第十二回
「けれども用心しろよ藤兵衛、次の敵手はおそらく手強い」
「おい、銭にならないのに、次のとやらともヤラねばならんのか」
「これが成り行きってもんさ。イヤならやめときな。ここからはオレの趣味みたいなもんだ。それに、こちらには頼もしい助っ人が二人もいるってんだから、面白くなりそうでやめられねえ」
みると、夜道をこちらに歩いてくる大柄の武士ひとり、そうして、やや痩躯だが足どりは飄々としていながらも正中線を崩していない剣士ひとり、薩南示現流と尾張柳生新陰流だ。
「こりゃあ、余祿の報奨金にありつけそうだな」
「欲を出すなよ。生き残ればのハナシだぜ」
「そんなに手強いのが次に来ると、どうしてワカル」
「もう、来ているからサ。東の屋根に五人、西っ側に三人。どうやら示現流と新陰流のダンナ方も気づいたらしい。殺気を屋根に向けたゼ。藤兵衛、いきなり血風塵を使うんじゃネエぞ。同士討ちはゴメンだからナ」
「承知」
示現流、新陰流と羽秤たちが合流する、そのときを待っていたかのように、やや広い路を挟んだ東西の屋根から八つの影が浮遊しながら舞い降りた。
「雑魚を最初に使ったのが油断ダッタ」
と、その影の中のひとりはそういうと、頸動脈からの出血で首を赤く染めている黒装束の実体を、なんらかの方法で屠った。どんな武器を使ったのかは、羽秤亜十郎にもワカラナカッタ。血飛沫の雑魚の首から上が南瓜のように潰れたのだ。
「仲間を殺るときは、手妻はナシか」
羽秤亜十郎の苦笑がピタリと止まって、視線は鋭く八つの影を観た。他の三人も同様に、いつでも抜刀出来る気合を丹田に込めた。
「名も知らずにインフェルノの落ちるのも辛かろう。我ワレは、四剣八槍と呼ばれている渡来の者だ」
「十二人なのにここにいるのが八人なら、数が合わねえな」
「残りの四人は未だ船の上だ」
「なるほど、今夜地べたするのは八つだけか」
と、いう亜十郎に、
「いや、四つだ。我々のうち半数は手を出さぬ。オマエたち四つの死体を見届けたら引き上げる。これで同数。handicapはつけない主義だ」
「ほほう、それはそれは、丁寧なご挨拶だ」
いうや、四つの影を残してそれぞれが一対一、四組の強者たちは文字通り四方に飛んだ。