第十六回
「なかなかオモシロイところだな。といっても何処でもナイのかも知れねえが」
羽秤亜十郎の周囲は歪んで動いている。亜十郎は陽遊(かげろう)の中に在ることを嘲笑った。なるほど陽の遊びとはいったものだ。陽炎というふうではナイ。陽の光が地面からではなく天空からゆらめいて降りてきている。これが幻魔術か。とはいえ羽秤亜十郎はその情況に不敵に笑んでいる。
と、熱線が放たれた。熱線っ、そうとしか呼びようがナイ。いまでいえばレーザーのようなものかも知れないが光学的なものではナイ。火炎放射器をごく細くしたようなものだ。それは羽秤亜十郎の着物の袖を貫いた。焦げている。胸を貫こうとすれば出来たはずだ。とすれば示威行動というワケだ。
第二撃が来た。亜十郎は宙に舞う。三撃、四撃、いつまでも躱しているばかりでは能がナイ。だが、毎度のことだが、敵手の姿も気配もナイ。とはいえこんなことに慌てる亜十郎ではナイ。こういう術ならあの朧十忍もやれるはずだ。と勝手にそんなことをおもった。
「へへ、あの女忍にちょいと惚れたかな」
至って呑気な独り言をいってのけたが、それも、自身のココロの昂りを鎮めるためだ。
敵手は気配を消している分だけ、そのぶん亜十郎に対しての照準は甘く、命中率は低くなる。と、いうことは命中率が上がってくれば自ずと敵手の気配は読める。そう冷静に判断して亜十郎は機を待っている。
と、いきなり眼前に帆裏藤兵衛が現れた。
「羽秤、ここだったか」
「なんと、藤兵衛ではないか、そちらの首尾はどうだった」
これが羽秤亜十郎の油断になった。いうや否や、兵衛のカラダが散り散りに崩れ、散り散りになったものが鋭利な武具になって一挙に羽秤亜十郎を襲った。
「ちっ、やりやがったナっ」
羽秤亜十郎ほどのものでなければ、その身体は鋭利な武器に貫かれて蜂の巣になっていただろう。これをかすり傷程度に防御したのは亜十郎精一杯の体術だ。
「藤兵衛の偽影を使うとは、帆裏の野郎ひょっとして」
陽遊のゆらぎが激しくなってきた。一気に勝負を決めるつもりでいるなと、羽秤亜十郎は踏んだ。
「目には目を、てなことをどっかの宗派だか教派だかのエライのがいっていたとか、禅師に聞いたことがあったが、こっちもそれでいくぜ」
羽秤は懐から、なにやら取り出すと、それはちょうど里芋くらいの大きさで数丁あったのだが、滅多やたらに放り投げた。
さまざまな場所でその里芋は炸裂した。これはいまでいう手榴弾だ。
手榴弾の殺傷能力はその爆発力にあるのではナイ(そういう類もあるが)。炸裂によって散弾銃の弾のような鉄片が飛ぶ。これが一個の爆発でおよそ周囲三間のものを攻撃する。こういうことはおよそ剣の道に生きているものならやらないことだが、羽秤亜十郎はチガウ。彼は賞金稼ぎであり、殺し屋だ。つまりはナンデもアリの類だ。
案の定、敵手の攻撃が中断して、そやつの存在するらしい気配を羽秤亜十郎は掴んだ。里芋の破片が幾つか敵手に損傷を与えたにチガイナイ。亜十郎、抜刀すると、その方向に跳躍した。
敵手も抜いたようだったが、亜十郎の刃の手応えのほうが早かった。
「手こずらせやがったナ」
血の臭いを嗅ぐと、荒い息とともに羽秤亜十郎、そういった。

