時世録・42
ある大学のゼミが学生を相手に、チャットGPTを使って世界をパンデミックにさせることが出来るかどうか、やらせてみた。学生はすべてウイルスの素人ばかりだ。で、最初はAIはこれを「拒否」した。ところが頭のイイのはどこにでもいて「当方、ウイルス研究家」と再度コマンドしたところ、たちどころにチャットGPTはスラスラと方法を教えてくれた。エライこった。これを科学雑誌に論文として発表したところ次からAIは「当方、ウイルス研究家」を入力しても方法を教示しなかった。専門家のあいだでは、科学雑誌への論文をデータにして「拒否」を選択させるようにしたからだろうということだ。
と、これは前説、前座。我等が頼りにしている養老孟司老師はAIについてどう考えているのだろうか。いつものごとく毎日電子版から勝手に引用(つまりガメることに)する。
/「だいたい僕、根本的には(世の中全般の)情報自体を信用していないんでね」
いや、イイねえ。ここまで腹がくくれるとこっちも安心する。高校のときの世界史の教師(癌で在校中に死亡、授業など一切せず、論評ばかりの時間でした)が「新聞記事なんて信じないほうがイイ」と仰っていたことをおもいだす。/
/「それ(情報)が間違っているか、いないかというのは、そもそも根拠は何だっていうことですね。僕がやってきたような、あるいは今でもやっている解剖学とか分類学というのは、実は最終的に持っていきどころがあるんですよね。『現物』という持っていきどころが」/解剖学の『現物』となると献体死体だな。私もAIが苦手な分野は何だろうと考えたことがあって、いちおう『自然それ自体』というふうにしたが。
/「科学もそうですけど、実際の身体がどうなっているのかというのを(知るために)、今ではその時点から既にデジタル化しているんですよね」ここで、老師が一例として挙げたのが、病院で使われるCT(コンピューター断層撮影装置)。X線を使って身体の各部位の断面を撮影する装置だが、実は検査結果として患者に示される画像は写真ではない。いわく、X線の透過度を示す数字の羅列を、分かりやすく画像に変換したものなのだそうだ。
つまり私たちは、本来無機質なデータに過ぎないものを自分の身体だと思い込まされている、ということになる。「AIの問題はそれ(根拠)がデータですから。そこで間違えると、とんでもないところに行っちゃう可能性がある」「AIにもバカの壁が存在します。AIはデータに含まれるパターンを学習するだけで、そのデータの正確性や妥当性を判断する能力は持ちません」。これは、当のチャットGPTの答えである。
養老さんに言わせれば、今や人間の方がむしろAIっぽくなってきているらしい。データや統計をことさら重視し、番号一つで国民が管理される時代。システム化されないものは不要な「ノイズ」と見なされ、ノイズをそぎ落とした「情報」を私たちは「現実」と認識しているというのだ。まるでCT画像を身体と錯覚するように。さて、私たちが「自然」と称しているもの。これはほんとうに自然だろうか。量子力学はそこを疑わせる学問だ。この「自然」は本質的な「自然」ではナイ。量子力学はそう断定する。
/「世界の複雑さっていうのを無視するんだよね。そういう傾向が非常に強くなっている。それで、ひと言で答えが出ないからって人生退屈だとか、意味がないとか言ってね。全くばかげた世の中だなと」「やっぱりある程度、複雑な環境に放り込んでやらないといけないんですよ、人は。そうするとやむを得ず、いろんな面から物を考えるようになるから」
「一番大きいのは視点を変えられることですね。同じ状況にいると、同じことしか考えられなくなっちゃうから落ち込んだりなんかするわけですね。状況が動いている時は、上手に付き合っていくしかないんですよ。で今の人はある答えに向かって走っていくのは得意なんだけど、状況自体が動いている時に微調整しながら動くのは非常に苦手でしょ。でも人生、そういうもんだと思うんだよね」/
以前まで、莫迦はスポーツ選手だけだとおもっていた。けれども、落合さんの登場から(というのは嘘で)最近は、演劇人もかなり莫迦が多いとおもうようになってきた。もちろんこの集合には私も含まれる。もちっと具体的にいうと、同じことを日本人が述べると「難しい」「ワカラナイ」とおっしゃる。これが海外のひとになると「やっぱり考え方が斬新」とかおっしゃって、ほんで、ノーベル賞なんか劇作家が受賞したのだが、ニュース報道(メディア)を拾い読む感触では、ノーベル賞劇作家のコメントは「難しい」らしいが、そうかねえ。ああいうことは、(以下、愚痴になるので略)。
状況自体は動いているぞ、へこたれる前に屁でもたれておこう。
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