こころの距離はいつも1センチメンタル・7
(7)信仰のフィジカル~親鸞と日蓮~
もともと宗教には〈根拠〉というものは無い。これが科学とは絶対的に異なるところだ。かといって、科学の〈根拠〉がアテになるかどうかは別問題とだけ記しておくが。
親鸞(1173~1262)は師匠の法然の「念仏第一」主義に対して、念仏すら棄て、「信心第一」主義の立場をとった。くだいていえば、念仏を唱和することよりも、信仰が大事ということだ。もっと否定的にいえば、信仰のナイもの、信心の薄いものが、いくら念仏(ここではもちろん南無阿弥陀仏だが)を唱えても意味がナイということになる。これは従来の小乗(上座)仏教に対して、ひじょうにワカリやすかったので、非知識層の農民や、武士にも浸透した。浄土系は菩薩すら否定したので、「修行」の必要がなかったのも流布した理由がある。ところで、信心の対象となるべく、その阿弥陀如来だが、釈迦如来(仏陀)が歴史上の実在人物であるのに比して、出自が経文(経典)の中だけにしかナイのだ。すると、創作だということになるが、誰の創作なのかも、よくワカラナイ。これは真言宗の大日如来も同じ。このような事例は、ヒンドゥーの多神教との関係が大きいと考えるべきだ。(ただし、ヒンドゥーの多神教は、実は一神教で、他はみな化身ということになっている・・・他の考え方も当然あるが・・・)
このような信仰(かんがえかた)に対して、日蓮が反駁したのは当然のことだ。
日蓮の他宗批判は、舌鋒鋭く「真言亡国・禅天魔・念仏無間」と、こと有名だが、バラバラに批難しているようにみえても、けっきょくは、釈迦牟尼仏を無視、あるいは阿弥陀仏の下位において、その阿弥陀如来などという在りもしない仏を信心することに対する批判なのだから、一貫しているといえば、そういえる。(いや、在るというのが宗教なのだが、もちろん、何の根拠もナイのも宗教だからだ)
また、その論理でいうなら、日蓮は釈迦の残した「自燈明・法燈明」に忠実だったともいえる。日蓮からすれば、親鸞の説く「他力本願」は「法燈明」に該るからだ。(それは二番目。先に自燈明がある)。とはいえ、日蓮の信奉する『法華経』も経典の一つにしか過ぎないし、当時の『法華経』は漢語からの和訳だったから、矛盾が多い。(しかしながら、サンスクリット原典でも、途中から差し込まれたと推測される「品」が幾つかみられ、これが内部矛盾をつくりだしている。そのことについては、鎌倉当時はまだワカッテいなかった。そのため、日蓮自身も漁師の子供という出自に対しては、かなり腐心している。何故なら漁師などの賤しきものに近づくのはイケナイという記述があったからだが、これは原初法華経にはなかったということが後の研究で明らかになっている。で、ないと、この「品・・・『安楽行品』」はあきらかに法華経の教えとは矛盾することになる。歌舞音曲の類、つまり芸術、芸能もダメとなっているゆえ、宮沢賢治もここで苦悩した。他、『陀羅尼品』以下は後世の追加、附属ということだが、私もこの学説・・・植木雅俊『梵漢和対照・現代語訳 法華経』・・・を支持する)。
矛盾が多いことは『聖書(Bible)』だって同じなのだが、聖書のほうの矛盾は、編纂、編集の出鱈目さからくるもので、チェスタートンのいう、「聖書に矛盾がみられるとき、この世界の矛盾と対応している」てな、名文句による解釈では片づかない。
『歎異抄』にせよ『立正安国論』にせよ、けっきょくのところ、現代に至っては、他の宗教と同じように、対立と抗争を産み出すことになった。根拠が無いのだから、そうなることは論理的帰結としかいいようがナイのだが、と、私などは高校生のときに読んで、まったくイカレてしまった『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍、著)にどっぷりだから、こと仏教においては、「釈迦の思想」としてしか繰り込まないし、その視点からいけば、過ぎたる「他力本願」も、過ぎたる「釈迦信仰」も、釈迦の思想の神髄の「中道」からハズレたものとなる。
釈迦の思想と、仏教とは、メンタルな差ではなく、フィジカルなものと考えたほうが納得がいく。釈迦曰く/過ぎたる苦行はアカン。テクニックだけの瞑想もアカン。もちろん、過ぎたる快楽もアキマヘン/・・・これらは、フィジカルに識るべきことだ。
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