無料ブログはココログ
フォト

« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »

2020年5月

2020年5月22日 (金)

港町memory 112

おばさんがため息を漏らしている。オシッコを漏らすよりはマシなのだが、
「きょは、どうしました。やっと宣言解除なのに」
「ニイちゃん呑気やなあ。一回り私のほうが年上やけど、ものごとは科学的にかんがえなアカンで」
科学的というコトバが、八十過ぎのおばさんから出てきたのにはビックリした。
「要するにや、第二波とかが来るやろ。ほんでもなあ、うちの孫がいうには、コロナの流行を止めるのには、人口の六割のヒトが感染して免疫を持たなアカンねんで。あんた、六割やで、半分以上やないか。半分以上感染せな終わらへんねんで。よう、のんびりしてられるなあ」
「べつにのんびりはしてませんが、私もいま、頸椎の手術を忌避されて、その理由が、おそらく私が精神科に通院しているかららしいんです。推測ですが、これで二度目ですからだいたいワカルんです。手術する医者は日本で五人しかいない脊髄神経科の権威なんですけど、精神科医療に関しては勉強してませんから、偏見が強くて、こういうヒトは、きっと知的handicapの患者も診ないんでしょう。偏見は医師のあいだにもまだけっこうあると、知り合いの精神科医もいうてましたけどね。だから、もうエエんです。この上、私の祖母が被差別部落民だったと明かしたら、診療もアウトですね。関係ないけど、何処かで吐き出したいので、いまいうておきますが」
「そういう医者はレクサス程度には乗らんナ。メルセデスやな。しかし、なんや、あんたキチガイかいな」
「ええ、もう四十年以上鬱疾患です」
「鬱疾患やと、コロナにはならへんのか。そんでのんびりしてんのか」
「そういう研究もあるようですが、それは次回にして、その人口の六割感染というのは誤解ですよ」
「ほんまかいな、キチガイのいうこと信用してエエんかいな。こないだの水道水もアヤシイのとちゃうか」
「いや、実例をあげると、例のもう忘れられているであろうクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』ですが、感染したひとは、全体の二割程度ですよ。六割なんてぜんぜん」
「そやかて、そういうてたで、シナモン委員会たらいうとこのセンセが、テレビ。あれ、ウソか」
「ウソではありませんが、あれは獲得免疫のハナシですよ。厚労省の調査では、陽性率は東京が500検体で0,6%、東北六県の500検体が0,4%でそんなに差はナイんです。要するに免疫抗体の中にも三つ種類があるそうで、新型コロナは免疫の出来方が良くないことはたしかです」
「免疫と抗体というのは、何がチガウねん」
「抗体というのは体ですから免疫をもっているヒトのことですね」
「ほんで、どんな種類があるねん」
「〔善玉抗体〕と〔悪玉抗体〕と〔役立たず抗体〕です」(注:これはわたしの命名で、ほんとは[役なし抗体])
「そこまでいわれたら、ワカルで、もう。新型コロナは善玉が出来にくいんやろ、どや」
「そのとおり」
「出来にくいのに、なんで、日本は感染者、死亡者が少なかったんや」
「それは、自然免疫があったからではないかというのが、真っ当な理屈です。免疫には獲得免疫と自然免疫があるんです。自然免疫というのは、訓練と強化とを自分でやってるそうなんです。たとえば、いったん話題になって、影の薄くなったBCG結核ワクチンは最近の研究でだんだんカラダの中で強くなってきて、自然免疫として強化されて他の感染疾病にも有効なことがワカッテきています」
「ほんでも、BCGはエビデヤンスとかカニデゴザンスが無いいうてたで、テレビ」
「しかし、示唆はしていました。公理にはなっていませんが傾向程度ではありました」
「そうするとなにかいな、第二波で六割のヒトが感染というのは誤解か」
「六割のヒトが感染して数十万人が死ぬとまで、その誤解は広まっています」
「ほな、自然免疫の弱いヒトは、やっぱりワクチンかいな」
「ところが、このCOVID-19は、ワクチンでの獲得免疫があまり高くもなく長くもナイようなんです。しかし、20%までの感染で集団免疫の閾値(しきいち)はなんとかなりそうだということです」
「閾三寸かいな。20%なあ。10人に2人、5人に一人やで」
「ですから、いままでのように、私たちは自然免疫を信じて、ひたすら手指を洗い、消毒して、三密はできるだけ避けて、まあ、羽目を外さない程度にすれば第二波もそれほど多大な影響は及ぼさないということですよ」
「しかし、キチガイのいうとることやしなあ。わてなんか、こないだから、毎日水道水を一日6ℓ飲んでんねん、そらもうひどい下痢やで」
「いやいやいまのハナシは宮坂昌之博士(京都大学医学部卒業、現在は免疫学フロンティア研究センター招聘教授)の、インタビューを読んでのことで、このヒトはほんとの権威、偏見のナイ権威、デバイス医者ではナイ医学者のハナシですから、大丈夫だとおもってます」
「なんや、そのデバイス医者ちゅうのんは」
「PC本体にくっつけるいろんな機械です。脊髄疾患のデバイスとしての手術が、本体だと勘違いしている医師のことです。デバイス権威は日本に五人ですが、私は日本に一人しかいないキチガイです」
「あんたのキチガイも可無んけど、そんな医者にあたったらもっとカナンな」
「幸い、ここの院外処方箋薬局の病院には、そういう御方はいません」
「ほんでも、ここの病院、ネットrevueの☆が一つばっかりやで。ヤブやヤブやいわれてるけど、大丈夫かいな」
「大丈夫です。ここの病院は、対等なんです。医者と患者、看護師と患者、医師と看護師が対等、いいかえれば同等。と、そういうところが他とはチガウんです。ですから誤解されるんです。大丈夫ですよ、医者嫌いの私が命預けてるくらいですから」
「ほんでも、キチガイやからなあ。スマホメールでキチガイて打ったら、キ+++としか出えへんねんで」
「天才とキチガイは紙一重、私の場合は紙やなくて、次元一重ですね」
「ほんまに、キチガイのいうことは、ようワカランわ」

2020年5月18日 (月)

港町memory 111

「うーん」
院外処方箋薬局でおばさんが唸っている。
「どこか具合が悪いんですか」
「ニイちゃん、あんたアホか。具合のエエもんが、病院来て、院外処方箋薬局にクスリもらいに来るかちゅうねん。謎や、疑問やないで、今度は謎や」
「かんがえているんですか」
「便秘で悩んでるみたにみえるか」
そうみえなかったというとウソになる。
「あのな、いま、コロナな、世界で4,634,068人感染の死者が311,781人や。知ってたか」
「えらい詳しいですね」
「ところがや、日本では、16310人感染、死者は748人、どっちも5/17現在や」
なるほど、dataは新聞読みながらだから、それでいいのだろう。
「これはちょっとおかしい。やっぱり、P検査で誤魔化してるのとチガウか」
「いや、そうではなさそうです。というか、私もそうではナイとおもいます。日本の罹患数と死者の少なさは世界的にほんとに謎なんです」
「しゃーろ、謎やで。べつに、安倍ちゃんナンニもしてへんみたいにおもうんやけど、なんど、スゴイことしたか。宣言出しただけやろ。ニイちゃん、どうおもうねん、、中日文化賞もろたんやろ、なんど、賢いこというてみいな」
「私の受賞は演劇ですから、医学や生物学とは関係ありませんが、マチガッテていいのなら、私のかんがえをいいますと、」
「もったいぶらんと、はよ、いえっ」
「水道水だとおもいます」
「ほう、水道水。そんでオワリか」
「アジアで唯一、水道水の水が飲料、つまり、飲めるのは日本だけなんです」
「ええっ、そんなもんかっ」
「で、手洗いがいろんなところで出来るのも、日本だけです」
「そやな、あちこち水道だけはあるなあ」
「これは、欧米と比較しても希有なことです。日本の水道水は塩素消毒がされています。ですので、石鹸を使わなくとも、そのまま流水で手を洗えば、COVID-19は ある 程度は落せます。それに、」
「ワカッテるわ、みなまでいうな、それくらいにして桶屋の三吉。風呂やろ。日本人は風呂好きやからなあ、たいてい、毎晩風呂入るなあ。あんだけでも、けっこな消毒やで」
「そうなんです。それに、」
「待て、それ以上イワンの馬鹿。トイレが水洗や。最近はケツまで洗うてくれよる。どや、」
「そうですね。つまり、上下水道の完備がひじょうに衛生的で、管理されていると、ここが他国との大きなチガイです。これって、医学者のような賢い方はけっこう見過ごしてますが、私たちのように単純な庶民大衆としては、すぐに気づきますよね」
「私、たち、てなんやねん。わては中流階級のまあ、下のほうやけど、愚民大衆やないで」
「そうでしたね、下でしたね」
「そこだけ強調して、どないやねん」
「それと、お茶飲むでしょ、けっこう。その水もまあ、水道水ですし、緑茶はインフルエンザ予防にもなるし、総合的にかんがえると、/水がチガウ/、これだけやナイでしょうか」
「/水がチガウ/これは、えらいこっちゃで。しかし、塩素はとり過ぎると毒やいうてたで、テレビ」
「原水に含まれている有機質の一種であるフミン質などと遊離塩素が反応してできるトリハロメタンや、そのほかの有機塩素化合物が、発癌性物質として問題になって、使用量は抑制されるようになってますね。現在では、浄水方法が発達したことなどによって、使用される塩素は微量になってます」
「とはいえ、塩素やな。そうか、謎は解けた。これからは水道水や、水道水で第二波撃退や。ここの院外処方箋薬局でも水道水売っとるやろ。ちょっと聞いてみたろ」
おばさんは、嬉々として、院外処方箋薬局のお姉さんを呼び出した。
それから、
「エライこっちゃ、ここは水道水はタダやねんて。えらいサービスやで」

2020年5月16日 (土)

港町memory 110

「ニイちゃん、おもろいニュースがあるで」
という、おばさんの声でアラエッサッサをやめることが出来た。院外処方箋薬局の薬剤師に首根っこを捕まえられて外に放り出された直後だ。
「なんですか、今度は」
「これやこれっ」
と、要点だけを(そうしないと、おばさんの説明では二時間くらいかかる)述べると、
/東京女子医科大学(東京都新宿区)が2020年6月から、対面授業の再開に向けて準備を進めていることが5月15日、分かった。事前に全生徒約1000人にPCR検査を受けさせ、陰性者のみ登校させる/
とのこと。この何処が今更おもろいのか。
「アホやなあ、ほんまに、ニイちゃん、そうおもわんか」
「うーん、たしかに、こういうやり方はねえ。事前に全生徒約1000人にPCR検査、こんな数、出来るのかな。/学生や保護者の間では「なぜ焦って6月から開始するのか」「感染リスクが高い東京に向かうことが大変不安です」などと反発が広がり、嘆願書が出される事態。/女子医大は5月11日付で、学生と保護者に「6月登校にむけての準備のご案内」と題した通達を出した。感染状況に「回復の兆し」がみえたため、6月に対面授業を再開する準備を進めている。院生を含む医学部、看護学部の全ての学生にPCR検査を実施すると知らせた。/うーん、やっぱり医大やからかなあ。こんなにいっぺんに」
「しかしな、これな、経費は全部学生負担や、つまり親の負担や。検査費(1万6000円~)やて。ここで儲けるワケや。P検の数が不足やとかいうてるのに、すぐにでけんのやな」
「いや、できませんよ、そんなこと」
「そやろ、そやからオモロイいうてるやんかいな。学生さんのほうはな/「貴重な医療リソースは本当に必要としていらっしゃる方のために使うべき」/とかいうてはんねん、さすがに女子大でも歯科医大の女の子はチガウな」
私はつづきを読んだ。(だいたい、その記事のある新聞はおばさんが持っているのだから)
/「地元ではコロナ患者・疑いの人に対し厳しい印象を持つ人が多い。感染者が多い東京に一度でも行ってしまうと、かなり長い間地元に帰れなくなってしまう懸念があり心配である」「県外から通っており、高齢者と同居する私としては感染リスクを限りなく少なくしたいです。現在感染リスクが高い東京に向かうことが大変不安です」「どう努力しても3密を避けられない状況で、たった1回の『感度は低く特異度が高い』検査をするメリットと、無症状の陽性者や偽陰性者と濃厚接触するデメリットを考えて頂きたい」「検査キットそのものだけでなく、検査をされる先生方や検査技師の方々の労力や時間など、貴重な医療リソースは本当に必要としていらっしゃる方のために使うべきではないですか。意味や必要がない検査は患者への負荷も考えて行うべきではないと授業で何度も習ってきました」/
「なるほど、もっともですね。理路では勝っていますね」
「なっ、アホやろ」
「だから、学校のほうがデショ」
「なにいう天然、ボケ。アホは学生さんのほうや、だいたい、/授業で何度も習ってきました/みたいなことが世間で通じるとおもてるのは、世間知らずのアホやで」
「いや、カシコイとこもありますよ。/オンライン授業は、慣れてもきたのでコロナが落ち着くまではオンライン授業の方が学生としては安全です。学校は大学病院の敷地内にあるので、信頼して通院や入院をしてくださっている患者さんのためにもなると思います/これはカシコイでしょ」
「そやから、そんなもん世間に出たらいっぺんに引っ繰り返るワ。歯医者といえど、人生は甘くはないで。けど、あえてやで、カシコイというなら、/地方の学生が一日だけ東京に行って検査をして帰ってくることがもし地元でばれてしまったら、周囲に非難されるとか、東京に行ったためにコロナに感染したらそれも非難される。親が開業医の学生も多くて、病院の経営に影響します。それを懸念する保護者も多いです/ここやな。ちゃんとワカッテるやないか、上京の端役がでけとんねん。さすが歯科医の女子大生や」
「状況の把握ですけど。褒めてるんですか、貶しているんですか。どこがオモロイんですか、私は不快だなあ」
「ニイちゃん、エエ歳して正義の味方みたいな顔せんとき、ええか、いちばんオモロイのはここや。/焦って6月から開始するのか理由が知りたいです。わざわざマスクとゴーグルとフェイスシールドを着けてまで授業に臨まないといけないのか。そこまでしてやりたいのはなぜなのか。ここまで強硬的にやられてしまうと裏があるのかと考えてしまいます/。なっ、ようワカッテるわ、こんなもん、裏がなかったらヤルかいな。ほんでガッコはこういうとんねん/「この度のご質問については、回答を控えさせていただきます」/こんなもん、ソノトーリ大臣の答弁やがな。裏がアルというてるのとおんなじやで、大笑い三人組や。うちな、いま「あかねちゃんデンタル」で虫歯みてもろてるんやけど、そこの女医さん、丁寧でエエわ。やっぱ、歯医者は女医さんやな」
私は、逆に歯が痛くなってきた。歯医者は女医さんというおばさんの言い分に異論はナイが。

2020年5月15日 (金)

港町memory 109

「なんですか、エライ疑問とは」
「医者ちゅうのは儲かるんやろ」
「そりゃ、いろいろでしょうけど」
「そんなことないで、もし、儲からんかったら、子供に家業を継がせたりするかいな」
「まあ、imageとしては、そうですね」
「たいてい、レクサス乗っとるやないか」
 それはどうかワカラナイ。うちの近所の医師は軽乗用車だったけど。
「ほんでな、医療崩壊とかいうて、その、なんつうねん、最前線で働いている医者や看護師は命懸けなんやろ」
「だとおもいます。とくに賃金が高いとか聞いてませんから」
「そこや、そこやねん。なんで、国は最前線の医療十字結社になんぼ払ってんのか、いわへんねん、テレビ。わてはおもうねん、最前線で崩壊寸前のはな、」
「もう、何万人も亡くなってます」
「そや、そういうのはな、よっぽど義に厚いか、くじ運が悪いか、どうにもこうにもならんのが送られていきよったのか、どれかやで」
「まあ、泣きながら防護服と着替えている看護師のニュースなら、あったらしいです。海外のもんですけど」
「ほやから、レクサス売りぃ、いうてんねん」
ちょっと論理が飛躍しだした。
「そんなもん、仲間が苦しいいうとんねん、レクサスいうたら一千万やで。医者のあいだで、/みんなでレクサスを売って、最前線に防護服とマスクを送ろうっ/決起集会いうのをやな、やらなアカン。それもせんで、わてらの十万円、まだもうてへんねんけど、それを医療崩壊を防ぐために寄附しましょうはオカシイんちゃうか」
えらい、まともな、というか、オカシナというか、よく判断出来かねるこというおばさんやな。
「おのね、おばさん、医療崩壊というのは、いま始まったワケじゃナイんです。もう遠に崩壊しているのが、今度のCOVID-19騒動であらわになっただけなんです」
「ええ、もう、してたん。いつからや」
「医者というのは、赤の他人の命で商いをしている人たちです。そうかんがえてみて下さい。赤の他人のためにレクサス売りますか」
「売らんナ」
「おばさんのいうことはよおくワカリマス。まず、同胞の危機に対して、自らが立ち上がれっと、まあ、かっこ良くいえば、そうですよね」
「そのとおりや。それ、なんでやらへんねん、それが疑問やいうてるんやんかっ」
「それぞれの医者には、そぞれの持ち場があります。それぞれの持ち場で頑張ってたらエエのんとちがいますか」
「そうかな、そら、エエふうに聞こえるけど、それ、詭弁というのんとチガウか」
あらっ、難しくなってきた。
「観てみぬふりと、おんなじやナイか、えっ、そやないのんかっ」
剣幕というヤツだなあ。
「いや、そうじゃなくて、レクサス乗ってナイ医者も、持ち場持ち場でひとの命を守ってますよ」
「アタリマエや、それが医者の銭儲けやないか。原発の後始末やっとるのと、コロナ最前線で医療崩壊の中での命懸けと、似たもんやないか」
「いや、それとこれとは」
どうチガウのか、私も錯乱してきたので、アラ、エッサッサアと、アホのふりをして、院外処方箋薬局のお姉さんの冷たい視線に晒された。


2020年5月14日 (木)

港町memory 108

「ちょっとあんさん、オワッタで」
突然、おばさんが処方箋薬局の待合に飛び込んできたので、
「何がですか」と、当然、聞きました。
「コロナや。終りやいうてた、テレビ」
「それはあれでしょ。緊急事態宣言が解除でしょ。東京とか大阪なんかはまだですが」
「なんや、終わったんやないのかいな」
「まだまだ、やっと第2波あたりが終わったくらいで、これから中南米、アフリカときますよ。さらに合衆国、韓国は新波ですよ」
「新派大悲劇かいな、いうても、いまの若いこにはワカランわなあ」
「いや、私も新派大悲劇は観たことがナイんで」
「あんさん、歳隠したらアカンで。七十はいってへんやろけど、そろそろやろ」
 話題がへんなほうにいかないようにと、
「おばさん、終わったら元の世間になるのがエエんですか」
「そこやがな、ニイちゃん。ニイちゃんと呼んだるさかいにな、よう聞きや。あのな、わてな、ふとかんがえてみたんや。元の世間や。元の世間がそんなに良かったかいなとかんがえたんや。そしたらやなあ、そんなにエエこともなかったなあと、どや、おもうたんやで」
「まあ、そうですね。そんなにエエことなかったですね」
「まあ、そうですなやあるかいな。銭の無い年寄りには地獄やったワ。あんなんにもどっても、しゃあナイなあ。コロナになって、ご近所のひとはミケネコネーションがなくなったとかいうてたけど、そんなん、コロナやのうても、誰も挨拶のひとつもせんような世の中になってたしなあ、わての伜がこぼしててたわ、ショウガッコの女の子にお早うとか、今晩はとかいうたら、変質者やちゅうて、交番に駆け込まれて、ポリに呼ばれたらしいねん。そらまあ、五十過ぎてるオヤジが、なんつうねんロボコンとかいうのんか、そんなんに間違えられてもしゃあないけど、あんた、挨拶しただけやで。けっきょく、一緒やんか、なあ」
「そうですねえ、私なんか、みなさんが揃ってビンボになったんで、なんか平等な世間になったなあと、ほっとしたような、というと、失業したひとに悪いんですけどね」
「そこやがな、コロナで死んだひとよりも、ビンボで首吊ったヒトのほうが多いんちゃうかとか、いうてたで、テレビ。けんども、政府のほうが、ぎょうさん銭ばら蒔いたさかいにナントカなったとか。安倍ちゃんもヤルときはヤルなあと、おもうたんやけど、や、あのばら蒔いた銭は、いったいどっから出てきたんや。あんたなら、知ってるやろ」
「あれは、けっきょく国民の銭とチガウんかな」
「なんや、税金でとられるんかいな」
「いや、税金は、公務員の賃金ですからチガイます。国債のほうでしょ。つまり、国の借金ですね」
「政府が借金すんのか」
「政府というか国ですね。国が一枚ナンボの債券を売る、ふつうは一旦、国民や銀行が買って、それをさらに日銀が買う。コロナは面倒なことを避けるのに、日銀がもう直截買う。千円の債券を1000枚売ったら、百万ですね。それが国の借金。それをさらに国民に蒔く。期日が来たら利子を付けて返す。しかし、千円で買ったけど、手元に銭がナイので、値打ちが下がって五百円のときに売る。そうしたら、買ったほうは半分損をするけど、国は得をする。と、こんな仕掛けでしょ」
「なるほど、そんで、銭は天下のまわりものというんか」
「そうですね」
「しかし、国が利子つけて返せんようになったらどうすんねん」
「それは、国が貿易で儲けてとか、税金で、」
「やっぱり税金やナイかいな」
「まあ、国債を買うほどの銭の無い私たちは心配することはナイとおもいますけど」
「インフレになったら、どうすんねん」
「もう、いきなり難しいことだけまともにいいますね。それより、私はおもうんですけど、たとえば、COVID-19にはワクチンの効果があんまりナイとします。すると、インフルエンザより強めの流行性感冒が常に、あんまり死なん程度に流行ってるということになります。すると、ひとはいっぱい手を洗うし、換気はするし、唾を飛ばして喧嘩することはなくなるし、他の病気の予防にもなる。密になったらアカンので電車の席の取り合いしなくなるし、公演や観光地では、適当にゆったり出来て、自宅勤務は多くなるから出勤も減るし、ガッコは週に三日。アトは塾にテレワーク。ヤリたい盛りの中高生の妊娠が増えて、人口は増える。精力余っているのですから、ヤルならヤルで、検査してから濃密接触ということにして、性病も減る。余所で酒飲む日も少なくなるから、家庭の日が増える。家族でなんかスル時が増える。演劇、映画は客席空いてるし、消毒出来てるし、稽古場や撮影現場も消毒。なんというか、/適当に中くらい/の日常になるから、この/適当に中くらい/というのは、イイんじゃないかとおもいますけど」
「そこまで上手いことにはならんやろ。往生するワ、あんたのハナシ聞いてると」
おばさんは、結局何をしに来たのかワカラナカッタが、そのまま、欠伸して帰った。
しかし、人類史上で、疫病、伝染病、感染症、いろいろな名称でいわれているが、そういう疾病が戦争を早く終わらせた記録は数多あるという。棄てたもんでもナイんじゃなかろうかと、高楼の夢に酔っていると、おばさんが駆け足でもどってきた。
「ニイちゃん、おもいだした。わてな、エライ疑問あるねん」

2020年5月12日 (火)

港町memory 107

院外処方箋薬局の昼休みが終わって、も、おばさんはすぐ外のベンチで腕組みをしていた。
「どうしたんですか。クスリに疑問なら、薬剤師に聞かないと」
「ああ、あんたかいな。そやないねん。さっきもテレビ、日本はP検査がアメちゃんや韓国とかに比べてメッチャ少ないいうてたで、なんで、もっとやらんねん、人手不足なんかいな。それとも、サボッとんのかいな」
「おばさん、P検査ピー検査とやかましくいわれているけど、あれ、何の検査か知ってるんかいな」
「そら、コロナに罹っとるかどうかの検査やろ」
「つまり、PCR検査でどうなったら、コロナということになるんかな」
「なんや、陽性が出たらアウトなんやろ。しかし、陰性が出てもその場限りいうことがあるしな、次の日は陽性になっとるかも知れんしな。まあ、難しいもんやちゅうことくらいは知ってるで」
「おばさん、テレビ、テレビと、けっこうテレビ観ていますねえ」
「観てる観てる」
「そうしたら、視聴率は知ってるでしょ」
「そんなもん、うちの猫でも知っとるワ」
「あれは、どうやって算出するのか、知ってるか」
「そんなん、機械があるのとチガウんか」
「おばさんの家に、そんなもん付いてるんか」
「うちは付いてナイ。いや、そんなもん隣にも無いで。町内で在るのん観たことも無いけど、何処に在るねん。 あれは、電波かなんか飛ばして調べとるんとちゃうか」
「視聴率調査はちゃんと、そのための仕組みがあるんです。統計学というもんでしてね。ネットに書いてあったとおりにいうと/統計学の理論に基づいてテレビ所有世帯から無作為(ランダム)に対象世帯を選びます。ただし、テレビ局関係者のいる世帯、 病院・事務所・寮などは除きます。/つまりですな、先に〔対象世帯〕というのを決めて、そこの世帯には、switchだけのワカリヤスイ機械を付けさせてもらって、手間がかかるけど、番組を観始めたらスイッチをon、やめたらoffにしてもらうと、それがセンターのcomputerに送られます。その集計から試聴された率を出すという、ある種のalgorithmでヤってます。予め誤差も計算過程の中に含むんです、別の例でいうと、濃度がほぼ均一になるようにつくられた寸胴鍋にスープをつくって、スプーン一杯で味をみると、その一杯で、全体の味がワカルというそうい仕組みですネ」
「それとP検査とどういう関係が、あっそうか、全部を調べんでも、スプーン一杯分のP検査でええちゅうことか」
「ビンゴ。そうですね、国民、県民、市民、都民全部いっぺんにヤったら、病院に陽性押し寄せてパンクしてしまいますから。つまり医療崩壊というやつですネ。だから統計を使う(とはいえ、ほんとにそんなことを行政がしているのかどうかは知らん)しかし、これは陽性率の分布に均一性があるかどうかがワカラン、というかワカリニクイ。ですのでアテに出来るかどうかはワカランけども、その日の死亡者の数、あちこちでばたばた死んだりしてませんから、これはもうはハッキリしているから、まあまあアテにしてエエということかなあ。ほんとは、そういうことは数学の確率論とcombinationとって、エビデンスがハッキリ、シッカリの新しい統計理論をつくったほうがエエんですけどねえ。患者数、その日のP検の陽性率で一喜一憂しているあいだは、緩和したら危険ですね。油断して韓国みたいになっちゃうからね。自粛も自主自粛がイイ。政府、行政の自粛要請は、~いつになったら終わるねんっ~と焦燥をもよおすだけですからね」
「そやねん、もうイライラで嫁と喧嘩ばっかりしてるわ。一句でけたで」
/コロナ禍や嫁と喧嘩の自粛かな/と、おばさん、なかなかうまく詠んできました。
/喧嘩(でいり)といえど出入り出来ず/と付けました。

2020年5月10日 (日)

港町memory 106

さて、後日。
「あんた、ナンノ病気やねん、よう出会うナ」
と、また、処方箋薬局、おばさん。もうシリーズ化してしまったようなsituationです。
「ええ、まあ、いろいろと」
私はわゆる病気自慢というのがキライなので(特に他人から聞かされるとこっちはともかくそれ以上の疾病を並べ立てる。すると、それが水戸黄門の印籠となる)そういうのはヤラナイ。
「なんや、ワクチンでけたニュース、テレビやってたナ。もうちょっとやな」
「と、同時に、途上国、新興国、さらに貧乏先進国ロシアの事情も入ってきましたね。ここらあたりは滅亡するか、最低でもアト5年でしょうね。そこへきて、アフリカなんかはシリアあたりの惨状しか情報がナイ」
「そんなに酷いんかいな」
「ブラジルは、医療はヤメタみたいですね」(と、かなりオーバーにいってみた)
「えっ、ほな、国が潰れるのか」
「まあ、戦国時代ではよくあったことですね。大統領は/ひとは必ずいつかは死ぬ/と宣言したようです」
「そらまあ、そやな。もう、生きててなんぼやな」
「サッカーなんかも普通にヤってるそうです」
「まあ、好きなことして、好きなもん観て死ぬんやったら、それも人生やろ」
「おっ、悟りましたね」
「大東亜戦争やなあ、本土決戦や、討ち死にや」
「悟りというより自棄ですね」
「泥船で沈んで、浮かんできたら水面が燃えていた、どうや、そんな感じやろ」
「お見事」
庶民大衆を舐めてもらっちゃ困るのだ。日本だって、第二波が指数関数的にやってきたらヤバイなあとおもっていたら、先に韓国がそうなる気配です。
なるほど、韓国は、もう1000人規模のクラブなんかが営業していたのですねえ。
そうなると、再生産数が一挙に2~5から7となりますから、まさに指数関数的暴走となるでしょう。この指数関数の勉強は、昨日、やりなおしました。対数と同じもんです。ともかくグラフがぐぐんと感染者数が右肩上がりになる。日本はたしか再生産数が0,7まで落ちてきているので、せめて0,2くらいになるといいのですが。
日本の勝負どころは、これからです。
「目安とか、あるのんか、これなら大丈夫とか」
「P検査で陽性者数が二週間つづけて、0になるとかね」
「そんなアホなことがあるかいな」
「ですねえ。まあ、ワクチンの効果があることを祈るしかナイでしょう」
嗚呼、きょうもまた、処方箋薬局の待合は漫才だ。

2020年5月 7日 (木)

港町memory 105

おばさんはちょっと苛立っているようでした。院外処方箋薬局の時計は長針短針ともに右にあります。
「もちっと、マシなハナシはナイのかいな」
「これはあくまで例え話ですが」
とことわったうえで、私はこんなふうにいった。
「どうせ死ぬのなら、生きていてもしょうがナイ。ヒトという生き物はそう、おもうでしょうか。誰だって何れは死ぬんですからねえ。けれどもですね、生まれてきたのはこれはもうどうしようもナイ、諦めるしかナイとお釈迦様もそうおっしゃってます。ですからイヤでも生きてみようとするでしょう。この先夢や希望がある、がそうおもえるときは、まだ生きられる時間がおそらく、ある程度は残っているからです。私もおばさんも同じくらいの年齢ですが、女性は余命寿命も長いので、おばさんは私より十年近くは長く生きるでしょう。とはいえ、そんなに残存しているワケではナイ。所詮、人生は「カチカチ山」で出てきたたぬきの泥船と同じナンデス。泥船はどうみたって沈むのはワカッテいるんです。どうせ沈むものだとしたら、ヒトはそんな舟に乗るでしょうか。けれども乗らなければ仕方がナイ。舟がそれしかナイのならです。生きることが泥船に乗ることだったら。あるいは、ひょっとしてその舟が浮かぶものであったとする。けれども舟が何処に流されていくのか、乗ったものにはワカラナイ、決められない。櫂も竿も無い。舵だって無い。Compassも海路図も。もちろんradarも。何れ人生とはそういうものなんですよ。
「えらい、酷いとこなんやな。なんでそんなとこに生まれてこなアカンのや」
「たぶん、地獄というものはナイんでしょう。これはキリスト教も仏教においても正統にその考え方を聞き、教えの読み方をすればそうなります。何故ならば、この人生、この世こそがその、地獄、だからです。他に地獄はありません」
「まあ、そやな。そうおもうと、それはそれで、ほんならしゃあないとおもうわな。なんでも地獄やとおもたら、かえって気が楽や」
「そうして、死ぬ間際、ヒトはいろいろな未解決の人生を背負ったままこの世から去ってしまわなくてはならない。人生をつづめていえばこうなりますね」
「しかしあんた、それが、ちょっとはマシなハナシなんかいな。無茶苦茶に死にとうなるハナシやないか」
「しかしね、私がいったのは、泥船が沈むところまでです」
「沈んだら終いやがな」
「そうですかね。ヒトの比重は水に浮くようになっているんです。と、いうことは沈んだら次は浮かんでくるということです」
「浮かぶ瀬も在りとかいう、あれか」
「そうです、いろいろな説はありますが、たぶん一休さんがいうたのが、なんとのう、そやなあとおもいますね」
「ほんで浮かんだらどうすんねん」
「好き好きですけど、私は泳ぎます。泳ぐのが好きですから。ですから、泥船に乗るときはパンツいっちょがイイんです。ヒトはいろいろと持ちたがりますが。いわんや、/人生とはパンツいっちょで泥船に乗ることだ/。一休の教えです。(ほんとは出まかせでいっただけだけど)
「パンツいっちょで道路歩いたら、捕まるで。あんた変態ちがうか」
 と、おばさんの番号がannounceされて、おばさんは窓口へ。
外は地獄の真っ只中。

2020年5月 5日 (火)

港町memory 104

おばさんは、こう静かにまくしたてた。あくまで静かに。ある日の院外処方箋薬局のお昼前。
「昨日(きんの)な、日本維新の会とかが、国会で初めて/いつこの事態が収束するのか、そこをはっきりさせないと、国民の不安はつのるばかりではないか/。質問しよってん。これって、みんなが知りたいとこやんか。野党も初めてそういうこと訊くのも阿呆みたいやけど、なんで、安倍ちゃんはそれをハッキリせいへんねん」
「あのね、おばちゃん、毎年の自殺者数キッチリ3万人ちょっとという発表知ってますか」
「そういうたら、毎年、おんなじやな」
「あれね、内閣府の調査限界で、3万人程度までしか自殺者数を調べることが出来ないんですワ。ほんとは十万人前後は在るんですけどネ。それと同じで、P検も、調査の限界があるから、それが日本は極めて少ないので、感染者数がハッキリしないんです。感染者数がハッキリしないので、いつ収束するかはワカラン。これは、野党のほうもワカッテるんです。まあ、安倍総理としては、そういいたいんですが、そしたら検査を多くしたらいいじゃないかと、いわれるのに決まってますから」
「多くしたらええやんか」
「出来ればやってますよ。しかし、まず、誰にでもヤレルというものではナイ。さらにヤルには感染の危険も多い。だから、いまんところ手一杯というところでしょうね。けれど、今度は延長しましたから、何か新しい手は打たねばならない。でないと、いつまでヤっとんじゃと、国民のstressが爆発します。いまでもDVや押し込み犯罪が増えてきてます。それで、歯医者さん にもちょっと研修させて、ヤってもらうようにするらしいですね」
「なんで、歯医者やねん」
「検査は口の中、あるいは鼻の中に特殊な綿棒を入れるもんですから、私は耳鼻科でもイイとおもうんですけど、歯医者さんのほうが数が多いんでしょうねえ」
「そやな、歯医者は、最近デンタルとかいうて、いっぱいあるもんな」
「宣言を延長しましたから、検査数もちょっとは増えるとおもいますよ」
「延長で収束がわからんかったら、また延長するんかいな」
「そうするでしょう。延長に継ぐ延長。『番町皿屋敷』ですね」
「なんやそれ」
「三遊亭円朝のシャレ。お菊の皿が何枚あるのかワカラナイ。~今夜は二、三枚大目にエンチョーしますゥ~」
「あんた、ワカランことばっかりいうねんな」
「まあ、相手は生物ですから、手強いンですね」
「ナマモノか」
「セイブツです」
「あんたは、いつ頃、シューソクとか、なんや、スルとおもうてんねん」
「第一波なら、今年中には下火にはなるとおもいます。そのアトで第二波があるとおもいます。ですからやっぱりアト1年半~2年は」
「気の長いハナシやなぁ、もう」

« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »