港町memory 113
雨がしょぼ降っている。おばさん、院外処方箋薬局の庇の下で雨粒でも数えているのか。
「えらいことに気付いたんや」と、いう。
「エライこと、というと」
「日本のコロナが解除になったやろ」
ずいぶんと略していったが、なんのことだかはワカル。
「なりましたね」
「ほんで、コロナ菌は何処におるねん、いま」
「COVID-19はVirusですから、コロナ菌(bacteria)とはチガイますけどね。何処にいるんでしょうね。私にもようワカリマセンな」
「おることはおるんやろ」
「ええ。解除の理由は、COVID-19の駆除に成功したからではないですから」
「こないだ、なんや、その加湿器に入れられる次亜塩素水ちゅうのを買うたンや。そしたら、孫が箱のなんや読んで、これはニセモンやといいよるねん」
「ははーん、それ、あれでしょ。塩素ナトリウム水を買ってしまったということでしょ。お孫さん、頭よろしいな」
「やっぱりチガウんか。何がどうアカンねん」
「そんじゃおばさん、長くなるかとおもいますが、丁寧にchemicalのおベンキョでもしましょうか。まず、次亜塩素水は、厚労省の定義では/塩や塩酸を水に溶かして電気分解したもの/になっていますネ。経済産業省も同じこといっています。たぶんおばさんの買ったのは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈、そこに、塩酸、クエン酸、なんやかんやの酸性溶液を混ぜる事によってpH(ペーハー)調整したものを次亜塩素酸水溶液として販売しているものでしょう。これもいわゆる便乗商法。いまpHといいましたが、これは、水溶液の、酸性・アルカリ性の程度をあらわす単位です。中性はpH7、これより低い方を酸性、高い方をアルカリ性と呼びます。簡単にいえば、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの違いは、この pHがチガウということです。次亜塩素酸水は弱酸性、次亜塩素ナトリウムは強アルカリ性で、まったく逆です。次亜塩素酸水は肌と同じpHですから、皮膚にダメージはありませんが、強いアルカリ性の次亜塩素ナトリウムは皮膚が荒れたり爛れたり、かなり危険なシロモノです。しかし、どっちにも殺菌力はあって、それが〔次亜塩素酸〕と称されているものです。次亜塩素酸は、幅広いウイルスや細菌への効果があることで知られています。台所なんかにあるハイターなどは次亜塩素ナトリウムのほうです。これはpH濃度が高いのでそのまま使うことはできません。ハイターを使う場合、水で希釈するのはそういう理由からです。次亜塩素酸水は、pHが低ければ飲んでも害になりません」
「ほー、そういうもんかいな」
「さて、いま世間で問題になっているのは、COVID-19対策として、この両者は使えるのか、さらに、しかも噴霧器で噴霧して効果はあるのかということですネ。朝日新聞とか毎日新聞では、/効果ナシっ/と出てましたねえ。それで、私、へそ曲がりですので調べてみたんです」
「なんや、〔自衛の〕とかいう高いもんがあるらしいけど」
「ジアイーノですね。メーカーのパナソニックはCOVID-19に対しての効果は「ワカラナイ」と無難な応えかたをしています。ジアイーノは加湿器でもなく、噴霧器でもなく、これ、〔除菌脱臭器〕になってますが、仕掛けをみると、塩の電気分解装置なんです。つまり、塩を電気分解して、排出するという機能、次亜塩素酸水を作るというシステムですね。とはいえ、COVID-19に対しての効果を「ワカラナイ」と応えたのはそれで正しいとおもいます。だいたいCOVID-19自体がいまのところまだよくワカッテいないんですから。ただ、こういった製品は2000年当初から、ホテル、病院、介護施設の消毒には用いられていました」
「ほんで、噴霧、加湿器に入れるのはどうやねん」
「それはですね、「次亜塩素酸水」の空間噴霧についてNITE(製品評価技術基盤機構)からファクトシート(ファクトシートとは、製品やサービスの概要や特長、メカニズム、開発の経緯やもたらす影響・効果などについてまとめたもの。 一般や顧客向けの製品パンフレットと異なり、読者がメディアの記者であることを念頭に置いて編集)が発表されたんですが、その前にWHOの見解をみてみましょう。
「COVID-19 について、噴霧や燻蒸による環境表面への消毒剤の日常的な使用は推奨されない」さらに、〔消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない」とあります。ここでは、〔消毒剤〕としか明記されていません。〔人体に噴霧〕ともあります。〔精神的にも有害〕ともあります。疑問点が多いなあ、とおもいます。次亜塩素酸水は、強酸性、弱酸性、微酸性と3種類あり、実際3種類の次亜塩素酸水に対するこうした試験のエビデンスは公開されていません。で、要するにCOVID-19に対しての答えですが、現時点においては、「次亜塩素酸水」のCOVID-19への有効性は確認されていないので、「効果アリ」と宣伝、喧伝することはできません。ただ「効果がナイ」ということも検証されていませんから、要するに「ワカラナイ」でいいんです。報道は報道ですから、要するにimageなもんで表現の自由がありますが、科学はその点、自由度はありません。そういうことです」
「どういうことや。あんたのハナシはいっつも難しゅうなるけど、聞いてるほうは結局ワカランのが多いな。じっさい、加湿器、ヤってもエエんか、どないやねん」
「やる、やらないは、殺人と強姦を除いては個人の自由だというのが私の信条です」
「アホくさ」
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