アト千と一夜の晩飯
第五夜
演劇、舞台での上演を始めてから半世紀になるので、たとえばそのころ15歳のチューボー(中学生)がおそるおそる私の舞台を観に来ていたとして、も、いま65歳になっているという寸法で、すでに勤め人なら定年退職、年金暮らしというケッコウな身分なのだが、昨今はそうでもナイ落ちぶれ日本にデンジャラス世界。なんだけど、そこでまだ趣味で働いて、というか仕事が趣味なのもいて、「顧問」とか「会長」とかになっていて、とはいってもそんなに大きな企業じゃナイんだけど、なにしろ趣味ダカラな。
で、researchの会社をヤってるのがいて、ともかくなんでも統計調査をヤッて、その情報を売っている。社名は単純「all research company」略して「オルコ」。私もときどきメールしたりして、もちろん無料で(なんしろ、昔、タダで舞台をみせてやったからな)いろいろとresearchしたもの、分析したことを教えてくれる。
ここのresearchの方法は、同じ事柄を三種類の方法(コンピュータによる確率計算から門口訪問までもヤルらしい)でresearchして、足して割って返答率が51%をこえるものを抽出するとかいうんだけど、詳しいことは企業秘密で教えてはくれない。商売の相手先(取引先)も教えてくれない。いちど事務所(会社かな)をのぞいたことがあるけれど、わりとひろいスペースに社員さんは三人くらいしか見当たらない。ところがあちこちにPCが並んでいて、各自大きなデスクにノートパソコン、で、会議室は別室でフラットになっている。
「なんかオモシロイdataあるかい」と、気まぐれに問うと、
「いまの世間(この会長は「社会」とはいわない)は、多様性や分断なんていいますけど、歴史なんてものが進めば、必ず分業になります。それと階級が生じます。この辺の弁証法というか、マルクスの自然哲学はマチガッテなかったようです。普通は富裕層なんていいますけど、ありゃ、むかしでいう金持ち階級のことですよ、アタリマエのことですけど簡単にいうならネ。中華はもうすぐ落ち目になりますから、シーさんなんかは今期の全国大会で身辺をすべて自分の分身で固めたんです。アト5年、シーさん、カラダ持たないというふうにうちの指導者心身分析班といってもこの部屋にいるのは班長ひとりですけど分析してますね。中華の富裕層は、日本のタワーマンション一棟買い取りなんてしますよ。ケタがチガイマス。中華には見切りつけて、ともかくいま円安の日本に動いてますね。映画の『ブラック・レイン』みたいに今度はインバイザーではなくて、商売ザーとしての中国人で日本はあふれます。彼らは中華が民主化、としかいいようはナイのでそういいますけど、民主主義も信用してないんですが、とりあえず活用しやすいので、民主化されるまで中華にはもどりません。
日本の富裕層の割合は、全体の富の80%をほぼ5~7%の金持ち、資本家というより投資家ですね、それが私有する。残りの10%をほぼ30%の平均層、これはいってみればなんとか食っていっている層ですね。これが多様性とやらで所有している。おこぼれの10%を貧民層、まあ50%かなあ、日本人の約半分ね。これが多様性所有している。さらに貧困層てのがあって、その日暮らしかなあ。その下に貧窮層てのがあって、これは生活保護なんかでやりくりしている。さらにその下に、そう、まだ下があるんです。もう100%からはみ出しているんですが、無階級層、あるいは無分別層というのは得体が知れないんです。反社会的集団から、ビニールシート暮らしまでありますから」
「オモシロクもなんともねえな。ようするに日本はビンボになったというだけじゃないか」
「いや、オモシロイのはこのアトのresearchなんです。このさまざまな層に、いまのロシア×ウクライナ戦争をどうおもっているか、実際の具体的な質問は/ロ×ウ戦争であなたが気にかけている、もしくは心配なのはなんですか/なんですが、なんと全層合わせて52%が「核戦争のリスク」なんです。「物価高騰、インフレの懸念」なんて5%ですよ。やっぱりみなさん核で死ぬのはイヤなのかなあと、次にそのリスクをresearchして、分析すると、あに計らんや(意外なことには)、まず、これまで築いてきた人類の文化、文明が無に帰してしまう、と、自分の人生の意味や価値が儚くも消える、というのが半々でトップなんです。自身の財産がどうのとか、そういのは下位なんです。なかなか棄てたもんじゃナイんですねえ。意外にニンゲンというのは類的で、そこんところは多様性なんか入り込まないんです」
「つまり、底辺ではなんつうか、共に生きていこうというか、共存の志向が強いってワケかい」
「そうそう、そうなんです。そこがヒトの無意識なんですよ」
「だったら、なんで、戦争なんて殺しあいなんかするんだ」
「無意識から意識へと移行する、そのときの相転位するfunctionのどこかの変数に問題があるんじゃないかと、うちの本質班数理室なんかは云っていますがね」
ふーん。さいごにその会長、「でも、統計なんて、最もアテになんないもんなんですよ」ときた。
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