無学渡世・十二
私たちが「科学」と称しているコンテンツ(contents最近よく目にするコトバだが、「情報」と簡単に理解してもマチガイではナイ。似たようなものなら、menu(メニュー)というふうになるが、メニューのほうは観ただけでは、それがどんな料理、どんな飲み物なのかがワカラナイことがある。そんな場合contentsになると、料理の簡単な中身まで書き込んであるものということになる。やや詳細な情報というところだろう)
さてと、その科学だが、エビデンス(evidence、これもよく使われる。証拠、根拠、たいていは科学的根拠という意味だが、従って「科学的エビデンス」などというのはマチガッテはいないがいい方が二重な用い方になる)
COVID-19との闘争以来、科学者は「専門家」と政治屋に呼ばれるようになった。大臣閣僚官僚、付け足しのように「専門家の御意見、お話をきいてから」と、最後に述べて、さて、その後どんな意見をきいてどういう経路、経緯で判断したのかはまったく触れず結論が出てくる。政治屋だけが悪いのではナイ。
昨日一昨日だったかの毎日電子版で、私は椅子から落ちそうになった。(というのは比喩的表現だが)例の、「明日、いやいますぐくるかも知れない」といわれている南海トラフ巨大地震についての専門家(科学者)たちの政治屋的思考を読んだからだ。
現行「南海トラフ巨大地震」に私たちが襲われる確率は、/30年以内の発生確率「60~70%」/ということになっている。確率は数理モデルで求められるはずだから、いくつかの種類があるはずだ。
「数理モデル」といっても、そんなに難しいものではナイ。/通常は、時間変化する現象の計測可能な主要な指標の動きを模倣する、微分方程式などの「数学の言葉で記述した系」のことを言う/などといわれるとサッパリとおもわれるかも知れないが、要するに何かを〈計測〉するとき、ここでは時間変化の現象になっているが、そいつを微分方程式に書き換えればいいだけのことだ。
「南海トラフ」は「時間予測モデル」による確率が使われている。ところが、他の地震で使われているのは「単純平均モデル」による確率で、もし、このモデルで「南海トラフ」の確率を求めたら、その確率は10~30%に下がってしまう。別に「時間予測モデル」が「単純平均モデル」より精度が高いというワケではナイ。12年当時の分科会の議事録には、次のような委員たちの不安が記録されている。
「どういうやり方をしても、今出ている確率より低い値しか出てこない」
「今まで60%、70%、80%だったものが、いきなり20%、30%になったと書いてしまうと、おそらくマスコミは喜んで確率が下がったと書き立てて、今まで何をやってきたのだという話になってしまう。それは、我々の趣旨とは外れている」
そこで、2012年12月17日に非公開で調査委員会と「政策委員会」が開かれた。この「政策委員会」というのがクセモノで、要するに政治屋の政策と変わりはナイ。
事務局を務めた吉田康宏・地震調査管理官(当時、現在は気象大学校教授)は「南海トラフの発生確率というのは実は、他の海溝型、あるいは活断層とは違う方法で算出しています。(この)算出法は、科学的に見てもいろいろ問題があるので、もうやめた方がいいのではないかというような議論も出ています」と発言。さらに時間予測モデルでは60~70%となる確率が、ほかの単純平均モデルを使えば20%程度まで下がると述べ、「今の科学的知見からすると、この20%というのは一番妥当性があるだろうというふうに海溝型分科会では考えています」と説明した。
もちろん、その両方を出せばどうかという意見もあった。アタリマエのことだ。
が、結局、決まらない。
2回目となる非公開の合同会は13年2月21日に開かれた。そこで、/「高い確率」と「低い確率」について▽両方述べる▽高い確率は述べて、低い確率は参考値にとどめる▽高い確率を述べて、低い確率は出さない▽高い確率を参考値にとどめ、低い確率は出さない/の4案のうち、最後の案に決定した。
その理由は、委員のこんな発言を読めばよくワカル。
「防災の理解を得るためには、その根拠となってくるのが発生確率が高いということなんですね。下げるということになると、それじゃ、そんなに税金を優先的に投入して対策を練る必要はないんじゃないの、優先順位はもっと下げてもいいんじゃないのと、必ず集中砲火を浴びる」「何か動かすというときにはまずはお金を取らないと動かないんです。これをやっと今、必死でやっているところに、こんなことを言われちゃったら根底から覆ると思います」
南海トラフ巨大地震発生の確率状況は、今も継続している。要するに「南海トラフ巨大地震」は、地震学者(科学者・専門家)たちの「政策」に過ぎない。いま、COVID-19を扱っている政治屋たちと、寸分変わりナイということは肝に命じておいてイイ。何が「専門家の御意見を訊いて」だ。「訊いて」ではなく、単に「聞いて」いるだけだろうことは、庶民大衆一般人は、もう充分、承知だぞ。
☆毎日新聞電子版/03/09からかなり転載しました。☆
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