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2020年9月18日 (金)

港町memory 137

「権力がなぜ、悪いんですか」
気色ばんだような声だったんだろう。ある対談で橋爪大三郎さんはいう。
そりゃあ、そういうしかナイ。大三郎さんはクリスチャンだから、権力を否定することは不可能だ。しかし、聞かされた(問われた)ほうも一瞬ハッと息を飲む。たしかにそうだ。「権力がなぜ悪いか」に応えたのはバクニーンの(それでも)理想主義(無政府主義ともいう)くらいなもんだろう。
「権力がなぜ、悪いんですか」
そこでニイちゃんは独り言のウィスパーで応える。「なぜ、悪いかじゃなくて、古今東西、悪い権力以外の権力は存在しなかったんですよ、大ちゃん」
菅新内閣はえらいハリキリようだ。江戸時代なら「年寄りの冷や水」と揶揄されんばかりの突っ走りだ。
「そら、ニイちゃん、失敗はみな安倍ちゃんがヤッたさかいにな。その反対こをしつつ、おんなじようにヤれば、あれ以上の下手は打たんさかいにな。まあ、なんぼ、生ゴミの蓋の把手やいわれても、やりやすいことは確かやな」
『SP 警視庁警備部警護課第四係』(エスピー けいしちょうけいびぶけいごかだいよんがかり)という長ったらしいタイトルの(金城一紀のオリジナル脚本)の名せりふ、というても、ニイちゃんはすっかりそのとおりを忘れているので、「つまりですね、二十年の獄をくらった犯人がその二十年目に出所してきていうんですよ、/オレが監獄にいるあいだにいったい何人、総理大臣が変わったっ、世の中は二十年前とちっとも変わっちゃいねえっ/、これいいですよね」
「変わるかいな、戦後も戦前もおんなじヤ。これから先も一緒ッ。子供の頃、おおきなったらなんになるんや、いろいろかんがえたやろ。なれると、ちゃうで。なる、やで。ニイちゃんどないおもてたんや」
「医者です」
「ほら、エライもんやな。医者に通てる身でありながら」
「私の場合は、母親が、おまえは将来医者になるのやと、なんべんも私にいいましたし、他のひとにも、この子は医者になるんや、と、いってましたから」
「なりたあなかったんか」
「と、いうか、医者というもんが、ナニをするひとかワカランかったですから」
「なるほどな。ほんで、医者通いか。五つも」
「六つ、いや七つかな」
「ニイちゃん、これから先は何になりたいんや」
「これから先といわれても、もう、先っちょですから」
「先っちょでも、まだ在るがな。なんぼでもとはいかんけど、女の一人や二人」
「数多の病院通いの高齢者で、仕事がナイ、そういうのが趣味な女性、いますかね」
「いるか、そんなもん。いっそ、年上のひとはどうや」
「気色悪い微笑みはやめてくれませんか」
「わしの愛読書はな、ヒロガネケンシさんの『黄昏流星群』やで。ひひひひひひ」
「あれは、大人のお伽話ですから」
「まあ、そっちのほうはアカンとして、最後に一花、なんぞナイんか」
「そういうことをかんがえると、すべて、妄想になってオワリですね」
「わしは、いっぺん、パッパが喫うてみたいワ」
「この院外処方箋薬局で、裏取り引きがあるという噂がありますよ」
と、ニイちゃんがいってるあいだに、間、髪をいれずおばさんは院外処方箋薬局に消えた。ただし、裏口のほうに。
「パッパねえ。種くらいなら、ここの院外処方箋薬局に売ってるかな」
ニイちゃんは、妄想しつつ、立っているだけ。

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