無料ブログはココログ
フォト

« seasonⅡ第二回 | トップページ | 港町memory 2 »

2019年4月11日 (木)

第三回

「楠木右近の鍔鳴りとやらは、儂がおまえに伝えた鍔鳴りとは似て非なるものではある。いや、まったくチガウといってよいだろう。お主の鍔鳴りは、この頭蓋に入っている脳髄に作用して、相手を一時の戦闘不能状態に陥らせる。いわば熾烈な耳鳴りを起こさせているようなものだ。しかし、鳴るというからには、右近もまた鍔を鳴らすことによって、相手を錯綜、混乱へと導いているにチガイナイ」
 胸あたりまで伸びた白い髭を撫でながら、左近の師匠である仙洞は、おそらく殆ど視力を失っているとおもわれる黒さのナイ眼で天井を睨み付けた。あきらかに白内障だ。
「しかしながら、その音を聞かねばそれでヨイといったのでもありますまい。それは某の鍔鳴りも同じこと」
「右近から刀を奪うか」
「ご冗談を」
「しかし、不思議な技だの。たしかに。彼のものの槍、八節槍術の槍は彼のものの攻撃態勢のとおりに突き出されたのじゃな」
「そうです。おそらく槍の使い手は右近の胸を、おのが槍が貫いたと信じたにチガイありません。しかし、拙者が観たかぎり槍は右近から五寸ばかり離れて突き出されていました。しかも、右近が入り身にかわした様子もなく、いつ抜刀していつその刀で槍の者の胸を刺したのか、観ていた拙者にもワカリマセン。これでは如何なる兵法者といえど、達人、名人といえども、手立ては皆無に等しきかと」
「すると、遠くから矢か鉄砲で狙うか、毒でも飲ませるかしか勝ち目はナイと踏んだか」
「無念、残念の至極ではありますが、右近とは斬り交えるということがまずもって不可能なのですから仕方ありませぬ」
 新野仙洞は深くため息に似た息をもらしたが、みえぬ眼で日に焼けた畳みを暫しみつめていたのは、記憶の中にかくなる兵法があったかどうかを探っていたらしく、
「実際に、相手をしたワケではナイが、ある逸話なら聞き覚えがある」
 と、左近に眼を向けた。まるで、その目に左近がみえているかのようだった。

« seasonⅡ第二回 | トップページ | 港町memory 2 »

ブログ小説」カテゴリの記事