第三十一回
「おぬし、根っからの武士ではないな。立派な刀を背負ってはいるが、生臭坊主の類、その姿のとおりの仏門の者だな」
何処で素性を右近が知ったのか、羽秤亜十郎も、あまりの右近の直截な言にたじろいだ。
「あっ、いやあ、ほほう、それは、あの北司坊主からの報せか、それとも、うーん、まあ、どうでもイイや。仰せのとおり、おいらは臨済宗の印可持ちだ」
「禅坊主か。おまけに印可まで拝していると。それはまたナカナカのもんだな」
「そう、そのとおりだ。禅坊主がどうして刀を背負っているのか、よう、知りたいか」
右近は軽く呆笑しながら、
「そんなことはどうでもイイことだ。酔狂ならそれまで。臨済宗の坊主なら座禅でもしていればヨイものを、物騒な段平背負って殺生をmission(任務)にするとは、相当の阿呆ダナ」
さらに微苦笑というのだろう。右近の目尻が今度ははっきりと緩んだ。
「てめえ、なかなか口も達者だな。いやあ、座禅は厭きた。釈迦も悟りもどうでもイイ。いまとなってはそういう抹香臭いものじゃ、生きてはいけねえんだ、これがな、ハハ。それに、成仏より殺生のほうがオモシロクなってきてね」
「なるほど。で、その不動のなんとかの術で、わたしの動きを封じて斬る、と、そういうことか」
右近の右手は、まだ柄の上にはナイ。
「お望みなら、そうしてみせようか」
とはいったが、羽秤亜十郎にしてみれば、右近の鍔鳴りとやらをまず観てみたい。そんな欲求にかられた。そのせいか、羽秤亜十郎の視線は逆に冷酷さを帯びて鋭くなった。
「まあ、好きなようにするがイイ」
右近は、まったく相手にはしてないふうを装って羽秤亜十郎から目を逸らした。もちろん、挑発にチガイナイ。この野郎とばかりに羽秤亜十郎、背中の太刀に手をまわしたが、
「ん、んんっ」
その手が肩までで止まっている。
「あれっ、これはっ」
羽秤亜十郎の顔から先程までの自信(あるいは空威張り)というものが、今度ははっきりと一瞬にして消えた。
「ひょっとして、その手、動かんのかクソ坊主」
羽秤亜十郎は汗ばんで右近を睨んでいる。確かに手がピクリとも動かない。
「鍔を鳴らすばかりがわたしの兵法ではナイ。それがワカッタら、ここを去れ」
羽秤亜十郎にしてみれば、自分が自分の不動術を仕掛けられたようなものだ。しかし、そんな莫迦なことはナイ。
「クズレ坊主、その不動術とやらの修行に何年、費やした。おおよそ三年か」
と、右近のコトバが飛んだ。確かにそのとおりだ。
「しかし、私はいまその修行をここでヤッてみた。そうして会得したぞ」
右近、今度はそんなことをいう。
不動術を会得だと、いったい何をほざいていやがる、とはおもったが、確かにこれは不動術にはチガイナイ。マチガイなく、羽秤亜十郎は動けないでいる。

