港町memory 156
ひつこいのだが、釈迦牟尼(シッダルータ、シッダールタともいう)は、出家する以前に、バラモン教から次第に変遷を遂げるヒンズー教の教義の当時解り得るすべてを学んで識知していたとかんがえてマチガイナイ。で、なければ、「悟り」という〈もの〉が存在するということがシッダルータにとって既知であったワケがナイ。(バラモン教というのは、民族宗教を外部のものが命名したもので、ヒンズー教との判然たる区別といったものは存在しない)。
「悟り」とは、バラモン(ヒンズー)において、ある奥義、頂点の秘儀、あるいはそれを超越するものだということも、それが噂(rumored)やレジェンド(legend・いい伝え・伝説)の類であったとしても、無論、承知(あるいは理解、了解)していたはずである。よってシッダルータにとって、「悟り」の修行とはバラモン(ヒンズー)の奥義を究めるというより、それを超えるということに他ならなかったが、その根本的な目的の「状態Vektor(作用素)」が〈謬見〉ではないかと気付いたのは、六年間の修行の失敗に対しての疑問からであった。
/ひょっとしたら、なんかチガウことをしてたんと、ちゃうんやろか/とシッダルータは、修行で瀕死の状態に在って、それこそ、べつの意味では覚ったのだ。〈作用素〉というのは、functionされたナニかのことだ。〈状態Vektor〉も同じようなもので、数学でいえばVektorの合成、量子力学でいえば、波の重ね合わせが近いだろうか。イメージでいえば〈微分幾何学〉になる。つまり、linear(リニア・直線)ではナイ、曲線を含む三次元微分のことだ。
これだけワケのワカラン難しいコトバを並べられると、ニイちゃんが鬱病になるのも仕方がナイと諦めがつくだろう。
簡単にいえばシッダルータは/この修行はアカン/と、そう結論したといっていい。
では、どうすればいいのか。/あかん、とりかえしつかへん/の心境だったろう。
と、ニイちゃんは瞑想、いや妄想した。そうして、
「まあ、一息いれようとおもって、坐ったんじゃナイでしょうかねえ」
と、おばさんに対してだか独り言だか、いうでもなくいわぬでもなく、その半々で口にした。
院外処方箋薬局の入り口付近でラジオ体操をしていたおばさんは、
「いまな、院外処方箋薬局に行ったらな、」
えっ、行ったのかぁっっ。
「この処方箋ではクスリは出せませんていわれたワ」
30秒ほどで玄関払いされたようだ。
「何故です」
「年齢をちょっと誤魔化しただけやねんけどな」
「幾つにしたんです」
「二十八歳」
「それ、ちょっとですか。半世紀以上の誤魔化しじゃナイですか」
「ニイちゃん、何を渋い顔してたんや」
「ボクは、釈迦の悟りについてかんがえてたんです」
「ひつっこい、やっちゃなあ」
「この世に「悟り」というものがあると、なんでシッダルータは識ってたんでしょうか」
「誰どに、おせ~てもろたん、ちゃうんか」
「誰にですか」
「そんなん、あれやがな、阿弥陀如来にとちゃうか。なんかお経にはそう書いたるで」
「浄土系の親分ですか。釈迦の師匠ですか。そうすると、その阿弥陀如来には誰が教えたんですか」
「そこが、仏教のスゴイとこや。仏教はな、バテレンとちごうて、/光あれっ/とかが無いねん。つまり、この世の始まりが無いねん。そんで終りも無い」
「そうしたら、何があるんです」
「途中だけちゃうか」
「途中だけっっ」
「ナンニも始まらへんし、終わらへんのが仏教や。これを永遠ではなく永円ちゅうねん。遠くやナイねん。親指と人指し指ででける円やな。つまり環(わ)っか、やナ。そやからわしが二十八歳でもエエねんで」
このepisodeというか、storyも終りそうにないな、とニイちゃんはため息するのだった。
しかし、この世間(うきよ)である。こういう浮世離れしたハナシを書いているときは、キの字が引っ込むような気がする作者であった。
/コロナというのは自動車の名称でもある。コロナ(CORONA)は、トヨタ自動車が1957年から2001年まで生産・販売していた、セダンを中核とするCDセグメント(欧州仕様の車種のこと)相当の乗用車である。トヨタ車として初めて日本国外でも生産された車種である/。もちろん、売り上げはダダ漏れ状態らしい。連鎖で世間(うきよ)もタイヘンですわ。
« 港町memory 155 | トップページ | 港町memory 157 »
「宗教哲学」カテゴリの記事
- アト千と一夜の晩飯 第四十七夜 little think・2(2023.02.01)
- Sophism sonnet return 04(2022.08.16)
- Sophism sonnet・69,8-15(2022.02.12)
- 無学渡世・一(2020.12.07)
- 港町memory 157(2020.11.18)
「暮らし」カテゴリの記事
- nostalgic narrative 34(2024.09.21)
- nostalgic narrative 32(2024.09.17)
- nostalgic narrative 30 (2024.08.25)
- nostalgic narrative 23(2024.05.19)
- nostalgic narrative 22(2024.05.16)