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2018年10月12日 (金)

第三十三回

 分身の術だとおもわれるが、その数が合わせ鏡に映った鏡の如く無限の数に増えていく。

 これには、右近よりも羽秤亜十郎のほうが驚いている。

「こいつぁあ、飽きねえなあ」

 羽秤亜十郎は戯れて影を一つ二つ斬ってみたが、手応えはナイ。それくらいは予想していたらしく、

「やっぱりキリがねえか。じゃあ、オレはオレで右近さんの命、頂くぜ」

 と、下段地擦りに構えた。

 じつに奇妙な構図だ。右近は無数の影にかこまれながら羽秤亜十郎と相対している。

「新陰流、後の先の極意の構えに似てはいるが、似非禅坊主、それも傾斜流の工夫か」

 と、右近は微動だにせず、そう、いう。

「新陰流とはチイっとちがうのさ」

「チガウといえど、後が先になる、先が後になる変化程度だな」

 と、右近は面白そうに羽秤亜十郎を穿った。

「おおっと、そのとおり。お見通しだが、見通されてもどうってことはナイんでえ」

 つまりは、攻撃に対し、撥ね上げるのが先になるか後になるかだけのこと。と、右近は述べたことになる。

 しかし、この撥ね上げを狙った地擦りにはもう一工夫、というか、かなり卑劣な仕掛けがあった。

 それを知ってか、あるいは他にかんがえがあったのか、めずらしく右近は関の麒六を事も無げに抜いた。

 それを観て、羽秤亜十郎は剣先を撥ね上げた。と、刀身が柄から抜けて飛んだ。これが仕掛けだ。間合いも見切りもあったものではナイ。刀身は、矢のように右近の胸に向かって飛んだのだ。

 これを右近が己れの抜き身で弾いたかというと、そうではナイ。羽秤亜十郎の飛ばした刀身はいきなり曲線を描いた。カーブを切ったといってよい。それが、無数に蠢く朧の影の一つに突き刺さった。

「ううっ」

 呻いたのは、朧の影だ。

 一瞬にして影は一つとなり、それが不知火朧の実体だということがワカッタ。羽秤亜十郎の抜いた刀身は朧の太股を貫いている。

「刀をオモチャにするとは、所詮はスタスタ坊主の剣術。女の太股が好きなところは、久米の仙人かも知れぬが」

 朧にとってはトバッチリなのか、あるいは右近の狙いどおりなのか、何れにせよ、たまったものではナイ。

「何故、実体に気づいたっ」

 と、右近に発したはまさに朧の慟哭。

「そんなことは、刺さった刀にでも訊くがイイ」

 柳に風とその咆哮を受け流し、右近は関の麒六を鞘に納めた。

「これ以上の闘いは、双方とも無理だと存ずるが」

 いわれるまでもなく、羽秤亜十郎も朧も、遁走した。

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