go to trouble
「ご隠居、人生ってのはナンデショウネ」
と、クマゴロさんが、いつものように上がり口に腰を降ろして訊ねた。
「そりゃあ、おまいさん、人生てのは/消え去っていくこと/だよ。
「はあ、なるほどねえ。そういや、みんな消えていっちゃうなあ」
「付け加えていうならばぁ、ポッと出てくることかな」
「どっから出てくるんでがしょ」
「ポット(pot)出て来るんだから、魔法瓶だな」
「うまく出来ておりますねえ。/ポット出て消え去ってゆく我が身かな そのココロはと問えば魔法瓶/、なんか一首出来ちゃいますねえ」
「ところで、最近何かオモシロイmysteryはあったか」
この世界では、クマゴロとご隠居は落語のような会話などしないのだ。残念ながら高尚な話題を持ち込むのだ。
「最近じゃあ、ありませんが、『屍荘の殺人』てのは、映画はつまんねえんですが、これがcomicじゃけっこうイケルんですね。原作に近いですから。trickや動機はありきたりですが、極めて着眼点の優れているのは、探偵の造形ですね。まずこの探偵、こりゃ詳細にいうとネタバレになりやすが、二人出てくるんですが、このtopology(位相幾何学)的配置が、おそらくいままでのミステリにはなかったもんでやんすね。ありゃ、作者の発明ですね。密室の作り方なんかはとくに驚くもんじゃネエんですが、女探偵が、なんで探偵をヤっているのかが、こりゃ、あっしは、アガサ・クリスティーのなんでしたっけ『海から来た男』でしたっけ、なんかそういうタイトルに登場する探偵の奇抜な造形に匹敵するんじゃねえかと、そこんとこだけは褒めますね。ありゃあ、たしか、いまは亡き都筑 道夫老師のエッセーに出てきたのを、アガサ女史の短編集で読んだんですが、その探偵というのが、事件現場にいつもたまたま居合わせるだけでしてね、素性がわからねえんで。『屍荘の殺人』も似た感じですかねえ。もちっと業が深いんですが」
「ほほう、なるほど、そういうのはいいねえ。まるで『宇宙船ヴィーグル号の冒険』で、ベムが独白するような驚きがあるねえ。いまならエイリアンというのかな、ベムは」
「でしょうねえ」
「ところで、今回のこのgo to troubleというタイトルはtravelに引っ掛けてんのかな」
「でしょうねえ。なんか、go to campaignてのは、あれ自体ミステリですね。犯人はワカッテんのに、やたらと周囲は声高に犯人探しをしてるっていう、アレですね」
「犯人は妖怪か、何かだろうねえ」
「でしょうねえ」
ニイちゃんは、出演するところがナイので、黙って聞いていたのだった。たまたまtoiletを借りにきていたんだろう。
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