アト千と一夜の晩飯
第一夜
ゲサクはただ歩いているだけだ
リアカーをひきながら
ただ独り 歩いているだけだ
この足元から荒野ぜんたいにひろがる瓦礫がなんなのか
ゲサクは知らない
ゲサクはただ歩いているだけだ
ゲサクはただ歩いているだけだ
降りやむようすもナイ雪
ときおりふぶいては 音もなく
寒さは感じない
どうして雪なんぞ降っているのか
ゲサクは知らない
リアカーをひきながら
ただ独り あるいているたけだ
そういえば まだ十(とお)に満たない
娘っこがリアカーに乗っていたような気がする
乗せていたよう気がする
ときどき髪を櫛ずいては 歌っていた娘っこ
ゲサクは その娘っこのことは何も知らない
たぶん ゲサクのみていたまぼろしだったのだろう
ゲサクはただ歩いているだけだ
ただ独り あるいているたけだ
ヤソだったか ヤスオだったか 青年が
夕陽をみつめていた そんな記憶もあるが
もう夕陽なんか この世界には無いので
あれもまた ゲサクのみた 夢かまぼろしだったのだろう
ゲサクはただ歩いているだけだ
ただ独り あるいているたけだ
どこへいってもどこでもない
あっちがどっちだかもゲサクは知らない
もちろんゲサク
が
どこにむかっているのか
誰
も 知らない
ゲサクも知らない
ただ独り 歩いているだけだ
道などナイのだ 無かったのだ
ゲサクは 歩いているだけだ
ただ 独りだが
それがどうやら ほんとうだったらしく
それだけがほんとうだったらしいのだけれど
ゲサクは 独り ただ歩いているだけだ
アイ さあ 知らぬ
コドク さあ 知らぬ
カミ さあ わからぬ
知らぬものやわからぬものは それはそれでイイ
ゲサクは 独り ただ歩いているだけだ
まるで犀の角のように
ゲサクは独り 歩いているだけだ
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