時世録・3
Mission Impossibleな仕事にヤッとどうにかケリをつけられたので、レンタルしたままになって数ヶ月にもなってしまった(と、おもう)『MINAMATA』(監督、アンドルー・レヴィタス、2020年・アメリカ合衆国)を観たんですが、ちょっとへんな感じの映画でした。もちろん、主演がジョニー・デップで、その役がユージン・スミスですから、どちらも好きなもんですから、観て損はなかったとおもうんですが、で、よくある「この映画は事実に基づいてつくられた」ってのが最初に字幕されるんですが、たしかに「水俣」のチッソ水銀公害病は事実ですし、その患者さんや水俣病の風景をユージン・スミスが撮ったことも事実なんですが、中身に関していえば、ユージン・スミスがこんなふうに云うせりふ「むかし、アメリカ先住民は写真を撮られると魂を抜かれると云ってのだけど、ほんとうに魂を抜かれるのは写真を撮る側なんだ」だけは、なんだか身につまされるおもいでしたが、それもほんとうにスミスが云ったことなのか脚本家がつくったのかはワカラナイ。それと同じような感触が全編にあります。全部fictionといえばそうですし、と、いうのも、水俣病が騒がれていたとき、あのときのような鬼気せまるものというものが何にもナイ。そこで、researchをかける。つまりレビューやなんかを読んだワケです。
水俣市は「制作意図が不明」ということで、この映画の後援を断わっています。なるほど、云われてみりゃそんな感じだなとおもうワケです。水俣病を撮ったのか、ユージン・スミスを撮ったのか、映画としてのfocusが判然としません。「この映画は違法映画といえる」というレビューがあって、要するに「ウソだらけ」だという長いレビューで、このひとはほんとうに怒っている。ウイキでユージン・スミスの来歴を調べもしましたが、ユージン・スミスについてもかなりイイカゲンにしか描いていない。水俣病についても然り。要するにこの映画は「だれの目で観たナニなのだ」と、私としては結論するしかナイんです。そこらあたりが「へんな感じ」の正体だなあ。
とはいえ、水俣病がまだ法廷闘争中だという字幕が最後に数多の説明字幕とともに流れて、「ええっ、へーえ、そうなのかよ」と驚いたことも確かで、この字幕はいっとう最初にもってきたほうが手法としては正解だったんじゃナイのかなと、つまり、水俣病は過去のものではナイのだということなんですが、現状、水俣市は「もう、あのことは忘れたい。そっとしておいてもらいたい」という人々も存在するワケですから、それにあの工場はまだ操業していて水俣市民が多く働いているワケで、この辺はいまの沖縄の基地問題と一緒。
ユージン・スミスの写真集のタイトルは忘却しましたが、スゲエなあと若いころそうおもって観てましたナァ。で、中にミナマタの写真もあったのだけど、私は嫌悪しました。理由はよくワカリマセン。芸術作品としての写真なのでしょうが、私自身、こういう表現はけしてヤラナイでおこうと決めたことは記憶しています。その気持ちは伊丹万作さんのエッセイでなんだったっけ、読んで、なんかフォローされた覚えがあります。