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2020年5月14日 (木)

港町memory 108

「ちょっとあんさん、オワッタで」
突然、おばさんが処方箋薬局の待合に飛び込んできたので、
「何がですか」と、当然、聞きました。
「コロナや。終りやいうてた、テレビ」
「それはあれでしょ。緊急事態宣言が解除でしょ。東京とか大阪なんかはまだですが」
「なんや、終わったんやないのかいな」
「まだまだ、やっと第2波あたりが終わったくらいで、これから中南米、アフリカときますよ。さらに合衆国、韓国は新波ですよ」
「新派大悲劇かいな、いうても、いまの若いこにはワカランわなあ」
「いや、私も新派大悲劇は観たことがナイんで」
「あんさん、歳隠したらアカンで。七十はいってへんやろけど、そろそろやろ」
 話題がへんなほうにいかないようにと、
「おばさん、終わったら元の世間になるのがエエんですか」
「そこやがな、ニイちゃん。ニイちゃんと呼んだるさかいにな、よう聞きや。あのな、わてな、ふとかんがえてみたんや。元の世間や。元の世間がそんなに良かったかいなとかんがえたんや。そしたらやなあ、そんなにエエこともなかったなあと、どや、おもうたんやで」
「まあ、そうですね。そんなにエエことなかったですね」
「まあ、そうですなやあるかいな。銭の無い年寄りには地獄やったワ。あんなんにもどっても、しゃあナイなあ。コロナになって、ご近所のひとはミケネコネーションがなくなったとかいうてたけど、そんなん、コロナやのうても、誰も挨拶のひとつもせんような世の中になってたしなあ、わての伜がこぼしててたわ、ショウガッコの女の子にお早うとか、今晩はとかいうたら、変質者やちゅうて、交番に駆け込まれて、ポリに呼ばれたらしいねん。そらまあ、五十過ぎてるオヤジが、なんつうねんロボコンとかいうのんか、そんなんに間違えられてもしゃあないけど、あんた、挨拶しただけやで。けっきょく、一緒やんか、なあ」
「そうですねえ、私なんか、みなさんが揃ってビンボになったんで、なんか平等な世間になったなあと、ほっとしたような、というと、失業したひとに悪いんですけどね」
「そこやがな、コロナで死んだひとよりも、ビンボで首吊ったヒトのほうが多いんちゃうかとか、いうてたで、テレビ。けんども、政府のほうが、ぎょうさん銭ばら蒔いたさかいにナントカなったとか。安倍ちゃんもヤルときはヤルなあと、おもうたんやけど、や、あのばら蒔いた銭は、いったいどっから出てきたんや。あんたなら、知ってるやろ」
「あれは、けっきょく国民の銭とチガウんかな」
「なんや、税金でとられるんかいな」
「いや、税金は、公務員の賃金ですからチガイます。国債のほうでしょ。つまり、国の借金ですね」
「政府が借金すんのか」
「政府というか国ですね。国が一枚ナンボの債券を売る、ふつうは一旦、国民や銀行が買って、それをさらに日銀が買う。コロナは面倒なことを避けるのに、日銀がもう直截買う。千円の債券を1000枚売ったら、百万ですね。それが国の借金。それをさらに国民に蒔く。期日が来たら利子を付けて返す。しかし、千円で買ったけど、手元に銭がナイので、値打ちが下がって五百円のときに売る。そうしたら、買ったほうは半分損をするけど、国は得をする。と、こんな仕掛けでしょ」
「なるほど、そんで、銭は天下のまわりものというんか」
「そうですね」
「しかし、国が利子つけて返せんようになったらどうすんねん」
「それは、国が貿易で儲けてとか、税金で、」
「やっぱり税金やナイかいな」
「まあ、国債を買うほどの銭の無い私たちは心配することはナイとおもいますけど」
「インフレになったら、どうすんねん」
「もう、いきなり難しいことだけまともにいいますね。それより、私はおもうんですけど、たとえば、COVID-19にはワクチンの効果があんまりナイとします。すると、インフルエンザより強めの流行性感冒が常に、あんまり死なん程度に流行ってるということになります。すると、ひとはいっぱい手を洗うし、換気はするし、唾を飛ばして喧嘩することはなくなるし、他の病気の予防にもなる。密になったらアカンので電車の席の取り合いしなくなるし、公演や観光地では、適当にゆったり出来て、自宅勤務は多くなるから出勤も減るし、ガッコは週に三日。アトは塾にテレワーク。ヤリたい盛りの中高生の妊娠が増えて、人口は増える。精力余っているのですから、ヤルならヤルで、検査してから濃密接触ということにして、性病も減る。余所で酒飲む日も少なくなるから、家庭の日が増える。家族でなんかスル時が増える。演劇、映画は客席空いてるし、消毒出来てるし、稽古場や撮影現場も消毒。なんというか、/適当に中くらい/の日常になるから、この/適当に中くらい/というのは、イイんじゃないかとおもいますけど」
「そこまで上手いことにはならんやろ。往生するワ、あんたのハナシ聞いてると」
おばさんは、結局何をしに来たのかワカラナカッタが、そのまま、欠伸して帰った。
しかし、人類史上で、疫病、伝染病、感染症、いろいろな名称でいわれているが、そういう疾病が戦争を早く終わらせた記録は数多あるという。棄てたもんでもナイんじゃなかろうかと、高楼の夢に酔っていると、おばさんが駆け足でもどってきた。
「ニイちゃん、おもいだした。わてな、エライ疑問あるねん」

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