時世録・24
未来は常に過去形でしか語れない。
あるいは、生成AIには未来予測は不可能である。
二つとも特に難しい命題ではナイ。深遠な認識論でもナイ。「そうだから、そうなのだ」ということを述べる。
簡単に理解するために(あるいはしやすくするために)、将棋盤(と、駒)で闘う二人の棋士、もしくは、真剣勝負の剣士二人があれば充分なのだが、前者のほうがimageしやすいのでそうする。
大雑把に「時間」というものを分別すると次の三つしかナイ。(もちろん、時間というものが存在するという前提でだが)。
/「過去」「現在」「未来」/だ。
① いま、二人の棋士が将棋盤を挟んで対座した。これから盤上(あるいはかれらの脳裏)で将棋戦が始まる。←「現在」
② 将棋にはまず戦形の駒組が何通りもある。さて、先手はどういう駒組でいくか考えて駒を一つすすめる。これは盤上の「未来」を予測してのものだ。それをみて、あるいは無視して、後手は一つ駒をすすめる。と、これも「未来」を予測しての「現在」なのだが、棋士二人の脳裏にあるdataとalgorithmは「過去」のものだ。それ以外のものは二人の脳髄は持ち合わせナイ。ここにおいて、棋士二人は「過去」を考慮、思案しながら「未来」を創っていることになる。つまり、盤上に現れているものはこれからの「未来」ではあるのだが、それらは「過去」のdataからのalgorithm、もしくはfunctionに過ぎない。つまり、盤上に展開されつつある「未来」は「過去」にはなかったものなのだが、そのprototypeは「過去」のものだ。
③ かくして、盤上の闘争はつづくが、「金がああきて、角をこうして、玉が上がって、云々」、これを読み筋というが、それらはすべて「過去」のdataによる。いくら藤井名人が衆目、プロ解説者にもワカラナイ駒の動かし方をみせても、藤井名人は出鱈目にそうしているのではナイ。全ては「過去」から「未来」(勝ち筋)を創ろうとしている作業工程(process)なのだ。
④ ここで、ちょいと横道。生成AIに「来年の景気予測はどうでしょう」と、質問する。生成AIは、データをサンプリングして確率の高いものをリミックス、文章化する。ここで生成AIが成していることは、棋士二人が行っているprocessと同じだ。ただ、人口知能とはいわれているけれど知能などはなく(考えているのではなく)、確率計算機でしかナイ。そこは棋士とは千里の隔たりがある。
⑤ ここまでの結論をいえば「未来」はすべて「過去形」で語られている。否、語るしかナイということだ。
⑥ これは何を意味するか。簡単なことだ「あしたのことはワカラナイ」「明日はあすの風が吹く」「ケセラセラ」「成るようにしか成らない」不確定ばかりなものばかりではナイ。確実なものをいえば「ひとは必ず死ぬ。古今東西死ななかったひとはいない」。アタリマエのことだ。
⑦ さらにここから導かれるものは何か。
⑧ 「今日の絶望、諦念は、そこでオワル、そこからはどうなるかワカラン」「みよや野の花、空の鳥、ソロモンの栄華」なんてことをいわなくてもイイということだ。もちろん、今日も明日も戦争や平和はある。しかし、悲観してはイケナイ。それらは〈状況〉にしか過ぎない。〈本質〉ではナイ。こと、本質については、ヒトは全宇宙の2%しかワカラナイ存在なのだ。
⑨ そこで、私たちはこの「世界」にどう対峙すればいいのか。残りの98%を生きていくしかナイ。
⑩ 「現在」、このあってナイような「いま」、すぐ過去になり未来になるいまを受動的にか能動的にか認めるしかナイ。
⑪ だがしかし、目に見えてワカル「未来」もあるのだ。もちろん、こいつも「過去」に因るのだが、たとえば、スマホの「雨雲レーダー」。だいたい数時間、数分後の未来に雨が降るのか降らないのかはワカルのだ。傘が要るのか不要なのかはワカルのだ。
⑫ ということは「未来」というのはその程度のものだ。
⑬ また「未来」は「重層的」「複合的」な不決定であるから、「おっと30分後には雨か」と、傘を手にしてドアを開け、一歩踏み出て、階段で滑って脳挫傷ということだってあるのだ。もう、彼に未来の降雨は関係ナイ。
と、いうワケで、アト2分で洗濯が終わる。そこまでの未来はワカル。これも過去形に因る。それを乾燥機に入れに行く。すると、そこで、えらい可愛い姐ちゃんと出逢う。というような妄想は、「過去」「現在」「未来」とは一切関係ナイ。過去形で語られることでもナイし、過去のデータにもナイ。この妄想を如何にもタコにもありそうにペテン化したものがドラマと呼ばれる。Romanticismと称される。
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