港町memory 112
おばさんがため息を漏らしている。オシッコを漏らすよりはマシなのだが、
「きょは、どうしました。やっと宣言解除なのに」
「ニイちゃん呑気やなあ。一回り私のほうが年上やけど、ものごとは科学的にかんがえなアカンで」
科学的というコトバが、八十過ぎのおばさんから出てきたのにはビックリした。
「要するにや、第二波とかが来るやろ。ほんでもなあ、うちの孫がいうには、コロナの流行を止めるのには、人口の六割のヒトが感染して免疫を持たなアカンねんで。あんた、六割やで、半分以上やないか。半分以上感染せな終わらへんねんで。よう、のんびりしてられるなあ」
「べつにのんびりはしてませんが、私もいま、頸椎の手術を忌避されて、その理由が、おそらく私が精神科に通院しているかららしいんです。推測ですが、これで二度目ですからだいたいワカルんです。手術する医者は日本で五人しかいない脊髄神経科の権威なんですけど、精神科医療に関しては勉強してませんから、偏見が強くて、こういうヒトは、きっと知的handicapの患者も診ないんでしょう。偏見は医師のあいだにもまだけっこうあると、知り合いの精神科医もいうてましたけどね。だから、もうエエんです。この上、私の祖母が被差別部落民だったと明かしたら、診療もアウトですね。関係ないけど、何処かで吐き出したいので、いまいうておきますが」
「そういう医者はレクサス程度には乗らんナ。メルセデスやな。しかし、なんや、あんたキチガイかいな」
「ええ、もう四十年以上鬱疾患です」
「鬱疾患やと、コロナにはならへんのか。そんでのんびりしてんのか」
「そういう研究もあるようですが、それは次回にして、その人口の六割感染というのは誤解ですよ」
「ほんまかいな、キチガイのいうこと信用してエエんかいな。こないだの水道水もアヤシイのとちゃうか」
「いや、実例をあげると、例のもう忘れられているであろうクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』ですが、感染したひとは、全体の二割程度ですよ。六割なんてぜんぜん」
「そやかて、そういうてたで、シナモン委員会たらいうとこのセンセが、テレビ。あれ、ウソか」
「ウソではありませんが、あれは獲得免疫のハナシですよ。厚労省の調査では、陽性率は東京が500検体で0,6%、東北六県の500検体が0,4%でそんなに差はナイんです。要するに免疫抗体の中にも三つ種類があるそうで、新型コロナは免疫の出来方が良くないことはたしかです」
「免疫と抗体というのは、何がチガウねん」
「抗体というのは体ですから免疫をもっているヒトのことですね」
「ほんで、どんな種類があるねん」
「〔善玉抗体〕と〔悪玉抗体〕と〔役立たず抗体〕です」(注:これはわたしの命名で、ほんとは[役なし抗体])
「そこまでいわれたら、ワカルで、もう。新型コロナは善玉が出来にくいんやろ、どや」
「そのとおり」
「出来にくいのに、なんで、日本は感染者、死亡者が少なかったんや」
「それは、自然免疫があったからではないかというのが、真っ当な理屈です。免疫には獲得免疫と自然免疫があるんです。自然免疫というのは、訓練と強化とを自分でやってるそうなんです。たとえば、いったん話題になって、影の薄くなったBCG結核ワクチンは最近の研究でだんだんカラダの中で強くなってきて、自然免疫として強化されて他の感染疾病にも有効なことがワカッテきています」
「ほんでも、BCGはエビデヤンスとかカニデゴザンスが無いいうてたで、テレビ」
「しかし、示唆はしていました。公理にはなっていませんが傾向程度ではありました」
「そうするとなにかいな、第二波で六割のヒトが感染というのは誤解か」
「六割のヒトが感染して数十万人が死ぬとまで、その誤解は広まっています」
「ほな、自然免疫の弱いヒトは、やっぱりワクチンかいな」
「ところが、このCOVID-19は、ワクチンでの獲得免疫があまり高くもなく長くもナイようなんです。しかし、20%までの感染で集団免疫の閾値(しきいち)はなんとかなりそうだということです」
「閾三寸かいな。20%なあ。10人に2人、5人に一人やで」
「ですから、いままでのように、私たちは自然免疫を信じて、ひたすら手指を洗い、消毒して、三密はできるだけ避けて、まあ、羽目を外さない程度にすれば第二波もそれほど多大な影響は及ぼさないということですよ」
「しかし、キチガイのいうとることやしなあ。わてなんか、こないだから、毎日水道水を一日6ℓ飲んでんねん、そらもうひどい下痢やで」
「いやいやいまのハナシは宮坂昌之博士(京都大学医学部卒業、現在は免疫学フロンティア研究センター招聘教授)の、インタビューを読んでのことで、このヒトはほんとの権威、偏見のナイ権威、デバイス医者ではナイ医学者のハナシですから、大丈夫だとおもってます」
「なんや、そのデバイス医者ちゅうのんは」
「PC本体にくっつけるいろんな機械です。脊髄疾患のデバイスとしての手術が、本体だと勘違いしている医師のことです。デバイス権威は日本に五人ですが、私は日本に一人しかいないキチガイです」
「あんたのキチガイも可無んけど、そんな医者にあたったらもっとカナンな」
「幸い、ここの院外処方箋薬局の病院には、そういう御方はいません」
「ほんでも、ここの病院、ネットrevueの☆が一つばっかりやで。ヤブやヤブやいわれてるけど、大丈夫かいな」
「大丈夫です。ここの病院は、対等なんです。医者と患者、看護師と患者、医師と看護師が対等、いいかえれば同等。と、そういうところが他とはチガウんです。ですから誤解されるんです。大丈夫ですよ、医者嫌いの私が命預けてるくらいですから」
「ほんでも、キチガイやからなあ。スマホメールでキチガイて打ったら、キ+++としか出えへんねんで」
「天才とキチガイは紙一重、私の場合は紙やなくて、次元一重ですね」
「ほんまに、キチガイのいうことは、ようワカランわ」