〔デン魔大戦編〕6
「何だよ、この御方」
土方も初めて、人魚に眼を向けた。もっとも、気付いてはいたのだが、知らぬふり、見て見ぬふりしていたのかも知れないけど。
「ワカランのだけどネ」
と、しか、私には答えようがナイ。
「デンマって何なのよ、マッサージじゃナイんでしょ」ハルちゃんレイさん。
ところがこれに、あの、マスカク、増岡久蔵が、応えたのだ。
「デン魔襲来については、私ども宇宙軍事研究家のあいだでも予想されておりました」
そんなのがあるんだ。あるって、マスカクがいってたじゃナイの。
「電動マッサージを武器にした、悪党どもです」
宇宙軍事研究家というのも、あんまりたいしたものじゃなさそうだな。
「もちろん、それは、冗談です」
余裕だね、このひと。
「デン魔の正体は謎とされておりますが、現在は重力波の方面からその研究が進められております。正体は不明でも、目的はハッキリしております」
この宇宙の破壊、暗黒の到来、じゃナイだろうな。
「この宇宙の破壊、暗黒の到来、です」
同じジャン、幻魔と。
「では、デン魔大戦勃発か」
驚いたことに、土方が、そういったのだ。
「そう、ビックラこくな。戦記ものはcomicであろうと、一応読んでいる」
なるほど、さすが〈革命〉を目指す武士。
「しかし、それは、どんな闘いになるんです。魔物と超能力者との対決ですか」
と、私は問うた。
それにはマスカク、ウーンと思案していたが、人魚のほうが応えた。
「マンガのようなものではアリマセン。どちらかというと、アーサー・C・クラークの記した『幼年期の終わり』に似ています」
「それは読んでねえな」と土方。
「いわゆる黒船だよ」
「黒船っ」
「そう。そのような巨大な未確認物体が、世界各地に飛来して、母船と呼ばれていたかな、どでかい黒いいわゆるUFOが一世紀のあいだだったか、空中に浮かんでいて、なんだったかな、ともかく妙に哲学的なSFだったな」
私は、高校生の頃に読んだ記憶を話した。
「いまはスッカリ落ちぶれた早川書房が、矢継ぎ早に、世界のmysteryやscienceものを新書サイズで出版していた頃だからな。たしか、筒井康隆の旦那の処女作もそこから出版されたはずだ。『東海道戦争』ね」
と、人魚が立ち上がった。足がナイのにどうやってか、うーん、要するに立っている。
「映画やテレビドラマのように、飛来物体が人体を吸い上げるというふうではナイのです。あるとき、突然に、生命体の想念、意識、どう呼んでいいのでしょうか。そういう心的なものが吸い上げられます。まるでタコの吸い出しのように」
タコの吸い出し(魚の目のクスリの商品名)で、心的なものが吸い出されるのかどうかは、知らんが、つまりは俗にいう魂を抜かれるということらしい。
「その後、クロフネ一機が地上に落ちて自爆。その衝撃で、とある種の化学変化が生じ、シリコン変容と私たちは称していますが、その天体は砂状に崩れて壊滅します」
それが、来るということか。この夢の世界に。
「はい」
まるで、私のココロを読み取ったかのような人魚の返事。
「率直、有体(ありてい)、簡単にいってしまうと、デン魔は、宇宙の現実世界を破壊するのではなく、生命体の夢の世界を破壊するのです」
だろうな。そうでナイと『幻魔大戦』と同じになるからな。
「で、具体的には、その黒い巨大母艦てのが、」
人魚は私のコトバを遮って、
「いきなりそんなことはしません。そうなるのは、夢の世界が荒廃してからです」
それ、どういうことなの。

