第二十回
第十九回から四日を経たが、四日間、只飲理兵と近藤が凝っとしていたというワケではナイ。どういうワケか、近藤が刀を収めた。
「隊規違反じゃが、三人斬っておるからエエじゃろ。ここでその武具とやりあっても、相討ちの公算が大き過ぎる。いま私は怪我で不具になるワケにはイカンからなあ。どうだ、きみもそうだろ。薩摩か、長州か、土佐か、何処に雇われておるかは知らんが、金子のために命を棄てるなどということは、くだらぬことだぞ」
たしかに、只飲理兵も、目前の武士を相手に素直に勝てるとは考えていなかった。相手が鞘に収まるなら、そのほうが好都合。
なるほど銭、金子の多寡で命を棒に振ってもつまらんことだ。
と、こういうことだけの逸話なのだが、それだけでも、只飲理兵の槍術の手強さがワカルというもの。
さて、右近の後を追って駈け出さんとした只飲理兵に、
「槍のようだが、槍に在らず。めずらしい武器を所持しておるな」
と、一声かけて、その足を留めさせ、積み材の陰から姿を表したのは、ニッカボッカーに開襟シャツ。去って行きしはずの一文字左近。
「貴様はっ」
「味方ではナイ。とだけ、答えておこうか」
只飲理兵、相手の風体を観て、足幅のstanceを防御にとった。
「ほほう、おぬし、赤毛なんたらの雇われもんだな」
八節の槍が、八つから一本にあっという間に組み換えられた。
「だったら、どうする」
槍の先端は、左近の間合いに入ろうとしている。
それを観つつ、左近は不敵な眼差しを只飲理兵に向けた。敵意があるとも、無いとも、判断のつかぬ、このオトコ特有の眼光だ。さらに、
「いやあ、実はな。拙者もあの、楠木右近と戦い損ねて、気まずい思いでいたところだ。とはいえ、そこの二つの骸の、右近との戦いはこの眼でしかと拝見した」
一文字のそのコトバを聞くと、只飲理兵は足の位置を防御から攻撃の姿勢へと換えた。
「なるほど、泥棒猫のような真似をしよったか」
只飲理兵の八節槍の穂先が今度は地面を舐めるように動く。
一文字もいよいよ殺気を隠しはしない。左手の親指は鍔にかかっている。
この二人、ヤル気らしい。
「研鑽だよ、貴様の武器に対する研鑽。好奇心の趣さ」
と、いうや、左近の右手の拳が柄を軽く打った。

