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2018年9月 5日 (水)

第二回

この暗闇では、両者の闘いは常人にはみえなかったにチガイナイ。番傘片手の右近、歩をすすめようとしたが、それも刹那に気が変わった。

「新手か。どういうワケか、今宵は千客万来、いや、百鬼夜行というべきか」

 いいつつ、瞬時、身をかわした。手裏剣の飛ぶ音がする。一枚や二枚ではナイ。それらは全て番傘で叩き落とされたが、そのうち一枚を、右近は悠々と拾うと、

「苦無(クナイ)か。なるほど、今度はくずれ忍びの出番らしいな。のう、そこいらに潜んでおられる陰の衆。幾らでその命、売られたのかは知らぬが、この時世だ、地道に畑で鍬でも握っていたほうが身のためと思え。おぬしらにかける情までは、拙者、今度こそ持ち合わせてはおらぬっ」

 くずれ忍びたちは鍛練した眼で、右近と貧乏侍の闇の中の闘いを視てはいた。彼らの眼にも逆袈裟で右近が斬られたように映った。しかし、倒れたのは右近ではなかった。これは彼ら忍びにも合点のいくものではなかった。よって、試しにクナイを投げてみたのだ。けれども、右近はその腰のものを抜きはしなかった。

三つの影は同時に襲いかかった。ある者は飛び、ある者は走り、ある者は真っ直ぐに、それぞれ忍者刀で斬りつけたが、そのいずれかは、右近に斬り付けられるはずだった。しかし、これらはことごとくを舞うように躱された。

そうしてまた鈴が鳴った。三つの影の第二撃。右近が何処をどんなふうに動いたのか、そうして、どんなふうに斬りさばいたのか、三つの影は殆ど同時に倒れ付した。

刀身を鞘におさめる音だけがした。右近の視線は未だ前方をみつめている。

「もうひとり、いらっしゃるな。とはいえ、殺気がナイ。拙者に何の用だ」

 この右近の問いかけを受けて、闇から声がした。

「楠木右近どの。これで、腕前のほうは存分に拝見いたした。ご無礼の段、お詫び申し上げる。それがしは元松阪十二万石の城代、明治のいまとなっては、ただの老いぼれ坊主の身、名乗るほどのものではござらぬ。しかしながら、それがしには、亡き大殿の遺言(いごん)による重き役目がござる。大事の儀はこの先の先祖の菩提寺にて申し上げる。お出で頂けましょうや」

「よくもそんなことがいえたもんだな。四人、無益な殺生をさせられた。いまさら断れぬとは承知の上か。ただし、そちらの儀とやらが、拙者の気にいらぬことならば、元城代どのだろうが、老いぼれ坊主だろうが、斬って棄てるが、それでもよろしゅうござるな」

「無論。覚悟は出来てござる。然らば、右近どの、何卒、こう、参られい」

右近は、ふっと空を仰いだ。

「雲がきれたの。雨はやんだか。月とは、これは粋な道案内」

なるほど、雲の切れ間に月が輝いて、右近の足下まで照らしている。(つづく)

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