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2018年10月 6日 (土)

第二十八回

 一方、団 衣紋と菊間佐野介。こちらは、いま少し現実的なことを話し合っていた。

「なあ、頭目。正直に答えてくれ。俺たちは、あの右近に勝てるとおもうか」

 団 衣紋は沈黙したままだが、その答えは菊間佐野介にはたいていワカッテいた。

「オレは、オレの邯鄲の術が敗れるなどとはおもっちゃいない。だが、かといって、赤星やら只飲理兵たちのことをかんがえると勝ち目があるともおもえない。これは弱気でいっているのではナイ」

 菊間佐野介のコトバを聴いて、衣紋は唾棄するように苦々しく応えた。

「勝てぬということなら、この衣紋、一度戦っている経験からよくワカッテいる。わしの鎖鎌を手玉にとった武芸者などいままでいなかったからな。わしは、初めて恐怖というものを感じている。笑うなら笑え」

 笑えるワケがナイ。すでに夜だ。野営、野宿、どう称してもいいが闇の中で二人の前にはまるで二人のココロのように心細げな焚き火が燃えている。

「頭目、俺たちは幾らで雇われた。たしか、前金が一円銀貨5枚、成功報酬が十円、悪くはナイ仕事だと引き受けた。しかし、命と引き換えならこれは安い。安いっ」

「繰り返さなくとも承知だ。と、いうか、わしも同じことを考えている。とはいえ、これを大枚百円でヤレといわれても出来ぬものは出来ぬ」

「そこで、一策。右近が握っている〈お宝〉を略奪と方針を換えてみたが、さて、これも右近の邪魔が入るは必定。ちくしょう、薩摩白波衆になってから、こんなスレッカラシのような気分になったのは初めてだぜ」

 菊間佐野介、焚き火に拾い集めた薪の一本をおのれの自棄を示すが如くに投げ入れた。

 焚き火は火の粉を散らしたが、と、このとき二人、咄嗟に身構えた。

「聞こえたナ」と、団 衣紋。

「聞こえた。笑い声だ。しかし、男の声ではなかった」

 動物的な勘とでもいえばいいのか、二人、焚き火から飛び退いて闇の中に消えた。もちろん二人とも守備と攻撃のどちらも可能な態勢に入っている。

 と、振り袖に袴姿の女がひとり、焚き火の傍らに立っているのが二人からみえた。何処から、いつのまに。気配はまったくなかった。

 敵なのか味方なのか。団 衣紋も菊間佐野介も、焚き火の炎に煽られている、その艶やかな装束にけして負けぬほど美しく整った顔を記憶の中に弄(まさぐ)った。しかし、あの顔、あの姿に覚えはナイ。

 暫し、息をひそめる時間があったが、

「情けないのを雇ったものね」

 と、女が無表情でいうのが聞こえた。もちろん、独り言ではナイ。団 衣紋と菊間佐野介に向けての侮蔑だ。

 一閃、団 衣紋の鎖鎌の分銅が女の背中に向けて飛んだ。

 一撃あるはずだった。

 が、分銅は女のカラダを素通りした。

「なんっ」という声が衣紋から漏れた。

「朧十忍の一、無影蜉蝣(むえいかげろう)。どう、その眼でご覧になった感想は」

 それには応えず衣紋の第二撃が女の顔面に飛んだ。

 が、これも女の顔を素通りしただけだった。

「感想なんて聞くまでもナイということなのね。無粋なご返事だこと」

 衣紋のニ撃目は、その女が実体ではナイことを確かめるためのものだった。無影蜉蝣とはよく名付けたものだ。たしかに、焚き火に女の影はナイのだ。そこに立っている女人は実体ではナイ。移し身の術の変形のようなものか。二人、同時にそう判断した。しかし朧十忍とはナンダ。

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