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2019年8月25日 (日)

第二十四回

「拙者たしかに尾張柳生の門人を斬った。が、しかし、その高弟をいま助けたのだから、仇討ちはチャラにすればヨイのではなかろうか」
 呑気に巫山戯たことをいって、右近、薄笑いさへ浮かべている。
「この鳥の飼い主はどうなった」
「斬り棄てた」
 また、いとも簡単にいう。
「ヒトを斬るのがご趣味でござるのか」
 玄十郎、右近を睨みながらも諧謔の余裕をつくった。
「向かって来るものは、仕方なく斬る場合もある。拙者は、あの羽秤亜十郎くんのように賞金稼ぎではござらぬので、誰彼好き勝手に斬っているワケではナイ」
「しかし、兄弟子のあの袈裟懸けの斬り口は、まるで藁束の試し斬りの如くであった。あの斬り方の理由は如何に」
「それは、あちらの未熟。拙者は貴君のその兄弟子とやらの、その斬り口を真似て、その通りに斬ったまでのこと」
「斬り口を真似てその通りに、いや、いったい貴公がナニをどういうつもりでの刀交えをされたのか、よくワカラヌが、ともかく仕掛けたのは、尾張柳生の剣が先だったというのか」
「新陰流、秘伝の後の先も、仕掛けねば相手は斬れぬ。後とみせかけて、先。だが、幾ら後先を入れ換えても、何れは斬り込むことになる。見事な袈裟懸けだったが、空を斬ってもヒトは斬れぬ」
 玄十郎、右近が何をいっているのか、ますます混乱。暫し脳髄が錯綜した。
「しからば、ともかくも試してみたいものだ。試せばワカル。試さねば何もワカラヌ」
 と、柄に手を添えた。この剣士にしては珍しく心が猿のように動揺していた。
「まあ、待て。そのように気の乱れたままでは充分な闘いも難しかろう。ましてやそのカラダ。火傷だらけのカラダを癒してからにするがヨイのではナイか。拙者が斬った尾張柳生よりも、お主の腕のほうが上だということは察している。しかし、そのhandicapのカラダは相手にしとうはナイのでな」
「剣客の試合にhandicapも何もござらぬ」
「そうか、では、試しに抜いてみやれ」
 そうまでいわれた玄十郎、抜刀、しようとしたが、柄を握る手に力が入らない。
「火傷のせいだ。マズイところを火傷したな。その火傷は丁度、指に走っている神経の経絡に深入りしている。お主ほどの鍛えたカラダだ。三日もすれば、それは戻る。それからでも遅くはあるまい」
 右近は背を向けた。空きだらけだった。しかし、肝腎の指が動いてはくれない。柳生玄十郎、かくなるほどの歯がゆい思いをしたのは剣法修行を含めてなおも、初めてのことだった。

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