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2019年5月12日 (日)

第九回

 ところで、この余りに余っていて寄せ集められた元侍の中にあの柳生玄十郎も含まれていたのは運命の悪戯としかいいようがナイのだが、そうすることによって、物語の展開がオモシロクなるだろうという作者の勝手なideaVektorなのはいうまでもナイ。
 手っとり早く夜半。いつの間にか尾張の国まで登場人物たちの歩は進んでいる。
 黒装束とはいえ、日本のものとはあきらかにチガウ風体の者が数名、渡屋の表戸の前に立つと、そのまま闇に溶けるようにして消えた。
 蔵前には余り人たちが十数名、龕灯(がんどう)を手に見回りについていた。他に店の主人の部屋、家族の部屋の前に数名ずつ。
 まず、蔵前に黒装束がひとり現れた。
「何者っ」
 と、いわれて氏素性を名乗る賊はいない。黒装束は余り人などには目もくれず真っ直ぐ蔵の入り口に迫った。
「こやつっ」
 と、余り人のひとりが抜刀、黒装束を背中から斬り下ろした。ところが手応えがナイ。切っ先はどういうことか蔵の錠前を叩き壊していた。
 この音で残りの余り人は黒装束を取り囲んだ。
「なんという不敵なヤツだ」
「成敗、成敗っ」
 余り人、いっせいに刀を抜くと白刃の襖が出来上がった。だが、黒装束に慌てる様子はナイ。
「そんナモノので、ワタシが斬レるのカネ」
 と、ヒトの声というより、なにか虫が鳴いたような声音で、そういった。
 余り人が握った自身の刀を観ると、業物が木の枝になっている。
 他のものも同様これには慌てた。段平が木の枝だ。
「それがニホンの兵法という、戦法か」
 と、また鈴虫の様な声音。
 この様子を羽秤亜十郎と帆裏藤兵衛は、厠から覗いて盗み見していたが、
「いやあ、呆れたナ。あれが南蛮の魔法かい」
 と帆裏藤兵衛が妙に感心した。
「見事なもんだ」
 羽秤亜十郎は別の意味でこれに関心を示した。
 ところで、いまひとり、慌てがさつく余り人を押し退けるようにして、黒装束の前に進み出た侍があった。柳生玄十郎だ。
「拙者なら、柳の枝でも、お主を倒してみるがナ」
こちらは不敵に笑って、閂差しの柄に手をかけた。

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