夢幻の函 Phantom share⑨
島田荘司老師の『水晶のピラミッド』にはまんまとヤラれたが、やられたミス・ディレクションの仕掛けのほうが面白かったナ。真相(いわゆる御手洗探偵の推理)は忘却しているるんだから、つまんなかったんだろう。しかし、あれだけの長編で、なあるほどと感心したのは、何故、ピラミッドの計測にΠ(パイ)が出現するのかという、比較的ちっちゃな謎解きだったワ。
「あのね、そのコト、つまりね、キューブだか陰部だか、ピラミッドだか、そういうコトについては、何れ誰かがお芝居にするから、いいの」
「えっ、お芝居っ」
ハルちゃんはずいぶん不思議そうな顔つきで、首を何度も横に振っていたが、その仕種は意外に可愛かったので、函館に相撲をとりに来よう、じゃなくて、住もうかナと突発的思考が働いたが、女性と出逢うたんびにそういう飛躍を考えているのは、夢のせいではなく、フロイトの精神分析でいうならば、と、いきなり思考遮断。
「あの、~さん、〈愛〉って信じますか」
えっ、なんだ、まるでナントカの証人が「あなたは神を信じますか」といってるみたいじゃないか。ハルちゃん、それ唐突。
とはいえ突発に飛躍に唐突と、夢ならではだな。
「愛というと、その、アレはですね、私は愛の行為、営みは信じますが、いや、信じるというか、実感出来ますが、〈愛〉といわれるとつまり、愛というのは、ヒトの外にあるもんじゃナイでしょ」
ハルちゃんはしばらくfreeze、考えているようだった。たぶん、私にナニを訊かれたのかそれがワカラナクて、そっちのほうを考えていたにチガイナイ。
「ソ、トッ、ソト、ヒトのソト、フクワウチ」
というと、何のことですか。ハルちゃんの眉間は疑問符を呈していた。
「つまり、例えばですね、〈意識〉って、人間の外にはナイでしょ。中にありますよね」
「それは、脳の中ということですか」
「いや、脳でもココロでもイイんだけど」
「ココロって何処にあるのかな。やっぱ、ハートだから、心臓ですか」
「いやあ、ココロは人間の全体がそうなんじゃないかと、私は思ってますよ」
「えっ、身体中ってことっ」
「いうならば、そうです。部分的にあるんじゃなくて、全部というか至るトコロ」
「~さんって、ほんと不思議な方ですね。うちのマスターのいう通りだワ」
マスターって誰なのか、ワカラナカッタが、夢だから仕方ない。
「すると、私ってココロですか」
立派な質疑だ。
「という時もある。でない時もある。いうならばユビキタスかな」
「指切ったす、か」
私のナニがどうなってるのか知らないが、私は女性のこういう応答に欲情する。いや、感動するにしておこう。
「うっ」
「どうしましたっ」
何故、呻いたのか、私にもワカラナイ。感動したからだろう。欲情ではナイ。
「いや、ちょっとその、ね。えーと、意識じゃなくて、そうだな。ああ、うん。仏教なんかじゃ、特に禅宗なんかがそうなんだけど、〈悟り〉ってあるでしょ」
「ありますね、聞きますね、悟ったとかどうとか。でも浄土宗とか浄土真宗とかはナイですね、悟りって」
「ああ、それは、あっち系は、他力本願だから、悟らなくてもイイのよ」
「ええっ、そうなんですかっ。悟らなくても坊さんになれるんですか」
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