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2019年5月22日 (水)

第十一回

 玄十郎の小柄で傷ついたひとりと、いまひとりの南蛮誂えの黒装束は、闇夜の市中を風の如く疾駆していく。逃げ足とは速いものだ。
 ところが、この二人より速い者がいた。羽秤亜十郎と帆裏藤兵衛が、舟つき場の手前で彼らを待っていた。地理のワカラヌところで逃げるなら舟だと、それが亜十郎の鋭い読みだ。
「なかなか面白いものをみせてもらったぜ。とはいえ、てめえらも,思い知ったろ。ところが、ほんとうに思い知るのはこれからなんだなぁ」
 まさか待ち伏せられるとは黒装束の魔法使いも思案にはなかったとみえて、二人の前にたじろいだ。
「強ぇえ剣客はまだまだ、いるんだヨ」
 腕組みをしたままで羽秤亜十郎がいうと、帆裏藤兵衛は足に仕込んだ鬼包丁二刀を抜いた。黒装束のほうも今度は即座に抜刀した。中国製らしく両刃の直刀だ。厚みがあるので重さもあるだろう。斬るというよりは敵手の剣を叩き折るという南蛮刀だ。
 が、そのはずが、彼らがウッという声を発して驚いたのは、その直刀が棍棒に化けていたからだ。
「どうだっ、刀を木の枝にするああいう手妻は、お前さんたちの専売特許じゃねえんだゼ」
 膝を叩いて羽秤亜十郎が笑う。
 笑っているあいだに、小柄で傷ついたほうの黒装束は、帆裏藤兵衛の二本の鬼包丁で瞬時に三つの肉塊となって切断されていた。敵手の刀を叩き折るはずの南蛮刀も逆に折られている。
「どうしたい、また紅蓮の炎でも吹き出させてみるかい」
「オマエたちはっ」
 驚いている。怯えている。声の震えがそれを物語っている。
「オレたちがどうしたって」 
羽秤亜十郎はゆっくりと背の刀を抜くと、刹那に黒装束の頭上を跳び越えて、一閃、実体のほうの頸動脈を斬った。血飛沫が赤い糸のように宙に一筋流れた。それに気付いているのかいないのか、黒装束は身を翻して逆走したが、
「そうそう、急いで帰ったほうがイイ。小半時は血の気はあるだろうからナ」
「血の跡を尾けていくか」
 藤兵衛が地面を嗅ぐように観て、そういうと、
「いやいや、走っているあの黒装束は脱け殻だ。ホンモノはおそらく別の方法で扶けを呼んだにチガイナイ。向こうにだって意地はあるだろう。そのうち現れるさ」
 羽秤亜十郎、いつもの如く不敵な薄ら笑いを崩さない。


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