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2018年9月14日 (金)

第十一回

いま一度、赤毛結社の本拠と思しき場所、あの奥の間へもどる。

何処からともなく聞こえる、寄る辺なき声が、いま、座しているものと、帯刀して立っているものの二人になった座敷に暗く響いた。

「センガンツウ、ヲ、ヨベ」

「千眼通でございますな」

 座しているものが応えた。

「なるほど、それなら、拙者も観たい」

 左近も頷く。

 しばしあって、茶坊主に手を曳かれながら、盲いた老人が白装束で現れた。

「初陣は天下分け目の夏の陣、齢、もはや数えず、されど衰えず。千眼通、罷り越しました」

「楠木右近の戦いぶりが観てみたい。おそらくご支配さまも、そうでござろう」

 そう、左近が白装束の老人に命じた。

 ご支配さまと左近が呼んだのは、寄る辺なき声の持ち主のことだろう。

 千眼通、というのは、白装束の老人が用いる何らかの術、技とかんがえていいようだ。

「楠木右近、ふむ。くすのき、うこん」

 そう、右近の名を二度唱えると、老人は、骨と皮だけになった二の腕を差し出した。掌は上に、何かその掌に乗せているようなふうに観てとれるが、とくに、何もナイ。

 とくに何もナイ、のだが、老人の身躯だけは小刻みに震えている。

「んっ」

 と、声を発したのは、左近だ。続いて、座したものも、同様の声を発した。

「うん、さすが、千眼通っ、みえてきたぞ」

 左近、今度はそういって、眉間のあたりに手をあてると、頷いた。

 これが、「千眼通」という、術、あるいは技なのだろう。何かが二人の脳内で、像となってみえているにチガイナイ。テレパスとはやや異なるがcategoryは同じらしい。

 「千眼通」、その奇妙な儀式は小半時ほど奥の間の座敷を占領した。

 やがて、老人の手がその儀式のオワリを告げるかのように、畳の上に落ちた。

「如何、か」

 息がだいぶ荒くなっているが、絞り上げる声で老人は、問うた。

「左近どのは、どうでござった。拙者には、何故、同志の剣が空を斬っているのかがワカリ申さんが」

 座したものは、左近に問う。

「いや、あれが、鍔鳴りだ。同志たちは、確かに右近を斬っているのだ」

「斬っているのですか」

「ああ、斬ってはいる。しかし、袈裟懸けも、逆袈裟も、抜き胴も、斬ったとき、右近はその場にはもう、おらぬ」

「見切っているとでも」

「見切っているというより、躱しているといったほうがよい」

「躱している」

 座したものは疑問をあらわに、怪訝な面持ちをみせた。

「ワカラヌのも無理はナイ。同志たちが斬っているのは、ほんの一瞬前の右近だからな」

「ますます」

「ワカランのも無理はナイ」

 と、左近は、座しているものの表情とは、まったくチガウ、何やら嬉しくてたまらないといった顔をしている。

「これは、楽しみになってきた。拙者の鍔鳴りと、右近の鍔鳴り、如何に、相成るや」

 そうして、堪えきれぬといった笑い声が、左近の喉からこぼれた。

 果たして一文字左近は、秘剣鍔鳴りの秘密を見破ったのか。

 どうも、そうではナイらしいということが後ほど判明する。この一文字左近、なかなかのハッタリ屋らしい。

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