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2017年2月19日 (日)

夢幻の函 Phantom share 36

天国です。

「あのバカのドブには困ったもんだな。二級天使じゃ相手にならんな。まあいいか。そんなことは大天使のわたしにはワカッテいたことだ」

天国のルシフは、昼寝している神ヤハイを起こしました。

「ヤハイさま、出番ですよ。ヒトは弱りはてています。いまこそ、神さまのヤハイさまの偉大さをみせてやるのです」

「そうか、そうだな、そうするか」

ヤハイは、大きなあくびをひとつすると、それから地上近くにおりていきました。 

ドブは、たおれたままです。

「おい、ドブよ」

と、ヤハイは、空いっぱいにとどろくような声でドブの名をよびました。

「オレをよぶのはだれだ」

「わしは、ヤハイという神だ。よく聞くがよい、この世界をつくったのは私だ」

「そうかい。けれども、この田畑はオレがつくったよ」

「こんな田畑と、世界とはくらべものにならん」

ヤハイの声はカミナリのようにきこえました。

「田畑がなければ、ヒトは食っていけなくなるよ」

「田畑くらいがなんだというのだ。わしは、山を動かすこともできるのだぞ」

「山なんて動かされたら、ヒトは困るだけだ。田畑のほうがタイセツだ」

うーん、こいつはかなり、バカだな。とヤハイは思いました。

「ドブよ、おまえのタイセツなツキを生きかえらせることも、わしにはできる。そうしてほしいか」

「ヒトは死ぬもんだ。せっかくやすらかに死んだのに、ツキはもう生きかえりたくナイにチガイナイ」

「毒へびにかまれて、苦しんで死んだのだろう」

「毒へびにかまれても、熊に食われても、死ぬときは同じだ。みんなやすらかだ。ツキも、さいごのときは、そんな瞳をしていたよ」

ほんとうに困ったバカだな。ヤハイは、舌をうちました。

「お前の父も母も兄たちも、いっしょに生きかえらせてやろう。それから、お前のチカラももとにもどしてやろう」

「そうするなら、そうすればイイさ。そうなったところで、どうなるのか、オレにはワカラナイけどな」

「おまえには、あっというまに木々が千本も伐りたおせる斧をやろう」

「オレは、たかが一本の木を伐るときも、いっしょけんめいにする。なぜなら、木も伐られたくはナイだろうからな。だから、オレの命もやがて土になって、お前たち木々にくれてやるからと、そう思いながら木を伐るんだ。その刃を木にむける斧だって、オレと同じ気持ちにチガイナイ」

ヤハイは少し腹立たしくなってきました。

「ドブよ、おまえは、神のいうことを信じないのか」

「オレはバカだから、神というものがどんなものなのかワカラナイ。ワカラナクても生きてきたから、それでイイのだ」

「あらゆる苦しみをとりのぞき、死ぬことのナイ命すら、おまえにやるといっているのだ」

ヤハイの声は天にも地にもひびきわたりました。

「オレはバカだが、生きるのは苦しいものだと生きてみてよくワカッタ。それでも生きてこられた。それにヒトは死ぬものだということくらいは知っている。それでも生きてきた」

はなしにならんな。ヤハイは天国にもどっていきました。 

ルシフは、とっくにどこかにすがたをかくしています。

「ああ、たいくつだ。ヒトなどいらないな。いらないものはいらん」

ヤハイは、また、大あくびをしました。 

さて、それから、ドブは最後のチカラをふりしぼってツキを埋めてやり、自分もそのかたわらによこになりました。

そうしてやがて土になりました。

次の年、そこから新しい芽が二つ出て、それは100年ほどで二本の木になりました。

そうして、毎年、それぞれの木にチガウ花が咲くようになりました。

もう、国はありませんでした。ヒトもいませんでした。

田畑はだんだん森にもどっていき、川のせせらぎと、鳥の声が聞こえるだけになりました。

ことしも二本の木には、それぞれの花が咲いています。/

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