港町memory 153
「バイデン、勝ったみたいですよ」
院外処方箋薬局の入り口付近でラジオ体操をしているおばさんに、ニイちゃんは小声でいう。
「ニイちゃん、あのな、選挙に勝つくらい屁みたいなもんや」
「トランプは/法廷闘争/、ああ、懐かしいなあこのコトバ。とかをする、いうてますよ。やれんことはナイとおもいますが、法規社会ですから、でも、勝ち目はナイというか、万が一勝ったとしても、アメリカ中に混乱どころか、暴動、いや内乱が起こるだけですよ。負けは負け、四年後におばさんのいうとおり、また出てきたらイイんじゃナイですかね」
「包茎痘瘡、まあ、銭があるぶんヤレばエエねんけどな、しかしまあなんやな、ビックリしたのは、ニイちゃん、アメちゃんの7000万人以上の選挙民がトランプに投票しとんねん。つまりや、ほぼ半分はトランプでエエ、トランプがエエ、いうとんねん。四年後に出てきたら、また勝つかも知れへんで。アメリカ合衆国はそんなとこ、そんもんや。わしらはな、そのまた奴隷やねんけどな。要するに、わしらはバイデンにでも、トランプにでも、投票権がナイ連中とおんなじ、ちゅうこっちゃ。そやのに、勝ったほうにへいこらや。まあ、しゃあないわ敗戦国民やからなあ。戦争はヤッたらあかん。ヤッても何一つエエことあらへん。しかし、どないしてもヤラナアカンねんなら、負けたらオワリや。戦争は負けたら負けや。選挙とはだいぶんにちゃうわ。ニイちゃん、わしらはなあどっちが勝っても負けても、シミジミと敗戦国民やいうことを骨の髄までしゃぶっとったらエエねん。ガッコの教育でも、まずセンセが生徒にいうことは、ほんまはこうや。/みなさん、ボクらは敗戦国民です。これはけして忘れてはいけないことです。大日本帝国政府が公式にポツダム宣言受諾による降伏文書に調印した1945年9月2日を通常敗戦の日としています。つまり、もはや戦後半世紀以上、百年近くたちましたが、ボクらが敗戦国民だということに変わりはナイのです/
「おばさん、いつから右翼になったんですかね。雰囲気、そうですよ。遺恨が露出していますよ」
「離婚はしたことあるけどな。遺恨は知らんわ。まあ、帝国が勝ってもたいしてチガイはなかったかも知れへんけどな。いまさらにツルコウの唄が身に沁みるは~何から何まで真っ暗闇よ~スジの通らぬことばかり~右を向いても左をみても~バカとアホウの絡み合い~や。~ど~こに男の夢がある~ついでに女の夢もナイ~や」
ちょっと、自棄になっているのかなと、ニイちゃんはこのときおもったが、次の一撃がキツかった。
「ニイちゃん、あんた、シバイとか、しとんにゃろ。シバイは夢売る商売か。ほんまにニイちゃん、あんた、夢、売ってんのかっ。夢て、売れるもんなんけ」
ニイちゃんは黙した。
「もし、売ってんにゃったら、なにか、あんた、夢を銭に変えてんのか。そら、魔法やな」
ニイちゃんは歯ぎしりをしながら、涙堪えて、その場にうっ付した。
しかし、ニイちゃんっ、泣くなニイちゃん。この世は地獄だ。地獄だからこそ、夢も銭と交換出来るのだっ。天国や極楽では夢は売れんっ。夢みたいな惚けたところで夢が売れるワケがナイ。
「夢を売るお伽話」というのがあるのではナイ。夢を売ることこそがお伽話なのだ。地獄の鬼にも家族があるかも知れん。鬼にも女房子供がおってな、と、亡者にそうおもいこます、賽の河原の迷子をたらしこむ、それがこの世という地獄のお伽話、夢というものなのだぞっ。
~虎が屁こいて トランプゥ あほれ 梅毒もんのデングリガエリが、バイデンやほれ~
ついにおばさんは、院外処方箋薬局の入り口付近でラジオ体操をしながら歌いだした。院外処方箋薬局には、そういう病人に使う薬はナイ。
おう、それでイイではナイか。瓦礫と灰塵の地平に咲いた一輪の真っ赤な曼珠沙華、それがニホンだボクラのクニだ。では、その花言葉を何といおう。
/握られて屍の手に咲く花の願いかなえん我が手おどりは/
まるで時代劇の予告編の口上のようになってきて、今回は幕。
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