第四十一回
切場銑十郎の兵法は誰も観たことはナイ。なるべくなら自身の技、術、剣跡はみせたくはナイものだが、すべての強者たちがみなおのれの技を隠していたのかというと、けしてそうではナイ。逆にこれを誇示するものもいたし、切場銑十郎のように単独でしか仕事を引き受けず、人知れず標的を確実に倒すものもいた。
切場銑十郎の仕業とワカルのは、倒されたものこれすべて、首と胴体が離れていたからだ。
「右近の居場所くらいは見当をつけておるんだろうな」
圧するような口調だが、胴間声というのではナイ。突き刺さるような声音だ。
「それは密偵が常に見張っている」
左近が答えた。
「左近どのは、その鍔鳴りとはもうヤランのか」
一文字左近、さすがに返答に窮したが、
「相討ちにもっていく策でも練れたらナ」
フッと、笑って誤魔化した。
「なるほど、そいつは利口だ」
いうと、切場銑十郎は立ち上がって腰の帯に刀をさした。
それからひとこと。
「で、その化け物は何処に」
刀のcurveはもとより、羽秤亜十郎には不動の術を右近が使ったことも合点がならなかった。あれを会得する修行に右近がいったとおり三年かかった。それを、右近のコトバどおりに瞬時に右近が会得するとは、そんな莫迦なことが出来るワケがナイ。いや、あの兵法者ならひょっとして。何にせよ、何がどうなってやがる。化け物め。こうなったら飛び道具か毒しかナイのか。古の中国には拳法の達人が数多く在ったが、それらはみな毒殺されている。
襖はところどころ破れ、畳は凹み、まだ冬には早い晩秋だというのに、すきま風が冷たく感じられる宿場はずれの安宿だった。
突然、「入るぞ」という男の声がした。聞き覚えのある声ゆえ、亜十郎は胡座をかいたままの姿勢で、「遠慮なく」と返答した。
破れ襖を開けて亜十郎と同じような作務衣と坊主頭が入ってきた。さすがに背中に刀は無いが、腰に小刀一本。いや、左右に一本ずつだから、二刀流ということにでもなるのだろうか。
「帆裏藤兵衛か、久しぶりだな」
「よくオレの声を覚えていたの」
「そのしゃがれ声を忘れるものなんていねえよ」
「梃子摺(てこず)っているとみえるの」
「ああいう化け物には出くわしたことがナイんでナ」
「楠木右近、鍔鳴りの噂は聞いている。かなりの達人、強者が、あしらわれて倒されているらしいな」
羽秤亜十郎は、貧乏徳利と湯飲み茶碗を押し入れから出してくると、帆裏藤兵衛の前に置いた。
「安宿だが、この辺りの地酒はなかなかイケル」
湯飲みにトクトクと音をたてて、酒が注がれた。
「二人掛かりでもダメか」
「そういうことを試したものも在るらしい、それに、」
と、羽秤亜十郎は、あの朧と自分自身が二人同時にあしらわれたことをおもいだしていた。
「三人だろうが、百人だろうが、同じことなんじゃナイのかねえ」
その放り投げたようなコトバに、
「珍しいこともあるもんだな、羽秤亜十郎から投げやりな文句を聞くとは」

