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2018年10月 1日 (月)

第二十五回

 八節槍術に眩傍の法あり。

 いま、それを眼前に対峙しているのは、いわずと知れた楠木右近。

 只飲理兵か右近か、どちらが敵の前に姿を現したのかは定かでナイにせよ、この両者はいずれは闘わねばならない。

「この竹林に拙者を誘い込んだのは、正しいと、いってもよいが、それで八節槍を防いだつもりなら大間違いだということを、いまワカラセテやろう」

 只飲理兵は右近に胴間声をあびせると八節槍をとりだした。そうして、その切っ先を右近に向けた。それから不敵に笑った。眩傍を試みるまえに少し余裕をみせたかったのか、或いは脅かしのつもりだったのか、只飲理兵は槍を回転させ始めた。

 なるほど、間隔せまく竹の生えている場所では、長い槍は遣いづらいにチガイナイ。だが、只飲理兵のそれは八節槍だ。それに、狭ければ拡げればよいだけのこと。只飲理兵は八節槍を、ちょうど八文字に数回、鞭のように振り回した。竹は数本、まるで刀で斬ったかのように切断され笹の葉と同時に地に垂直に落ちた。刀剣でも至難の技をいとも簡単に只飲八節槍はやってのけた。だが、これが彼の油断といえた。右近が柄を打つのを見逃したのだ。

「拙者の槍は、ただ突くだけではナイ。ご覧のように竹ですら、斬り倒すことも出来る」

 その自慢げな只飲理兵のコトバを右近は黙って聞いていた。

 と、そのように、当人の只飲理兵にすらそのように、みえた。

 が、同時に只飲理兵は右近の帯に鞘だけが残され刀身が無いのに気づいた。右近は両手をだらりと下げて立っている。しかして、その刀身、関の麒六は、

「まっ、真逆、こんなことが起こりようがあって、」

 たまるかといいたい只飲理兵の気持ちはじゅうぶんに察せられる。刀身は、只飲理兵の胸を貫いて、在った。

「拙者の刀も、斬るだけではなく、突くことも出来るということだ、槍使い」

 そういうと、右近は只飲理兵の胸から、おのれの刀を引き抜いた。只飲理兵は驚愕で凍りついたままだ。しかし、血飛沫が胸から吹き出すと、悪い夢をみているかのように、そこから覚めんと試みるかのように、首をぶるぶると振ったが、これは夢ではナイ。

「い、いつの間にぃっ」

 一文字左近は、これを遠くから観察していた(というか、盗み見なんだけど、こやつ狡猾だからナア)。そうして彼も首を捻った。只飲理兵が槍を回転させる中、楠木右近は刀を抜き只飲理兵に突きを入れている。それはさほどの早業というものではナイ。つまり、只飲理兵が気づかぬはずはナイ。何故、避けなかった。気配が観てとれなかったとしか考えられぬ。どうやって気配を消したのか。ある種の隠行の法というものか。で、あるならば、それをいつ用いた。

 名うての剣客、自惚れも強い一文字左近だったが脇に冷たい汗を感じていた。

 あの兵法は破れぬ。自らが梃摺(てこず)ったあの槍術を、いとも簡単に葬ったあの鍔鳴りこそ、たしかに、秘剣。ただひとつ、左近がここで学んだことがあるとすれば、右近の鍔の鈴はまやかし。必ずしも鈴が鳴るとは限らない。鈴が鳴ることに敵手は要心する。しかし、鈴が鳴らなければ、いつ柄を打ったかはみきわめられない。自らの鍔鳴りとは異なり、おそらく指で鍔を弾いても右近の鍔鳴りは生ずる。ひょっとすると、右近から刀を奪っても右近は鍔を鳴らす術を心得ているやも知れぬ。

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