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2017年1月 6日 (金)

夢幻の函 Phantom share③

driveにでも行きませんか」

 と、これは私がいったのではナイ。土方の口から出たコトバだ。

 私が応諾の返事をする前にもう、私たちはハイブリッドの中後部座席にいた。

「レイさん、カロウジの墓参りでもしよう」

 運転席には黒縁の大きめの眼鏡がよく似合っている、小顔の若い女性がハンドルを握っていたが、「ラジャー」と返事をすると、アクセルを踏んで、ハンドルを回した。夢の中だから、こんなもんなんだろう。私は特に違和感を感じたりはしなかったが、行き先に決められた〈カロウジ〉というのが誰なのか、そのとき思い出すことが出来なかった。それと、運転席の「レイさん」と呼ばれた女性が、私の記憶の中のものなのか、土方関連のダレかなのか、それも判然としなかったが、私が眼鏡フェチだということを、この夢は識知している。それは解した。
 死んでからも海が観たいという気持ち、心情というものは生前の願いとしてはありふれたものだが、特に港町が故郷のもののあいだには根強いのだろう。墓地は急勾配の山縁に在った。なるほど、海は一望だ。にしてもこの勾配は、半ば登っただけですでに息がきれる。抗うつ剤を二十年以上服用したためらしいが、筋力の衰えが激しいのだそうだ。なんてことを、最初の投薬時には何も聞いていなかった。

 レイさんの声がする。

「ありましたかぁっ」

「ないですねえ。しかし、あるはずです。この前もここでしたから、それは覚えているでしょ」

 土方くんが応答している。

「はい。この前も捜しましたもんね」

 カロウジ、誰だ。私は疑問だけ、している。なんというワガママだろうと憤慨さへしている。こんな急勾配に墓なんて、いや、墓地なんて。しかもこの広さはナンダ。殆ど頂上まで墓ばかりだ。それに、

 どういう墓地なんだ。宗派、教派が混在している。日蓮宗の隣に浄土宗や浄土真宗があるのはまだ許せるとして、十字架はプロテスタントらしい。の、横にはカトリックの、さらにその隣はロシア正教会。これでもかと中国人墓地の群れ。で、「旧陸軍兵の墓」と書かれた、それにしてはお粗末な、まるで無縁墓地のように囲われた領分が在り、もちろん無縁墓地群も在る。「一族の墓」「代々の墓」「郎党の墓」「一家の墓」、「聖なる人々眠る」、なんの統一性もナイ。

「ああ、土方さん、ありましたよぉぉっ」

 レイさんの声が勾配の上から聞こえた。あそこまで歩くのかよ。私の息は荒い。

 墓碑に刻まれた名は〔唐牛健太郎〕。60年安保の全学連委員長。そう、墓というより碑と称したほうがイイ。

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