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2020年12月17日 (木)

珍論愚談 8

「むかしのことじゃがな、わしがまだ幼少の頃だ。近所に、ある婆さんがおってな。その頃は五十を過ぎるとみな爺さん婆さんだったから、まあ、そんな歳だったんじゃろ。息子は遠い土地で会社の社長をやっているんだが、多忙でなのか、家庭の事情でなのか、年に一度くらいしか帰ってこん。で、この婆さんの口癖というのが、~なんど、美味いもんが食いてえ~、でな、出逢うたんびにそういうておったな」
「ここにも変な爺さんいるよ。九十になるのにadult videoのcollectionしてらっしゃるらしいよ」
「おい、クマゴロ、ハナシの腰を折るな」
「へい、どうも。腰は振るもんですよね」
「まあ、いいから聞け。もうひとりの婆さんは、素性はワカランのだが、これは口癖で~もう終わるぞ、世の中はもう終わるぞ~といっては、参加するんだな」
「参加って」
と、ニイちゃん、これは奇妙とご隠居をみた。
「何人かが集まって、何か世間話をしているとおもいなさい。そこに顔を出すのに、黙ってヌっと出るわけにはイカンだろ」
「ぬらりヒョンっていう妖怪になっちまうもんな」
と、クマゴロ。
「そんなもんにはならないが、だ、なにかこうキッカケがいるでしょう。いきなり話題に入っていくのも失礼だし、黙って突っ立っているのも、それはそれで、けぶだ」
「けぶっ、なんですかいそりゃ」
と、クマゴロが田んぼでイタチでも観たかのような顔をする。
「たぶん、」
と、ニイちゃん。
「煙の甲州弁で、煙(けむ)たいとか、煙そのものか、関西でも/けぶたい/とはいいますね」
「そうそう、その/けぶ/だ。それで、なんかこう独り言でもいうようにして仲間に入っていくんだな」
「で、かたっぽうが~うめえもんが食いてえ~で、かたほうが~この世のオワリ~ですかい。あっしなんか、おうおうおう、こらこらこら、何のハナシしてやがんだ。どこの嫁が間男したってんだ。とかいいますね」
「ムチャだな、クマゴロは」
「で、その婆さん二人、何かあったんですか」
あくまで冷静にニイちゃんは訊ねる。
「美味いもんが食いたいが、おうめさんで、終わるぞのほうが、おわりさんというんだが」
「ちょい、ちょいとご隠居ハナシ創り過ぎですぜ」
「いやいや、クマゴロにそういわれるのはこれからじゃ。実はこの二人の婆さん、同一人物だったんじゃな」
「ええっ」と、怪訝、奇天烈というのはたぶんそんな顔だろう、クマゴロ。
「どういうことなんです、同義反復って」
と、ニイちゃん。顔色こそ変えないが、かなりココロ乱れているのでマチガエル。
「それがな、いまだに謎なんじゃ。この町の七不思議の一つといわれておる」
「はああっあ」
と、クマゴロは底のない風呂桶というならそんな顔。
ニイちゃんは、黙って、脳裏で掛け算の九九をヤッている。
「ひっひっひ」と笑って、肩をゆすっているご隠居。そこに通りすがりの女が二人。
「あのお爺さん、ときどき独りで、あそこんとこに坐って笑ってるね」
「そうねえ、気味が悪いったらありゃしない」
このハナシはこれでオシマイ。主語だけあって、述語のナイstory。あるいはその逆かな。まっ、いってみれば、いまのご時世を皮肉ったとでもいっておけば足りる。端的にいえば「化かされている」かな。

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