲線を描いた。カーブを切ったといってよい。それが、無数に蠢く朧の影の一つに突き刺さった。

「ううっ」

 呻いたのは、朧の影だ。

 一瞬にして影は一つとなり、それが不知火朧の実体だということがワカッタ。羽秤亜十郎の抜いた刀身は朧の太股を貫いている。

「刀をオモチャにするとは、所詮はスタスタ坊主の剣術。女の太股が好きなところは、久米の仙人かも知れぬが」

 朧にとってはトバッチリなのか、あるいは右近の狙いどおりなのか、何れにせよ、たまったものではナイ。

「何故、実体に気づいたっ」

 と、右近に発したはまさに朧の慟哭。

「そんなことは、刺さった刀にでも訊くがイイ」

 柳に風とその咆哮を受け流し、右近は関の麒六を鞘に納めた。

「これ以上の闘いは、双方とも無理だと存ずるが」

 いわれるまでもなく、羽秤亜十郎も朧も、遁走した。

2018年9月18日 (火)

十四回

 その鍔鳴りの最中にsceneは移る。

 アタリマエのことだが、鎖鎌は敵対する相手に距離をとらねば戦えない。しかし、敵対する楠木右近は団 衣紋のすぐ傍らから離れない。左右に動くどころではナイ。飛ぼうが、転がろうが、まるで背後霊のように寄り添っているのだ。

 振り向いても、振り向いても、右近は背中に在る。いったいこんなことが、いやそれよりも、これはどうすればイイのか。団 衣紋は焦りの色が隠せない。

「なな、何故だっ。如何なる術、兵法を用いている」

 それが叫び声になった。

「術でも兵法でもナイ。これが鎖鎌を封ずる最善の手段だということは、おぬしも察しているはずだ。いうておく、おぬしはすでに、秘剣鍔鳴りの中に在る」

「ワッ、ワカラン」

「ワカッテもらおうとはおもわぬ。もちろん、ワカルものでもナイ。ワカッタところで、おぬしに成す術はナイ」

 団 衣紋の焦りはここで恐怖に転じた。

「た、戦え。まともにヤロウじゃナイか、右近。尋常に勝負せい」

「尋常な勝負。奇怪(おか)しなことをいうときではあるまい。古今、勝負は勝ちと負け。その何れかに決まっている。そうして、おぬしに勝ち目はナイ。おとなしく負けを認めれば、離れてもやろう」

 冗談ではナイ。団 衣紋もまた剣客。離れたときは一太刀あびせられていることくらいは承知している。では、参ったとでもいって土下座すればイイのか。まさか、道場剣術でもあるまいし。

 と、このとき、何処からか、団 衣紋に向けて手裏剣らしきものが飛来してきた。団 衣紋は、それを分銅で叩き落として、

「何者っ」

「俺だ」

 と、団 衣紋のその声に向かって、駆け寄ってきた者がある。あの、〈薩摩 白波五人衆〉の中にいた一人、菊間佐野介と名乗ったオトコだ。

「おう、菊間佐野介ではないか。どうしてここへ」

「それより、団 衣紋どのは、何をしてござるのだ」

「何をと・・」

 振り向いたが、右近の姿は無い。

「いや、その、つまり。それがしは、楠木右近との戦いの最中だったのだが」

 たしに、そのはずだった。

 これは恥ではナイか。そう、団 衣紋は感じ取った。菊間佐野介は周囲をみやると、

「右近とやらは、何処に在る」

 と、問うた。

「今し方まで、それがしの鎖の、いや、背中に、いや」

「団 衣紋どの、しっかりされよ。うぬは、我らが首魁ぞ」

 だから、恥だとおもったのだ。

「拙者が、手裏剣を投げなければ、団 衣紋どのは、何やら鎖をぶんまわしながら、崖へ崖へと、あたかも、誘われて、そのまま、」

体よく右近の術中で踊らされていたらしい。

「鍔鳴りとやらの兵法、侮っていたわ。しかし、団 衣紋ともあろうものが、そのような瞞(まやか)しやら、妖々な怪しき術に落とされるとは、おもいもせなんだ」

 なんとか、イイワケを繕った。

「では、噂に聞く、鍔鳴りの秘剣とは、そのような催眠の、」

「いや、そんなものに陥るワシではナイ」

「然らば」

「わからぬ。ワカランが菊間、彼(か)の兵法、鍔鳴りとやら予想に違わぬ恐るべき剣ぞ。油断めさるなよ」

 油断していたのは、もちろん団 衣紋なのだが。

 而(しかして)、右近は何処に。

 岩礁にぶつかる波の音だけが騒がしい。

2017年9月16日 (土)

〔デン魔大戦編〕3

 

「何が来るって。何かが来るっていわなかったか」

「いいました」ハルちゃんレイさん。

「もう一度いってくれるとありがたいんだけどな」

「デンマ ガ キマス」もう一度いった。

「えらく素直というか、単純なヒト、いやヒトガタ形態の生物だな」

「デンマ ガ キマス」また、いった。

 私とハルちゃんレイさんは顔をみあわせて首を傾げた。

「デンマとかが来るっていったよな」

「いいました。そう聞こえました」ハルちゃん。

「いいました。そう聞こえました」レイさん。

「いいよ、二人一緒で。ところで、デンマというのは、何」

「殆どマッサージには使われることのナイ、電動マッサージ機具のことではナイでしょうか」ハルちゃんレイさん。

「いわゆるあの電マなのっ」

「まず、マッサージには使われることのナイ、電動マッサージ機具のことだと思います」ハルちゃんレイさん。

「そんなものが、何処から、何のために来るのか。それが来たからどうなるのか。それとこの生命体との関係や如何に」

「そもそも、デンマというのが何なのかワカリマセン」ハルちゃんレイさん。

「だから、マッサージには使わない電動マッサージ機具なんでしょ」

「では、ナイような気がします」ハルちゃんレイさん。

「デンマ ガ キマス」

 でも、来るっていってるから来るんだろう。

「ねえ、えーと、ワカンナイあなた。あなたは、何処から現れた、つまり、来たの」

 そう問うと、人魚(というふうに面倒だからこれからはそう記す)は虚空をみつめながら、いや、空をみてキョロキョロとし始めた。

「何か、お探しですか」

「虚空ッテ、ドノ辺 カシラァァ、マエッ カシラァァ ミギッ」

 さあ、知らんなあ。

「マア、イイか。ワタシ ハ 銀河連邦連合軍第二防衛軍団第15師団所属の特殊攻撃隊のモノです」

 次第にコトバが流暢になってきた。流暢にはなってきたが、いっていることは、やはりワカラナイ。なんとなくSFふうなんだけど、そういうふうにすると、その方面に詳しい(つまりオタクとも呼ばれることもある)連中に失笑されるから、ヤ、なんだけど。

と、こういう情況、場面、になると忽然突然に姿を現すのに決まっている御仁がやはり姿をあらわした。

2017年2月 2日 (木)

夢幻の函 Phantom share 21

例外があるということは認めるが、その例外とは深い関係になったことがナイので、確かなことはいえないが、

女とは、

 狡猾である。

 自己中心的である。

 他人の悪口を広めることが何より好きである。

というふうに、漫画家の須藤祐実『ミッドナイトブルー』で書いてたな。女性がいってんだから、ほんとうにそうなんだろう。ほんとうにそうだったもんな。そこに、

 嘘つきである。

 姑息である(これは、よく狡いと使い方を間違われるが、その場凌ぎといことだ)

と、付け加えてと、そういや「女は生まれながらにして女優である」てのがあったな。誰がいったのか、記憶にナイけど。ついでにいうなら、貧困のお針子から世界的ナンタラにまでになった、ココ・シャネルは「男は子供だということ、それさへ知っていれば、他に知識は要らない」みたいなことをいってたな。

「女の嘘は勘弁してやれ」というのが、私の先輩、恩人の遺したコトバだったが、「しかし、とり返しのつかない嘘は別だ」と、付け加えた。

最初の勘弁出来る嘘というのは、保身のための嘘で、それが両者の関係に溝をつくるかも知れないという危惧からきている。私の最初の関係者は「私、おでんの中ではコンニャクが好き」という嘘をついた。おでんの中ではコンニャクがもっとも安かったからだ。だから私も「俺は梅干しでビールを飲むのが好きなんだ」という嘘をいった。

その女性の産んだ子供は私の子供ではなかった。しかし、まあ、イイではないか。その子供が18になるまで、育てる決心をして、そんな事情で、私はおそらく〈愛した〉のだと思う女性三人と、憎まれながら別れた。泣かれたね二人には。アトの一人は、どうだったっけ。

二人目の生活者は、私を三年間棄てた。十八年の生活の最初の十年で私は人生の幸福を総て使い切った。残りの八年のうち最後の三年は、私は棄てられた犬だった。でもまあイイか。十年は幸せだったんだから。

三度目は、アトガマをみつけたらしく、ワザと私に嫌われる嘘をついたが、アトガマが思うように崩せず、ヨリをもどしたいと泣いた。けれどもそういう涙を私は最大値で嫌悪する。このひとのいうことヤルことナスことは徹頭徹尾、ハナからケツまで嘘だったんだが、パフォーマンスが上手くて、勘弁してたが(というより騙されているなあと思いつつ赦免してたが)、取り返しのつかないのは、ちょっとなあ。

例外は認めるけども、だ。例外、例外、早く来い。せめて夢の中なんだから、ねえ。

そんな現世、現実世界のことを朧朧と思いながら、私は歩いた。何処へ、黒煙あげる函館市内に無勝手(向かって)。

2017年1月15日 (日)

夢幻の函 Phantom share⑩

そんなに驚くほどdrasticな発言ではナイ。法然や親鸞が悟った話など聞いたことはナイ。しかし、彼らにも信念はあった。その信念は何処からきていたのだろうか。信念の根拠。確信の確信。信念おめでとう。ただのドクサ(思い込み)なんじゃねえのぉっ。兵法、剣法じゃないんだからさ、悟りの目録、免許皆伝なんてものはいくらなんでも(ソレがあったらしい)。あんたは悟った、という「御免状」は、室町、鎌倉の時代には発行されていたのだ。さっきからすれ違う車の運転席に座っているのが総て坊主で、デコちんにスタンプで「免」と捺印されていたことはワカッテいる。そんなことを観逃す夢ではナイ。

「しかしね、曹洞宗の道元によれば、というか、これはもう臨済宗でもそうなんだけど、悟りというのは、自分の外にあるものではナイので、悟りというのは、どっかから得るものではなくて、自らの何かを、ナニカ〈が〉かな、つまり、開かれるという、というか、気がつくのかなあ、姿三四郎だって、泥沼の杭につかまって、蓮の花が咲いたとき、柔道とは何かを悟った、てなふうになってますから」

「でも、修行している坊さんは、悟るまでに死ぬ方のほうが多いんでしょ」

 そういわれれば、そうだナ。人間の寿命って100年程度だろ、長生きしても。

「私、法華のひとに聞いたんですけど、というのも北海道はホッケが美味しいからなんですけど、仏陀になったシッダールタとかスッターモンダだったかだって、如来になるまでには天文学的な時間の修行をしてるんでしょ、何十億年の何十億倍の、そのまた何十億倍だって、そのホッケの方がいってましたよ。悟りを開く前にホッケのヒラキ」

「そんなふうに仏典、教典には書かれてますね」

「そんな時間、生きていられたということは、すでにもうその時点で、ソレって人間じゃナイんじゃナイですか。人間わずか五十年は信長でしたっけ。でもいまは精一杯で百年としても、そんな短時間で如来やその前の菩薩にもなれないんじゃナイですか。弥勒菩薩って五十七億年くらいアトに、悟りを開いて人類を救済に来るっていわれてますが、五十億年生きていることが出来るんですか、ソレ。ソレってナンなんですか、その方たち。そんなに生きてるのに、まだ如来じゃなくて、菩薩ですよ。で、やっと悟って何番目かの如来になるんでしょ。どうなってんでしょうね。つまるところ、悟りも成仏も、時間的に常識で考えればヒトには無理なんじゃナイのかなあ」

 drasticだ。というより、ハルちゃんはどうしてそんなに急に頭が良くなったのか。もちろん、それはこれが夢だからだろうけど。

「そこで、ですね、法華経という経文、教典が創られるワケですよ」

「というと、」

「法華経においては、ヒトも菩薩も男も女もみんな仏、如来になれますよと、書かれてあるんです」

「そんな虎の巻というか、アンチョコみたいなお経があるんですか」

 如来(仏)の定義なんてのは、宗派によてチガウからなあ。上座(小乗)では釈迦牟尼仏しか信仰しない。であるのに、他の如来も認めてはいる。

「ほんとうはね、法華経は、小乗だ大乗だ男だ女だ出家だ在家だ菩薩だ声聞だ、と、ごちゃごちゃいってるのに終止符を打つために創られたもののようですね。ところが、これがサンスクリット原典から漢語に訳され、さらに日本語に訳されている間に、その本質はおおかた挫折、頓挫したようです。何故、翻訳されている途上でそんなことになたかというとね、サンスクリット語が読める当時のエライ坊さんが、弟子に口述で法華経を筆記させるんですが、このエライ坊さんも、けっこうな年寄りだったので、記憶が曖昧で、そのうえ、思い出すときに、うーんとか、ああっととか、ええととか、声にするワケです。さらに痰を切るための咳払いやらもオアッとか、ゲロッやらケッやらとかやるでしょ、その音も弟子たちは、何とか漢字にして書き写したんです。で、どうも繋ぎが変だなあという部分は無理やりの意味付けをしたもんだから、すでに漢語訳のところで原典が減点になっちゃったのね」

2017年1月11日 (水)

夢幻の函 Phantom share⑦

「売春しているのが多いのは、たいてい音大の女子大生。音大ってお金かかるんですよ。といって、ふつうのバイトに時間とられてたら楽器の練習出来ないし、1時間くらいで5万円にはなる仕事が手っとり早いんです。私の知ってるコなんかは、一週間のうち丸一日をArbeit dayにして、一日で50万稼ぎますよ」

 そりゃあ、もう、慰安婦がどうのこうのの世界じゃないな。しかし、アルバイトがドイツ語だとは知らなかった。(Arbeitと、頭文字が大文字になるのよね)

 けれどもよ、戦後、日本に返還だか変換だかされるまでの沖縄の、女性の売春経験率は八割近くあったそうで、これは全女性の80%ということだから、乳幼児や老婦を除外すると、殆どの女性は売って食っての生活だったということになる。夢の中とはいえ、これは事実なのだ。

 しかし、夢なんだから、悪夢はもうイイよ。その大沼湖はまだなのかな。なんでこんな霧が出てんのかな。霧は摩周湖だろ。レイちゃんはいくらで買えるのかな。

 車が急カーブをきって登り道に入ると、霧がはれるとともに視界もはれ、とたんにブリキで、大沼湖が眼前に現れた。カナダかここは、と、行ったこともない外国の風景を突きつけられた。自然の人工湖という、けったいな表現がピッタリな、巨きな庭園に造成されたような湖で、前方にみえる山は頂上付近が欠け飛んでいる。つまりあの欠け飛んだ部分が地上に落下して、そこに雨水や伏流水が流れ込み、この景観が魔法使いの棒を振る瞬間にして、出来上がったというワケだ。

 国定公園。観光地。ゾンビではないけれど、hystericな外国語を日常会話する観光客。ここはもうイイんじゃないの。と、

「そうですよね。じゃあ、噴火山に行きましょう。あの山の裏側です」

 意を察してレイさんはトイレに行った。トイレに目的地の噴火山があるワケではナイ。単純に生理的欲求だ。私もそうしようかと思ったが、夢の中でオシッコなどすると、寝小便になるおそれがあるので、ヤメ。

 くねりくねりと車は山の舗装路を登りつつ、

「あっちにみえる山は山伏の修行の山だそうです」

 たしかに、森林のところどころに祠らしきものが姿をみせている。

「函館に修験道の霊山ありか。何でもアリだな」

「ええ、左の方向には、3万年くらい前に落下したらしい隕石のクレーターもあります」

「UFOの基地は何処にあるんですか」

「それは、反対方向にみえる、」

 そうだよね、あるのね、やっぱり。

「ここが、頂上の展望駐車場です。振り向いてみて下さい」

 一台も車の停まっていないだだっ広い駐車場に車を停めた彼女は、前髪を風にまかせて上着を着込むと、私の肩越しに、それを観た。

 私もいわれたとおりにそれを観た。

 噴火山。

 巨大なセット、いやいまならCG合成かと思えるような、茶色と白と赤色の山肌に、硫黄の煙が数カ所から吹き上がっている、なるほど、噴火山といわれればそのimageのほうがピッタリの風景が出現した。

 出現といっても突然現れたワケではナイのはもちろんだが、忽然として、と、くらいはいってもイイんじゃなかろうか。

「これ、いつからこんなふうに在るんですか」

「さあ、たぶん函館開港以前だと思いますけど」

 そりゃまあそうだろう。しかし、これだけのめずらしい景観が、函館のどんな観光マップにも紹介されることないのは何でなんだろ。その全体を遮蔽物なく展望出来る場所があって、かくのごとく百台は駐車出来る駐車場まであり(それ以外は何もナイんだけど)、噴煙にも似た硫黄の煙を吹き上げている、まるで火星に生命体が発生した年代とも思われる光景(があったかどうかはとりあえず論外として)は、おそらくここ以外、日本ではお目にかかれないものにチガイナイ。

2013年8月 9日 (金)

マスク・THE・忍法帳-40

「簡単にいえば、そうじゃが、そんなことは信じられんじゃろ」
 陳は、嘲笑を浮かべて、平吉にいい返した。
「わしには毒は効かぬ」
「そうそう、それじゃ。そういうことも書いてあったな」
 陳は眉を顰めた。
「書いてあったというのは、何か毒のことについて、調べてきたのか」
 平吉は陳を観ようともしないで話しつづける。
「だから、ゆうたやないか。俺は泥棒だと。ゆんべ、残らず調べさせてもらったと。もちっと具体的にいうと、いままで俺の喋ったことは、あんさんの日記だか日誌だか、分厚いノートに書いてあったのを読ませてもろうたんよ」
 再び指の関節をポキッと鳴らしたのは、もちろん陳のほうである。
「きさま、ほんとうにわしの住居に忍び込んだというのか」
「そんなことは、不可能だ、と、たいていアトが続くんじゃろが、泥棒にかけては、二十面相に不可能はナイのよ」
「まさか、あの金庫を開けたと」
「~毒など存在しない~これはあんさんのノートに朱書してあった文句よ。それと、腐毒という毒についても、俺にはそれを使ってみると書いてあった」
 ここで、平吉は半身を起こした。
「あんさんは、今朝、いつもの時刻に目覚めると、新聞受けの中に俺が残した封筒を開けた。~ウメバヤシ デ マツ。二十~、そこでさっそく、準備にとりかかる。ところが俺のほうの準備はもう整っていてね」
「つまり、きさまは、昨晩、わしの家屋に忍び込み、隠し金庫を開け、わしの重要書類を読んで、いま、腐毒に対する処方を施しているというのだな」
「ああ、お察しの通りじゃ。それくらいは難なくやるのが、怪人二十面相だからな」
 陳はまだ半信半疑ではあったが、腐毒というのは、あまり知られていない毒である。それをこの男が知っているということは、と、まさかの文字が脳裏に過った。
「もし、それがほんとうのことだとして、たとえ、腐毒が通用せぬとしても、わしが用いる毒はそれだけではナイ」
 半ば、鎌をかけるつもりで陳はいってみた。
 平吉は、立ち上がった。それからポケットから何やら小箱を取り出すと、四間ばかり離れた陳の足下に、それを投げた。小箱は地面に落ちた勢いで蓋が開いて、中からチューブ絵の具が転がり出した。
「手妻のタネ、その二かな。あんさんの毒の貯蔵室に並べてあった瓶の中身は全部、ただの色水にすり替えた」
「きさま、そんなことが」
「そんなことをするのが、二十面相やと、いうたじゃろ」
 陳は今朝も毒を調合したばかりである。
「馬鹿な。だからといって、まさかこのわしが、単純な色水と毒とを間違えるほど耄碌していると思っているのか」
「そうは思うとらんよ。確かに、毒は色をとってみても、無色透明なものから、まさにこれが毒だといわんばかりの毒々しいものまでいろいろだからな。おまけにその臭いまで俺のような素人には判別出来んじゃろ。としたら、どうすればいい。あんさんを俺なみの素人にしてしまえばいい。まあ、あんさんほどの手練になれば、いちいち色を観たり、臭いを嗅いだりしなくても、どれが何の毒かは、ワカルんじゃろうが、熟練者ほど用意周到なものだということは、よおく、知っている。ところで、毒なら俺も使うことがある。刺客という仕事柄、あんさんも知ってるだろうが、番犬などの犬どもの嗅覚をマヒさせてしまう毒だ。とはいえ、そういう難しい毒を使うとそれを使ったことがあんさんにバレてしまう。だから、イチバン簡単便利な毒でない毒を使わせてもろうた。なんだと思う。唐辛子さ。唐辛子は犬にも効くんでね」
「唐辛子、だと」
 いったい唐辛子などというものを何に用いたのか。陳は、そのときおのれの脳の中で、まるでコンピュータのごとく、唐辛子なるものを用いて、手中の毒役を無効にするか、自分の毒に対する五感をマヒさせる手立てがあるかないか、演算した。
「なんなら、あんさんの仕込みの毒の小針でも、俺に投げてみるかい。素手で受け止めてみせるが」
 平吉は両の掌を広げて、全面に突き出した。
 こやつの自信は、まさか。と、陳はおのれの鈍色の疑心に、いささかひるんだ。と、このとき、陳の周囲に桃色の煙が炸裂音とともに噴出した。
「毒ガスっ」
 と、陳は声にするでもなく胸の内で叫んだが、それが唐辛子弾であることを判別するのにコンマ、1秒とかからなかった。
 たしかに陳の身体に毒は効かない。だが、唐辛子は毒ではナイ。しかも、いままさに、平吉の口から唐辛子に対しての講釈がなされた直後だ。
 何か意味があるのか、いったい昨夜、唐辛子で毒をどうしたというのだ。と、思う間、唐辛子の煙幕は、陳の粘膜を襲った。陳は、涙腺と咽喉に打撃を被った。涙と咳と嚔がアレルギー患者のそれのように襲ってきた。
 遮二無二、陳は、毒の小針を乱射した。周囲は煙で何もみえなかったが、平吉の気配のする辺りに向けて、小針を飛ばした。このうちただの一本でも掠れば、命はナイはずだ。もし、昨夜、毒をただの水に詰め替えられたのでナイとすれば。
 もう、おわかりだろうが、すでに陳は平吉の心理戦術に翻弄されていたのだ。平吉の話は金魚鉢から人魚を釣ったとでもいえばいいのだろうか、あり得るワケがナイ、が、あり得るかも知れないと考える人種にとってはあり得る話しだ。で、その釣り糸が唐辛子だといわれたとき、陳の脳髄の毒における公理系が、飛車を斜めに動かされるような、攻めにあったというべきか。
 毒のような正確無比に扱わねばならないシロモノは、1㎎の100分の1の単位までを考えなければならない。そういう緻密な薬物を扱う者の精神、もしくはそれで殺人を常に思惟する者の脳髄に対して、意味ありげで不可解な、不条理な禅問答のような講釈をふっかける。
 ここにおいて、二十面相平吉が、昨夜、陳の家屋に浸入したのかどうか、それすらも、陳にはもう判別が不能になっている。
 唐辛子弾の煙幕が薄れて、二つの影が対峙して立っているのがみえた。
 片方の男の喉に、鋭利に折られた梅の枝が突き刺さっているのが判明するのに、さほどの時間はかからなかった。男は、声を出すことも出来ず、ただ、片方の黒ずくめの若者を睨みながら、その場に膝をついた。
 平吉は簡便な風邪用のマスクをしていた。それから水中眼鏡(ゴーグル)をかけて。
「俺の話の何処からどこまでがほんとで、ウソか、あんさん、考えなすったろ。その答えを教えてもええが、聞いても地獄の閻魔さんに申し開きの足しにはならんよ」
 陳の喉に突きたった梅の枝の、一輪の梅が、腐毒で枯れた。と同時に前のめりに陳のカラダは倒れた。
 このとき、梅の花に舞い飛んでいた蜜蜂が一匹、平吉の首筋にとまっていたのを平吉は気づかなかった。蜜蜂は、尾針で平吉の首を刺すというほどでもなく、殆ど人体には感じない程度に引っ掻くようにして、飛び去った。まだ開いていた陳の目は、それを確かめると、微かに笑ったようにみえた。