無料ブログはココログ
フォト

« 港町memory 44 | トップページ | 港町memory 45 »

2019年9月26日 (木)

第二十七回

「この空間は、実在空間ね。いったい何処だかはワカラナイけど、幻魔術とやらの手妻で創った幻ではナイことだけは私の五感が私に報せているワ」
 南蛮黒装束はギヤマン製とおもわれる被りもので頭のてっぺんから首まで辺りを覆っていた。そこから太い管が肩から背負った行李のようなものに繋がっている。つまりは酸素ボンベなのだが、では、朧はいったいそのような文明の機器ナシで、如何にして月面などに立っていられるのか。これには、朧を月面まで呼び寄せた敵手の南蛮伴天連のほうが驚愕していた。月面の忍者と魔術師の闘い。前代未聞の展開が始まろうとしていることだけは確かなことだった。
 いつ頃、いつの時代だったかは記憶にナイ。というか判明しない。ふいに青白い雲に包まれてカラダの浮遊感覚とともに意識が喪失した。
 目覚めたとき、他に十人ばかりの自分と同じ幼童がいた。場所は定かでナイ。所在無さげというより、挙動不審、路頭に迷う、といったふうで、誰もがワケがわからず思考停止の状態におかれているようだった。
 そのうち継ぎ目のナイ緑の装束の男とも女ともつかぬものが数名姿をみせて、聞いたことのナイ、コトバというより音そのもので会話らしきものを始め、ちらちらとコチラを穿ちながら、やがて近寄ってきて、また眠りに落された。
 時間というものあったのかどうか、成長せぬままに、幼童たちはそれぞれ各々奇妙な修行をさせられ、あるいは施されといったほうが正確かも知れないが、次に我にかえったときは異国に在って、不思議な術を会得していた。
 これが、南蛮マンがいま、月面で辿り起こした記憶だ。
 が、しかし、南蛮マンはそんなおのれの修行の、記憶に血の通っていない不自然さ、を、異国から渡ってきた幻燈を観たときのような按配の悪さが重なるような感覚で、ある不信感として知覚していた。
「ゲツメン」
 と、南蛮もんじゃ焼きは呟いた。
 その訝しげな独り言に応えるように、朧が、艶かしい唇を動かした。
「そうなのね、ゲツメンというのね。月面、お月さまのことかしらね」
「ナゼ、オマエは、その姿デ」
 その月面に立っていられるのかと、訊ねたかったのだろう。
「これは、あなたの記憶よ」
 先に、朧がその問いに応えた。
「ナニッ」
「伴天連幻魔術というものが、どんなものか、詳細は知らない。けれども、似たような類の術や技なら、私、朧十忍はほぼ会得しているの。この魔法だか幻術もかなりの高度な幻術だということはワカル。だからね、もう、ご納得出来たかしら。あなたが、私にかけた幻魔術とやらをそのままあなたにお返ししたの、朧十忍の一つ、〈閻魔鏡〉。この世界はあなたが操っている幻の世界じゃナイのよ。私に操られているあなたの世界。どう、けっこうジッポンの忍びもヤルでしょう」
 すでに、この時点で勝負は決していた。
 南蛮ギヤマン頭が後退った瞬間、頭部の金魚鉢は破裂した。その内部の頭蓋もろともに。

« 港町memory 44 | トップページ | 港町memory 45 »

ブログ小説」カテゴリの記事