無料ブログはココログ
フォト

« 鍔鳴り右近 秘剣武芸帳・seasonⅡ | トップページ | seasonⅡ第二回 »

2019年4月 5日 (金)

鍔鳴り右近 秘剣武芸帳・seasonⅡ

第一回

 

そもそも、秘剣鍔鳴りとは如何なる剣法なのか。こいつを解き明かさねば勝負にならない。そうかんがえているのは一文字左近だけではない。卍組頭目もまたそうだ。向かうところ敵無しとさへおもわれた薩摩白波五人衆の倒され方屠られ方をみるに、それは敵対する両人の目にもおそるべき事実だった。而、左近は自らの師匠のもとへ、卍組頭目は手下とともに終久門を警邏から奪還し、「この野郎っ」と締め上げの真っ最中。

「お頭、こいつ、ぜったい、贋物ですぜ。ケツに棍棒をぶち込んだのに、まだ口を割りません。要するに、なんにも知らんのとちがいますかネ」

「それはチガウ」

「どうしてですかい」

「おまえが、棍棒をぶち込んだのは、儂の尻だっ」

「あれっ、何でマチガッタのかな」

 と、このとき、終久門がくぐもった声で笑った。おそらく頭目と手下を嘲笑したにチガイナイ。

「まだ、気がつかぬのか。某の尻の穴とみせて、おのが頭目のケツに棍棒を突き刺させる。これは鍔鳴りの道理と同じじゃワ」

「ジャワって、カレーじゃあるまいに」

「とにかく、まず、棍棒を抜け」

「すいません。しかし、変だな」

 ズッポンッ

 頭目は尻を押さえながらも、その痛みに屈しないところはさすが忍びの者。

「すると、お頭、鍔鳴りってのはやっぱり催眠術ですか」

「おまえに催眠術はかからん」

「えっ、なんでです」

「バカには、催眠の法や術は効果がナイことは、忍びの書にも記されておる」

 複雑な手下の顔であったが、納得しているようにもみえた。

「おい、終とやら、いったい何をどうした。いま、お主のヤったことと、右近の鍔鳴りとが、何かツナガリでもあるのか」

 さすが、お頭。尻の穴が痛かっただけではナイようだ。 

「まあな、あるといえばある。おまえさんたちも、幾度となく右近と敵手との争闘はその目で観ているはずだ。右近は鍔を鳴らした後、いつ刀を抜いた。それがみえたか。おそらくみえなかったに相違あるまい。敵手が右近を斬る、が、次の瞬間、抜刀した右近の傍らに敵手はすでに倒れているか、絶命している。まるで時間を切り取ったようにナ」

 なるほど、いわれてみればその通り。

「では、終久門、お主もいまそれをヤってみせたというのか儂の尻を使って」

 久門は気味の悪い笑みを二人に向けながら、声なく笑った。これまた嘲笑。

「しからば、その方法はっ」

 と、頭目が詰め寄った。

「ワカランっ」

「へっ」と、手下。

「ワカランとはどういうことだ、お主、あまりに我々を愚弄すると、」

 と、さらに頭目は詰め寄って、久門と鼻先がくっついた。

「愚弄しているワケではナイ。拙者もな、かつてはあの楠木右近と相対したことがあるのだ。つまり闘ったことがあるのよ。ただ、それが何処でどんなふうであったかという記憶がナイ。記憶はナイが、いまのごとくに、まあ似て非なるものだが、鍔鳴りと同じ道理の技を使えるようにはなった。某の兵法は〈神移し〉というての、相手の技を瞬時に会得することが出来るというシロモノ。もっとも、そういう技は右近も使うがナ。もちろん、右近のほうがスジはイイ。いってみれば某のはcopyに過ぎんからな。いまのようなほんの少しの真似事は出来るが、その本来の質というか、理までは手中にしておらんでナ」

 だからなんだというのだ、いまにもそういうコトバが頭目の口から跳び手相な気配だったが、

「だから、なんだというのだ」

 と、いったのは手下のほう。

「なんだというてもナア。ようワカランだが、ふいにおのれらの動きが緩慢になり、或いは暫し止まっているようにみえる。そのあいだにこっちは仕事をするまでだ」

「なんじゃ、それは」

 手下は久門を蹴飛ばしたが、

「それは、逆かも知れぬな」

 と、頭目は頭目らしく、もったいぶった口調で、

「こちらの動きがゆっくり、或いは留まるのではなく、そちらの動きが速くなるのかも知れんナ」

 結論としては、朧と同じことをおもいついたワケだ。

「しかし、幾らすぐれた忍びでも、さほど速くは動けん。白土マンガのような分身の術などはせいぜいが三つまで。且つ分身三つ身を使われても、こちらはそれが三つであることを観ておるのだから、当方が止まっているワケでもあるまい」

 久門も首を捻った。

「うーん、某にそれが可能なのはほんの寸時、なにしろ右近のような鍔を持っているワケではナイのでな」

「んっ、そうか、鍔か。やはりあの鍔が」

 と、そういったきり頭目は沈思黙考。

« 鍔鳴り右近 秘剣武芸帳・seasonⅡ | トップページ | seasonⅡ第二回 »

ブログ小説」カテゴリの記事