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2018年10月30日 (火)

第四十三回

「ところで、羽秤、伴天連幻魔術というのを知っているか」

 突然、帆裏藤兵衛が片目を閉じてそう吐いた。この男が片目を閉じて何かを語るときは、あまり良い報せではナイことを羽秤亜十郎も知っていた。

「伴天連、バテレンというと、あの長崎出島にいた連中のことか」

「出島はもう形骸化している」

「伴天連幻魔術、そういう怪しげな法術だの仙術だの、魔法だのの噂を耳にしたことはあるにはあるが、それがどうした。まさか、」

「そのマサカリかついだ金太郎飴だ。西洋の奇妙な術を使う族が、やはり楠木右近の十万両に興味を示しているという報を、オレの手下(テカ)が手に入れた」

「伴天連幻魔術、ふむ、どんなものかは知らぬが面倒なことになりそうな気はするな」

 

 その頃、不知火朧は遅い晩飯を食べていた。

 食う寝る糞する。これはどんな達人もみな同じ。

 蝿が一匹、朧の周囲を旋回し始めたが、朧の唇がやや尖るようにみえてヒュッと音を発すると、その場で蝿は落ちた。三間先の敵をも倒す朧十忍の一つ、刺息(しそく)。吹き針の類ではナイ。息そのものを鋭い武器にしているのだ。おそらくこれは右近との次の闘いで用いられるのにチガイナイ。

 傷の癒えるのは常人より数倍早い。朧の身体はそんなふうにそれ自体が特殊に出来ている。生まれつきのものだ。それを見込まれて忍びの技を仕込まれた。

 ともかく、右近の刀身の届かぬところからの攻撃、いま思いつくことはその程度のものだ。〈邯鄲〉の術のように毒霧で包むのも手かも知れぬが、その程度の術で倒せる相手ではナイ。

 剣の柄を打つとき、手首が柄に届かぬように自由を奪うという〈闇縛り〉という十忍の一もあるにはあるが、それでも心許ない。

 と、黙考する朧の背に、ある声が聞こえてきた。耳にではナイ。幻聴でもナイ。それは聞き覚えからして師匠だった者の声だ。朧は閉じていた眼を開いた。黒い瞳がその声を観るかのように輝いた。〈観音〉の術。これは無意識の思考を聞き取る術だ。それゆえ、自在には使えない。一種のinspirationのようなものだ。

 声は述べた。

「あのもの〈隠れたるもの〉は、あの世の終わりからこの世のはじまりに来たものだ」

 朧はその声に応じて、

「では、如何にして」

「この世のものに〈隠れたるもの〉が敗れるとはおもえぬが、しかし、ぬしもまた〈隠れたるもの〉の末裔と心得よ」

 ここで、師匠の声は消えた。

 

 四面楚歌どころではナイ。至るところに強者ばかりの敵。時代考証など何処吹く風と、おっととこれは作者の立場。楠木右近は関の麒六を枕にして草の上、寝転がって空の雲を観ている。秘剣鍔鳴りとは如何なる兵法なのか、これだけは作者、出鱈目に書いているワケではナイ。いったい誰がその秘められた謎に気づくのか、また、鍔鳴りが敗れるときがやって来るのか。朱鷺姫と十万両はどこに忘れ去られてしまったのか。

 さらには、海の向こうから〈伴天連幻魔術〉を用いる新しい敵まで登場して、作者渾身の暇つぶしはつづいていく。

 というところで、

シーズン1 了

 

シーズン2は、来年の春頃から連載の予定でござんす。

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