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2020年10月21日 (水)

港町memory 147

港町memory 147
「死なないようにするには、どうすればイイんでしょうか」
と、ニイちゃん、真面目(まめんもくとは読まない)な顔でおばさんをみた。
「ほんなもん、年の功ちゅうやっちゃ。なんぼでも教えたるがな。と、いうても、おばさんにワカルのは、あの歌手の女のこだけやな。春馬くんの心情はニイちゃん、あんたのほうがようワカっとるやろ。竹内結子さんはワカラン。生後八ヶ月の赤ン坊のこして母親が死ねるというのが、おばさんの世界ではワカラン。あんたもそやろワカランやろ。あんたはしかし、母親の愛情というのを知らんから、よけワカランわな」
「ほんで、いや、それで、/つのまいさ/くんは、ワカルんですか」
「あんたかて、ほぼワカッテるやろ」
「まあ、ほぼ、なら」
「あのこはなあ、遊ばなアカンかった。出来るだけヤンチャがエエけど、男はアカン。そやから博打や。それも、カジノはアカン。競馬か競艇あたりで、二泊三日勝負するちゅうのんが、あのこのphysicalにも良かったはずや。あのこはmentalだけで潰れたんやない。Physicalが壊れきっとるさかいにな、一仕事終わったらトンズラこいて、競艇にでも行けばよかった」
「二泊三日もですか」
「あんた、競艇の遊び方知らんなぁ。競艇は一日にしてならずもんや。一日はアカンねん。一日やとそこでガバっといくやろ。それはアカン。まず、一日めは船の走りを観る。そうしたらデータのちっこい新聞がもらえるやろ、乗り手の近況からエンジンの調子まで書いてある。そこからが船の走りをおもいだしながら推理や。これが、オモロイねんで競艇は。あんなもん水の上走るだけでアっというまやからな、勝負そのもんはあんましどうってことないねん。二日目もし12レースあったら8レースくらいをやってみる。掛け金の元手はきっちり決めておかなオモロサ半減やで。なんぼでも使うてエエ博打みたいなもんツマランさかいにな。まあ、5千円にしとこか。1レース千円でもええ。推理と現実のレースの賭け事やで。たぶん、多くても2レースくらいは当たりやろ。そこでベンキョや。三日目もおんなじ。全部のレースをやったらアカン。それは瀕死の大食らいや。こでも8~10レースにしとくねん。前の晩は推理や。だいたい、そこで連単は決めといて、デモ・スタート観て、しかし、これはわざとが多いからそんなにアテにはならんけど、わりに当たることがアル。さあ、勝負や、なんぼ勝ってても最後のレースに全額突っ込んで、勝負すんのや。ぎょうさん負けても二日で二万円くらいやろ。こういうのをヤッタラ良かったんやけどな」
「つまり、他に勝負が出来る趣味を持てということですか」
「しゃあっ」
「競艇場には亡者がいっぱい転がっとるワ。赤エンピツ走らせとるワ。自分もおんなじや。このこの書いた歌詞、適当に出してきてみぃ、」
「たとえば、」
「みな、似たようなもんや。死にたがっとるワ」
「/もういいかな 心のこりも なくなっちゃった 若いままの私で 終えたいな/、はあん、なるほど」
「しかし、そんな程度の歌詞やら詩なら、ニイちゃん、あんたもようさん書いてるやろ」
「書いてますね」
「しゃあけど、死なへん。なんでや」
「それはっ」
「中島みゆき、やら、小泉キョンキョンもおんなじや。作品と自分とのstanceがワカっとる。あの太宰ですらそうやった。困った子は原口トーゾーのマザコンくらいかな。『108』ちゅうのんで、お釈迦様に文句たれとる歌詞もあるやろ」
「ああ、あります」
「世界が狭いねん。釈迦牟尼シッダルータかて、あそこに書かれてあるように、苦しかったんや。しゃあから修行みたいなややこしいことしよったんや。ほんで、悟ったか。そんなことワカルかいな。修行以外は作り話が多いさけな。達磨はもちっと賢かったな。それでも九年や。ほんでいいよった「壁は壁やなあ。アタリマエや」。樋口一葉は、病気さへせえへんかったら/奇蹟の十四ヶ月/もずんどこに伸びてたやろ。この歌手の女のこは一葉のように「私だけではナイ」という世間の悪所見物がでけへんかったのが不幸やったなあ。それとカラダはそんなに強うナイのに、無理しよったなあ。あら、突然死やのうて、疲労死やで」
 ニイちゃんはおもう。/願わくば花の下にて春死なん その如月の望月のころ/、そんなイイことがあるものか。/願わくば雪の降る日に我死なん その結晶のとけるごとくに/まあ、これくらいがサイコーだなあ。と、院外処方箋薬局の入り口付近ではなく、中からケケケケッと一瞬けたたましい笑い声がした。ちぇっ、笑われたか。ちょっとromanticに過ぎたからかなとニイちゃんは苦笑した。 

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