港町memory 29
さて、あらすじです。
/東京・赤羽で資産家の老人・馬場(北村総一朗)の変死体が発見され、赤羽所轄の刑事・伊室(杉本哲太)と西村(臼田あさ美)は警視庁の刑事・鳥飼(大倉孝二)とチームを組み捜査に当たる。すると、容疑者として家事代行業の女・山本美紀(永作博美)が浮上する/
この馬場さんは独居です。変死体というのは、椅子に坐ったまま(後ろから紐状のもので)首を締められて殺されていたからです。馬場さんは資産家ですが、それは殆ど不動産です。そこで、不動産屋の女が登場します。300万円の商談が成立して現金を手渡したが、それはみつかったのかと、逆に刑事(伊室と西村)に訊ねます。もちろんみつかっていません。これは大事な伏線だというくらいならミステリファンでなくてもわかります。
刑事二人は聞き込みで馬場さんの女関係から、昨今出入りしていた山本美紀の存在を知ります。しかし、これは家事代行業です。とはいえ、犯行当時(殺されたその日)出入りしていたのは彼女だけです。長男も現場に顔を出します。この長男が真犯人だということはミステリファンにはすぐにワカリマス。あまりに登場のタイミングが良すぎます。
ところが、どうしたって怪しいのは山本美紀です。捜査も彼女を対象に絞り込まれます。彼女は犯人なのか、そうでナイのか。ここで、この(一応)ミステリが、「Who done it = 誰が犯行を行ったか」に重点を置いているのなら、そちらに物語は傾斜していきますが、そうではナイ。むしろ物語の傾向(興味)は「Why done it=なぜおこなったか、犯行に至った動機の解明を重視」にベクトルを向けています。さらにこれは、次第に山本美紀が取調室や法廷で殆ど「語ろうとしない=沈黙」は何故かという「Why」になります。ここがこのドラマのstandard(立脚点・立ち位置)なところです。視聴者はそこに引きつけられていきます。サマリタン問題をmotif(あるいはtheme)にしている部分に該ることが、これまた次第にワカッテきます。
あらすじには書かれていませんが、時系列として、市川くんが港にいるところがintroductionです。
/赤羽署の刑事・伊室(杉本哲太)らは、目の前で埼玉県警に美紀(永作博美)を連行されたことで焦っていた。一方、埼玉県警の刑事・北島(菅原大吉)は美紀の事情聴取を始めるが、美紀は罪を認めない。そんな中、かつての恋人の弘志(市原隼人)が、弁護士の矢田部(田中哲司)に美紀のことを話し始める/
拘留には期限があります。美紀の黙秘と意味深なだけの自供(たとえば埼玉県警に述べた「貧乏は悪いことですか」赤羽署での供述「9万6千円のマンションを借りたのはガスの取り口が二つあったからです」など)からは得るところはありません。で釈放になるのです。しかしまた赤羽署でまた逮捕。このときに、家事手伝いだけでは不相応な高めのマンションを借りた(そのお金は馬場さんから借用している・・・これはちゃんと供述している)理由は、恋人の市川くんと交際が始まっていたからだとおもわれます。少なくともWOWOWドラマでは、そう解釈するしかナイ。
弁護士の矢田部はダメ弁に描かれていますが、原作ではそうではナイようです。しかし、テレビ・ドラマとしてはそのほうが、絵やcharacterとしてオモシロイ。小説には小説にあったcharacterの描き方があり、テレビ・ドラマにもそれなりの描き方がありますから、そういうところでの優劣はアリマセン。けれども、原作を先に読んでいたひとにはどうしても違和感が生じるでしょう。(こういうことがあるので、私、二つとも、というのはなるたけ避けています)
さて、視聴者にも、美紀の沈黙の理由の一つがワカッテきます。というか、美紀は沈黙(いわゆる黙秘権の行使)などはしていないのです。ほんとうのことをポツリポツリと語っているのですが、それでは彼女を犯人には出来ない。決定的にゲロを吐かさなければ、というのがケーサツですから。
ケーサツは取り調べのプロです。私もサツ廻りの新聞記者にいろいろと逸話を聞きましたが、たとえば、こういう尋問法もあります
ケ「〇時〇分、オマエはほんとうに〇〇にはいなかったんだな」
ヨ「いませんでした」
ケ「絶対にか」
ヨ「はいっ」
ケ「よし、これで犯人はオマエだということが確定出来た」
ヨ「ええっっっ」
引っ掛けなんですけどね、アリバイ崩しの一方法で、容疑者を錯綜、混乱させる手口です。
(まだつづきます)
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