第三十八回
いっぽう、薩摩白波五人衆をことごとく失った卍組とて、黙ってこの状況に甘んじていたワケではナイ。
「へーえ、そうなんですか、頭」
「そうだ」
突然、あのデコボコ、いや、頭目と手下のいつもの漫才、いや掛け合いが始まる。
「また誰か、手練をお雇いになったんで」
頭目は、含み笑いをするのみ。
「その含み笑い。きっと、スゴイのを雇ったんですね」
「そのとおり、だっ」頭目、コトバとともに、唾も吐いた。
「それが、ひょっとすると、あの御仁で」
手下の示すところに、小柄な男が胡座で座している。その目、開いているのか閉じているのか、これが俗にいう菩薩眼。
「さて、終久門(しまい くもん)どの、とやら、お待たせした」
頭の眼光、いつもに増して鋭く、胡座の男を睨み付けるかのよう。
「くもん、というと、流派は公文式ですか」
「久門どの、こやつのいうことをいちいち気にせんでもらいたい。出来の悪い手下しか当方には残っておらぬのでな」
「あらら、アララット山はノアの方舟。で、この手練の方の武芸、武器は何ナンです」
「聞いて驚くなっっ」
「たいていのことには驚きませんよ、もう」
「この終久門どのは、右近と同じ〈隠れたるもの〉だ」
「ええええっえっえっえええっっっ」
「驚き過ぎだ、馬鹿者」
「この方、あの〈隠れたるもの〉さん、ですか」
「そうだ」
「そんなの、よく見つけてきましたね」
「そろそろ登場する頃だという読者の読みを感じたのでな」
「では、この方も、鍔鳴りをお使いになるんですか」
このとき、菩薩眼の片目がすこうし、開き、
「私の兵法は、あのような子供だましではナイ」
終久門の唇が微かに動いて、そういった。
「右近の鍔鳴りを子供だましと、おっしゃいましたよ。カハハハ」
手下はヘラヘラしている。
頭目は、手下を殴る気分も失せている。
「秘剣鍔鳴りとは、柄を拳で叩き、鍔を震わせて、」
おお、いま、鍔鳴りの秘密が語られようとしている。頭目も手下も息を飲む。
「鍔を震わせて、」
なんだ。
「鍔を震わせて、」
そのアトだ、聞きたいのは。
「鍔を震わせて、・・・何かをするのであろう」
頭目も手下も、やや、ズッコケる。

