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2019年8月 2日 (金)

第二十一回

 切場銑十郎、例の黒塗りの鞘の赤毛結社の剣客だが、どうも自分のことは忘れられているのではナイだろうかと、多少不安げにはなっていた。
 とはいえ、勇んで右近との立ち会いを目的に結社のagitpunktを出たはいいが、その右近とどう出逢えばいいのか。いったい右近は何のため、誰のための仕事をしているのかさへもおぼろげになってきていた。
 たしか、十万両、簪、朱鷺姫とかいうておったな。で、それは何だっけ。こういうのを剣客の維新ボケと、当代では揶揄していたらしい。急激に世界の変化についていけないモノノフの哀れともいえた。
 ぶらりと、いやぼんやりと維新の町、煉瓦町通りと称される商店街を歩く切場銑十郎に近づく者があった。なんのことはナイ行商人なのだが、ワザとなのか脱ぐのを忘れたのか黒覆面をしている。といって、あの左近の遭遇した全裸湯浴の女ではナイ。これまた忘れ去られようとしていた卍組の忍び、手下の変装だ。
 つまり、黒覆面はワザとのボケのウケ狙いとみえる。
「旦那、なんだか困った顔をしてらっしゃいますが、ズバリ、当ててみましょうか。楠木右近をお探しなんでやしょ」
「ナニっ、貴様、何者だ。ただの行商ではナイことはすぐに見抜いたが」
 見抜いたも何も、覆面してんだから。
「あっしは、ただの行商人ではござんせん。実は、覆面を売り歩いております」
 かなり苦しいイイワケ、辻褄合わせだったが、なんとかスジは通っている(のかな)。
「妙なものを売っておるんだな」
「当世、いろんなモノが商売の種(ネタ)になりますゆえ」
「拙者は、」
「存じております。切場銑十郎様でござんすね。赤毛結社随一の腕利きとも聞いております。あっしは、卍組の、」
 と、つい、自らの組織を口に滑らせそうになったところも、手下らしい。
「なに、まんじ、」
「いえ、まんじゅうも売ってまして」
 まあ、誰でもイイわ、ちょっとアホのようだから。それより、こやつ右近の居場所を知っている様な口ぶり。切場銑十郎、懐に手を入れると、
「幾らで買えばよい、右近の居所」
「こいつはハナシがはええ。いえ、銭は、右近が倒されてからでようござんす。実は、楠木右近が尾張の港辺りに出没したという噂がござんす」
「尾張、ずいぶんと遠いな」
「いえいえ、馬なら早駆けで半日もあれば」
 と、覆面行商人の指さすところに、馬が一頭。
「随分と用意がいいな」
「心得ておりますので」
 切場銑十郎が馬に跨がると、覆面の行商人は竹の皮で包んだ握り飯と、竹筒を差し出した。
「どうぞ、召し上がりながら、参らせませ」
「ますます準備がよいのう」
「心得ておりますので」
 手綱を引くと、切場銑十郎、街道への方へ馬を駆った。
「勝てるとはおもわないんだけどなぁ。まあ、いろいろヤラセて、右近の弱点を探せというお頭のmissionだからなあ」
 手下は覆面をとった。覆面の造作とあまり変わらない顔が現れた。覆面はあまり意味がなかったようだ。
「お頭、うまくいきました」
 と、いままで何処に隠れていたのか、ご隠居姿の老人が現れた。さすがの隠れ方だ。こちらも覆面をしている。忍法面隠しだろう。
ともかく、この二人のplotになるとgagが懐かしい『魁、クロマティ高校』になってしまう作者だった。
「よし、では、後を追うぞ。たぶんあの切場銑十郎は右近に敗れるだろうが、右近の〔鍔鳴り〕の研究材料にはなるだろう」
「すげえ作戦ですね」
「名付けて、忍法かませ犬。おい、つまらん忍法なんぞ名乗らせていないで、我々の馬は何処だ」
「我々の馬って」
「だから、あの牢人を追わねば意味がナイだろう」
「そっ、そ、そうですね」
「むっ、キサマ、ひょっとして、」
「いえ、その資金が不足していまして、でも、安心して下さい。さすがに維新の世の中です。馬ではありませんが、この二頭を」
「おう、これはっっってって、これはロバじゃん」
「ダメでしたか」
「驢馬で(と一応漢字で喋ったが)、馬が追えるか」
「でも、たしか『熱血カクタス』という正義の味方はロバに乗ってましたよ。歌だって覚えています。~走れカクタスッ砂塵を蹴って~」
「うーんむむ。まあ、何もいないよりマシかも知れん」
「でしょ」
「仕方ない、これで追うか。それはそうと、オマエもう覆面をとってイイぞ」
「脱いでますよ、とっくに」
 うーん、ますますクロマってきた。

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