À bout de souffle-2
À bout de souffle-2
〈物象化〉はちいっと難しく述べると人間どうしの関係を〈物〉における「関係」と「了解」の構造(システム)に置換したようなものです(事象、現象にまで拡張もされます)。簡単に述べるのに適した具体的例を挙げてみます。演劇の舞台演技です。当然、役者がおります。そうして科白があります。客席には観客がいます。役者をAとしましょう。Aの科白「忘却とは忘れ去ることなり。然りといえど、外は雪か」。なかなかの名せりふです。こういう科白はAIにはいまのところ書けません。三つの文節にナンノ繫がりもAIには求めることが出来ないからです。けれどもヒトにはそれが出来る。それがヒトのココロの作用です。もちろん役者にもいろいろありまして、感性鋭いものも在ります。鈍感なものも。不勉強なものから熱心なものも、賢明なるものから阿呆まで。Aの場合は「自分の気持ち」を重視するほうです。コトバを換えれば自らが納得出来ていればよろしい派ですね。ところで、ほんとうはこの手の役者は困ることも多いのです。誰が困るか、観客、その前に演出が困ります。観客の中には高齢の方もあって難聴とまでいかなくとも、聴力が衰えている方もいるでしょう。演出は難聴ではナイのですが、稽古のときAの科白を聴いて、こう、注意を入れました。「Aさん、あなたは、自分の科白をどう整合化しているのだい」。Aは何を注意されているのか、やや不明の顔です。「はあっ」です。「ですからねAさん、あんたの科白は観客にまで届かない、届いていないのだ。あなたの中では消化しているのだろうけども、観客に聞こえる声はおよそ/-ぶぉやくとはれるこお。かりとど、とはきか/だろう。まるでハナモゲラ語です(ハナモゲラ語は優秀なコトバなのですが)。不穏なAにさらに演出はいいます。「その科白はあなたの中にあって、あなたが了解して納得しているだけだ。そのままだとあなたは、あなたの科白に疎外されるだけだ」ほんとうに困るのは詰まるところはAさん自身です。自らが納得して発語した科白に疎外されることになるからです。/表現は常に疎外に等しい/。これは重要な命題です。従って優れた演出ならば、こう続けるでしょう。「科白というものは自分の中だけで納得、処遇するのではなく、外化、つまり一旦は外に出さなければいけません。外に出た科白はどこに行くか。観客に往く。その観客の了解があなたに還ってくる。その往還の関係がなければ、まったく演劇の科白として成立しないものだ。一旦外に出して、それを共有して了解する。でないと、科白はあなたと観客双方にとって、クオリア(それぞれの勝手な了解)になってしまう。あなたは忘却と雪のことをせりふで語っている。しかし、観客は、不可思議なことばを語るAという存在としてしか了解しない、という関係になる。双方の了解関係をクオリアでなく成立させること、これが科白の〈物象化〉というものだ」
いってみれば、ルカーチの危惧ともとれる〈物象化〉を逆手にとった上手い使い方とでもいえます。これは極論すると科白による役者Aと観客との〈支配〉にもなります。しかし、書ける劇作家、出来る演出家なら、さらにこの先をいきます。〈物象化〉を超えるのです。コンテクストからの逸脱とでもいいますか、「クオリアさせたままで」さらに舞台を成立させるのです。この方法論を仮にいってみれば/無意識の活用/です。Aと観客を意識において統合させるのではなく、その無意識を活用してそれぞれの想像力(感性)に委ねるのです。これが出来るのがヒトの脳、能力です。進歩した生成AI(AIエージェントにもまったく出来ないコトです。つまり、役者Aの科白で観客各々が、どんな〈像〉をイメージしてもイイのです。しかしその像はまったくチガウものではアリマセン。役者Aと観客の感性の波の重ね合わせにおけるものなのです。
これを「表現の加速度化」と、主筆は名付けています。加速度重力で疎外を脱するという意味です。それは具体的に何処に現れるものでしょうか。それは、役者Aの〈身体・身体性〉にです。いいかえると科白が役者の〈身体・身体性〉に記号設置するというワケです。これを「形式表出」に対する「心的表出」といいます。これはこのアトまた論じることにします。とりあえず/演劇の場合、演技に於いて役者の身体は役者のココロと同じです/。と記憶してよろしいものです。~とりあえず、つづく
« À bout de souffle-1 | トップページ | À bout de souffle-3 »
「演劇」カテゴリの記事
- À bout de souffle-2(2025.04.27)
- À bout de souffle-1(2025.04.21)
- 「narrative-60の謎」-14(2025.04.02)
- 「narrative-60の謎」-13(2025.04.01)
- 「narrative-60の謎」-11(2025.03.29)