港町memory 127
「浮かない顔してババンバーンッッ」
と、まっこと浮かない顔して、院外処方箋薬局の入り口付近で、おばさんが歌謡showでもはじめたのか、いつもの自棄か。
「どうしたんですか」
と、いちおう、文脈上においても訊かなければならない。
「ニイちゃん、聞いてえなあ」
「だから、聞いてるじゃないですか。訊いて、です」
「うちの嫁のダンナがな、車にオカマで、頸椎を傷めたかなんかで、病院、いきよったんや」
「私と一緒じゃないですか」
「あれって、なんや、脊髄神経科とかいう脳神経外科の領分やねんてな」
「そうですよ。整形外科じゃアリマセン」
「ほんでマールイワイ撮ってな、その医者のせんせが日本で五人しかいない名医やそうで、診てもろたんや」
「MRIね。あれ、ふつうの整形外科より、脳神経外科のほうが、磁場を強めるんだそうですよ。映像がclearになるんで」
「そんなん、どうでもエエねん。そうしたら、その名医、/これは手術の必要ナイですね。整体にでもいって治しなさい/いうたキリ、屁えかまして、アトはナンニも診てくれへんねん。ほんで息子が/どこがどうなってるんでしょう。首、痛いんです。腕も痺れて、私、運転手してますから、困るんです/いうたらな、そのせんせがな、/ボクは、日本で五人しかいないシリツの名人なんですよ。シリツの必要でナイ患者は診ないことにしているんです/やて、テレビ、やないで」
「ああ、それ、透明病院のオミズノdoctorでしょ。あれは、device doctorですから、アキマセンね。残念でした」
「なんやその、device doctorちゅうのんは」
「シリツ、いや、手術専門。いうてみたら、personal computerのdeviceみたいなもんですよ。日本で五人しかいないというのは、その手術方法、内視鏡手術というんですが、それで手術する執刀医が五人ということで、特に優れた技法とかでもナイですよ。頸椎手術の外科医はたくさんいますよ。だいたい、どの手術法が最も優れているかというのは、決められないらしいんです。相性もあるし、執刀医の腕、技術もあるし、まあ、世の中の医者には、私がいつもいうように、〔ふつうの医者〕〔それ以下の医者〕〔最低の医者〕しかいないんですが、例外的に〔device医者〕というのも最近いるようなんです。Personal computer本体(疾病)には興味がナイ、device(手術)の新技術を開発して、シリツしか仕事にしないというのが、device医者。これは疾病より手術の方法に熱心なんです。それに、頸椎手術では、頸椎疾病は完治しないというのは医療業界の常識です。頸椎、脊髄のことは、まだよくワカッテナイんです」
「ニイちゃん、あんた、だいぶんに、トサカにきてるやろ。そやけんど、ヒトを呪わば穴二つやで」
「ええ、そうですね。その穴ですけど、私の場合は、deviceオミズノdoctorの真ん前に掘っておきましたけど。だいぶんに深い穴です。そのまんま、地獄におちるくらいの。だいたい、そのオミズノdoctor、日本国憲法医師法第四章19条の2、ならびに第23条違反ですよ。私はそういうチンケ相手に訴訟するほど余裕ありませんけど」
「あらま、そうなんか。それならそれで良かったわ、そういうdeviceに診てもろてたら、殺されるな」
「そうですね。医者も最近人殺しするようですから。どういうワケか、シリツの場合は、あっ、しもた、別の血管切った、失敗や。でも、人殺しにならないんですけどね」
「さてと、ほんなら、もう、歌謡ショーはオワリや。またコロナのハナシでもしょうか。なんや、東京都知事の小池やら、安倍ちゃんだけとちごうて、今度は公明党まで巻き込んでの泥仕合やで、官房長官もうろうろ、おろおろやで」
と、ウキウキと、おばさん、なんでか万歳三唱した。
「院外処方箋薬局の入り口、バンザーイ」
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