夢幻の函 Phantom share⑭
「そりゃあ、きみ。私はクリスチャンだからですよ。キリシタンじゃありません。ありゃあ、ポルトガル語か何かでしょ。キリシタン、クリスタン、クリスチャン。そんなふうにラテン語が変化したのかなあ。どう思います」
何にも思わネエよ。土方歳三がキリスト教徒っ。どういう歴史だ。
「~さん、ここはね、人種のドツボなんだよ」
「坩堝でしょ」
「そう、ウツボ、海ん中にいる怖い魚」
まあイイかと思った。信長が出てきても奇怪しくはナイんだから。
いや、まあイイということはナイ。
「そりゃ、ちょっと困りますね」私は、やや凄んだ。
「困るってっ」
「土方さんがクリスチャンだということになってしまうと、まるで、storyが展開しているかのようにみえるじゃナイですか」
「storyが転回っ」
「展開です」
「あの、徳川三代に仕えたという、存命二百年を経て、影で君臨したという、」
「天海僧正ではありません。私がclaimをつけているのは、土方さんがクリスチャンてなことになると、まるでこれはparallel worldのような世界になってしまうという危惧が生じるからです。いいですか、これは私の夢なんです」
夢は夢らしく、錯綜し、破綻していなくてはいけない。新撰組一番隊長土方歳三がキリスト教徒で、しかもマリアと密通しているなんて。いや、密通はナイだろうけど。なら、何で、聖母はこんなところでこんなふうにstoryになってしまうのだ。しかし、錯綜して破綻しているのだから、これは夢ではいいのではないかしらん、という気もしてきたが、それを私は奇妙な論理癖で払拭した。錯綜、破綻しているのは〈夢〉でなくてはいけない。いま錯綜と破綻を感じとっているのは私だ。夢の中でもっとも正気なのは夢みている本人であるはずだ。べつに奇妙ではナイ。この論理はしっかりしている。
と、突然、私の思考を遮るように、マリア(敬称略)が、
「私も、creamはつけてます。ヒアルロン酸入りの、」
いうと思った、このマリアなら。とはいえ、claimにcream、聖母がいってイイような親父gagか。
「親父ガグ、ガグってナアニ」
gag、なるほど、「ガグ」と読むほうが自然だろう。yかuが綴りに入っていてもよさそうなもんじゃナイか。
すました顔でマリアは、乳房を出した。何のマネだ。
「お乳の時間なの」
母子像にでもなるつもりか。神の子イエスに乳を飲まそうというのか。
そうではなかった。夢なら覚めてくれ。いや、夢なんだよな。
乳を吸っているのは土方だ。
とりあえず、私が吸いつくというplotでなくて良かった。
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