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2020年11月19日 (木)

Have to die

ニイちゃんは(と、また登場なんですけど)コンビニのイートインで朝飯を食べる。といっても、パンと百円のcoffeeなのだが。パンはジャムパンが好みだ。Sandwichは、挟まれている具材がはみ出しそうに見せかけられているが、食パンを開くと半分しか入っていないのものが多い。それなら菓子パンのほうがイイ。
ニイちゃんはその日も、自転車でえっちらおっちら、いつものコンビニに出かけた。自転車を立てかけていると、その自転車置き場にもっさい格好をしたおっさんがいて、ガラケイに怒鳴っているのがすぐ傍で聞こえた。ニイちゃんは無視しようとしたけど、ちょっとひっかかるコトバをおっさんが口にした。
「とにかくこっちの要望は、そのヴェトナム人は解雇。これは譲れんな」
どこかの工事現場のその手の係のひと、つまり人足集めのモノかとおもったが、どうも、チガウ。ちょっと気になったので、ニイちゃん、耳を済ました。
「おまえの店はそんなに人手不足なんか。悪人を雇うくらいなんか。中国人もおるやないか。どっちも悪人ばっかりの国やないか。ヴェトナムなんかみな悪人やぞ。テレビ、いうとっただわ」
ニイちゃんの馴染みの、そのイートインのあるコンビニにも、中国人の女のこが二人とヴェトナムの女のこがひとりバイトしている。おっさんは、「ヴェトナムの男性」とたしかそうもいったから、その店の従業員のことではナイだろう。と、ニイちゃんはおもうのだが。
「俺はなあ、たしかに釣り銭から一枚抜かれた。そういうことをするのはヴェトナム人か中国人か、韓国か沖縄しかおらんやろ」
だんだんと他国の数が増えてきた。韓国に沖縄まで出てきた。
「あそこは悪人しかおらん国なんや。知らんのか。知ってて雇ってるのか。ともかく、なんぼ謝られてても、クビや、俺の要望はそれだけや」
いつから沖縄が外国になったのかニイちゃんは首をひねったが、
「あいつら、日本で儲けとんのよ、国に仕送りしとるんで」
このおっさんのくに(郷土)はどこなんだろう。いろいろと訛りが交じっていてニイちゃんには、このおっさんの国がどこかのほうがよくワカラナイ。
「決断じゃわ、決断っ。ワカランのか。なにっ、俺の決断の権利ぃ、そんなもん泥棒捕まえるのにどこに権利がいるんと」
ちょっと、脈絡というか理屈すら怪しい。
「悪い人間しかおらんのよ、あの国は。特にヴェトナムはむかし、アメリカと戦争して負けて、日本とおんなじや。悪人ばっかりや」
ますます文脈がケッタイだ。それにヴェトナムは合衆国に勝利した国だ。
「カネなんか返さんでエエ。金を返せと、みみちいこというとるんやないんよ。そんな小銭に拘っているんやないのやけよ、解雇やっ。これは命令やっ」
命令になった。それに何に拘っているのかもワカラナイ。
ニイちゃんの贔屓のコンビニのアジアンは、昼間か夜、日本語の学校に行って、その合間に学資のために働いている。釣り銭をマチガエタのかも知れない。おそらくそれだけのことだ。
ついでにいうとヴェトナムは、此度のCOVID-19騒動でも、最も被害の少ない国だ。
だいたい、このもっさいオッサンはナニモノなのだろう。コンビニの上司に命令出来るひとなんだろうか。オッサンはガラケイをたたむと、ママチャリに跨がって、レクサスの多い駐車場を縫うように去っていった。ひとに命令など出来る立場のひとではナイようだ。それに、ニイちゃんは命令されるのはきらいだ。
馴染みの店員がいたので、ひょっとして何か知っているかもとニイちゃんは訊ねてみたが、
「あのひと、クレーマーですわ。なんか、他のチェーン店のヴェトナムから来ているバイトの子が、一万円の釣り銭を九千円返すところを八千円しかなかったと、その場でいうなら問題ナイんですが、三十分ほどして戻ってきて、もんくツケたらしいんです。そんなこと、ワカリマセンよ。千円間引いたとかイチャモンですけど、その場では受け取っているんですから。日本人でも、ヴェトナム人でも中国人でも、金の計算は同じですよ。算数は全世界共通ですよ。いまは直渡しと違って、トレイの上に置くようになってますから、コロナの予防とかで。それに、いまは現金払いの客なんか三割くらいですよ」
と、そういうことらしい。今朝のニュースをラジオでニイちゃんは聞いて、合衆国も変わらん国だなあと、今度の大統領選挙のことをそうおもったが、日本も相変わらずなのだ。戦後なんて何処も終わってナイのだ。
ニイちゃんは独り言を口にする。「have to die!」
邦訳すれば「死んで貰います」になる。

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