アト千と一夜の晩飯 第二十二夜 『寿歌』とロ×ウ戦争
〇「きょうは一つ、タイトルに記したようなことを書いてみようとおもうんです。
●「おもしろそうやな。
〇「北村想の代表作、小劇場演劇の金平糖(ほんとは金字塔らしい)、世界演劇の流れを変えたといわれている(ウソ)『寿歌』を北村想が書いたとき、彼はインタビューで必ずこうこたえています。/何を書いたのかワカランので、ワカルまで上演は続けます/。これはかなり彼の本音だとおもいます。
●「だいたいにして、彼の書くものはなんやワカランからな。
〇「いや、そうでもなくて、彼自身にはワカッテいるはずです。
●「そら、そやな。いつも、読むほう演じるほうが/ワカラン/というのに焦燥しとるからな。しかし、下手に誤読されるのもかなりイヤがってるな。顔には出さんけど、口に出すときあるもんな。こないだの静岡の劇団で、栄養失調みたいなチビでボンボンの有名大学出が演出した『寿歌』なんか観て、やっぱり名古屋の某拝権威主義的招聘団体はアカンな、いうとるもんな(いうてない、いうてない)。
〇「で、彼は『寿歌』が何かワカッタので、上演を終えたんです。
●「けっきょくナンやったんや。
〇「北村想がいうには/あれは、何でオレはキリスト教になれへんのか。或いは自分はやっぱりキリシタンにはなれへんな/だったそうです。
●「つまり、彼としては、キリシタン(キリスト教徒の総称)になりたかったんやナ。
〇「『けんかえれじい』(鈴木 隆、鈴木清順)と『正統とはなにか』(チェスタートン)の影響ですな。しかしそうはイカンかった。けっきょく、彼の〈位置〉としては『悪魔のいるクリスマス』の作家、これがイチバン近いでしょう。演出家の寺十なんかは、/北村想は役者というよりペテン師である/と、さすがに洞察力スゴイですけど、いうてみたら「ペ天使」でしょう。 ペテン師というと最近は詐欺師と同義にとられてしまいますから。詐欺師は悪質な泥棒ですけど、ペテン師はテキ屋、香具師(ヤシ)の仲間ですんで。「胡麻の蠅」と「護摩の灰」のチガイがあります。
●「べつにキリシタンに成れんでもかめへんけど、似非というか、パチもんキリスト教系作家として作品書いてるけどな。
〇「本人にいわせると、あれは営業用やそうです。商売道具ですナ。しかし、いま世間というより政界を騒がせているQ統一教会とか、あるいは「エホバの証人」とか、いろいろとそこの信者に懇切丁寧にハナシは聞いたのはほんとうです。
●彼はネチコイからな。最初はたいていこんな娘っ子がなんで、こんな宗教にハマッとんねんという下心半分、情が半分でハナシ訊いていて、これはちゃんと勉強して、この子を真人間にせなアカンという奇妙な仁愛があるな。口説くつもりが、宗派教派の教義のほうに興味が移って勉強してしまうらしいナ。
〇「いや、それはアルかもしれませんが、彼の所持している聖書なんかもうボロボロで、書き込みとunderlineだらけでっせ。若いとき、けっこうのめり込んだみたいで。
●「あの『ユダの福音書』まで読んだちゅうからナ。
〇「それ関係のは数冊、サブテキも読んでますね。で、辿り着いた結論は/やっぱり、キリスト教徒はイエスだけやな/というニーチェの『アンチ・クリスト』と同じものと、/ユダはイエスのことが心底好きやったんやな/という哀れみですね。この二人にだけはsympathizerですわ。
●「このハナシおもしろそうやから、ちょっと何回か続けてみよか。
〇「その気でおます。
つづく
:クリスチャン(主にプロテスタントなど)というのも、カトリック(ローマ法王の仲間)というのも、オーソドクス(正教会、東方諸教会、カトリック教会、聖公会、および福音主義教会(ルター派と改革派教会)、長老派教会、メソジスト監督教会などなど)も、キリスト教の教派の一派にしか過ぎないので、総称としてキリスト教徒(キリシタン)を用いることにした。(主筆)
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