港町memory 122
「さあ、ニイちゃん、もうすぐおばさん死ぬけどな、そらまあ、歳やさかいにしゃあないわ。ニイちゃん、アト何年生きんねん。ええっ、コロナの都合でアト三年我慢せなアカンのか。そら、しんどいなあ。ここの院外処方箋薬局がクスリ扱こうてる病院は、あれで救急病院やさかいにな、二十四時間営業や。そやから、医者を集めるのがたいへんやわな。噂、ほんなもん悪いで、ボロクソや。退院するときはみなご臨終やいわれてる。しかし、それを覚悟、というよりも、緩和ケアよりマシやとおもうて、みな入院してんのやから、そんでエエのんや。本田宏ちゅうひとが書いた『「医療崩壊」のウソとホント』いうホンではな、いまの日本の医療は〈医師不足や赤字などが原因で病院や診療科が閉鎖され、患者さんが住んでいる地域で医療そのものを受けられなくなる状態〉なんやて。なるほどそうやわ、そういうのニュースでようやってるわ、テレビ。「救急患者のたらい回し」みたいなもん、COVID-19から始まったんやないで、今の東京では常識らしいわ。2025年になると、団塊世代が75歳(後期高齢者年齢)になるさかいに、救急車がもう、来てくれんようになるらしいしな、doctorがもう60歳超えてくるから、老老医療やねんで。そんな将来、というてももうちょいやけどな。いまみたいCOVID-19と豪雨災害になるとな、/災害時は保育園が閉鎖、医療スタッフ、特に女性が九割を占める看護師に影響/やで、どうおもう。2018年のdataやけどな、人口1000人あたり医師数はなんとまあ、2,4人やで、埼玉県なんかは1,7人やったらしいわ。まあ、おばさんも、地獄みたいな入り口で先に逝けて、ちょっとだけ得したワ。ニイちゃん、あんた地獄やなあ。可哀相になあ」
「けども、私は、この野戦病院好きですよ。私は合わせて六つ病院、医院に通ってますけど、看護師が笑い、患者とため口で話し、平気で患者に「あんた、臭いナ、ちゃんと風呂入らないなら、もう来たらアカン」みたいなことを平気でいってるところはありません。余所のところはみなお上品で息が詰まります」
「ほんなこというて、注射してもろてから、30分もベッドであぐらかいて処置室の様子をボーッと観てる、オカシナ患者やとおもわれてるんやろ」
「イイじゃないですか、私にとっては実に平穏、慰安、鎮静化された時間です。看護師はテキパキと働き、走って引っ繰り返り、医師はそろそろと歩き、/せんせ、しんどいんです/という患者に、/そういう日もある/、といいつつ、滑って転んでしっくり帰り、ちょっとみられない風景ですね」
「ニイちゃん、あんた長生きすんのちゃうか、アホやなあんた、ほんま」
雨は滅びの象徴のように、まるで、ノアの洪水を予兆するかのように、院外処方箋薬局の表に降り続いているのであった。
いつからか、私は、この院外処方箋薬局が担当する病院の処置室の風景を、遊びなれた砂浜に建つ病院、白い塀で囲われた、花々が咲き乱れる墓場がある病院、門という門は閉ざされ、窓という窓には釘の病院、かの唐十郎老師の名作『吸血姫』のシークエンスに重ねているのだった。
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