夢幻の函 Phantom share⑥
火山の噴火でどうやったら湖が出来るのか、まったくimageが飛来しないまま、車は海岸沿いから、ghost townのような町の道路に入り込んだ。道を歩く人影がナイ。
「過疎なんです。この町の小学校は来年の新入生はゼロ。あちこちで小学校は廃校になってるの」
「でも、函館でしょ。むかしは青函連絡船があり、いまは新幹線が通ってるはずだけど」
「その新幹線、人気ナイのよ。だってtunnelだけなんだもの。JR北海道の職員募集はいつも定員割れよ」
まるで人の気配が無いのは、各々の家もそうで、住人がいるのかいないのかすら、判別出来ない。そうだ、
こういう景色をどこかで観たことがある。ああ、日本海側のほうに旅行したとき、車窓から観た風景だ。あのときは海霧が出ていたから余計にそんなふうだったな。寂れているというか、廃れているというか、あの辺りのひとは、いや、この辺りの人々の生き甲斐というのは何なのだろう。と、突然、真面目(これはマジメと読む。いつだったか、正直な役者が、ある芝居の読み合わせのときにこれをマメンモクと読んで、そいで、他の役者のみなさんが笑うかと思っていたら、真面目に聞いているもんだから、ああ、みなさんもマメンモクと読んでいるんだなあと、深く感じ入って・・・る場合じゃねえぞと憤慨したことがある)な、シンミリになってしまったが、霧の中を走る自動車のハンドルを握っているレイさんは、そのシンミリをチリチリと引き裂いていくように、こんなことをいいだした。(いつ、霧が出てきたのかは、ワカンナイが)
「ねえ、3放世代って知ってますか」
「サンポウ、三方向に向かってんのかい」
「チガイマスよ。恋愛、結婚、出産を放棄せざるを得ない世代のことです」
「ああ、3放棄ね。いや、知んナイね。そりゃ、どうして」
「若者の就職難と、ブラック企業への雇用、過労死への恐怖からです」
つまり、working poor というアレだな。
「5放世代というのもあるんですよ」
「五つも。何を」
「人間関係とマイホームを放棄せざるを得ない」
そりゃあ、要するに何なのだ。
「さらにあらゆる希望を諦める、」
そこから先はもう聞きたくなかった。なるほど、私の親父は下請け工場で働いていたが、何の下請けをするかは決まってなくて、ともかく下請けなのだ。あるときは、農薬をつくっていたし、これは従業員の中に具合を悪くするものがたくさん出たので、業務を今度はビニール製品に変え、このビニール製品の接着剤による具合の悪いものが出てきたので、次は電化製品の部品になり、と、その時々によってイロイロだったが、下請けといっても、ほんとうは孫請けで、〇ンヨー電気の下請け会社の湖南工業とやらの下請けで、しかしこの構造にはさらにまだ下があって、親父は軽トラックに積んだ部品をあちこちの内職家庭に届け、出来上がりを受け取っていた。
「日本が、原爆落とされてから僅か五十年で、瓦礫と焦土に高層ビルまでおっ建てるように高度成長したのは、生き甲斐というより、生きなければ、生きていかなければ、せっかく戦争で生き残ったんだ。生き延びなければ申し訳がたたない。戦争で死んだお隣さんたちに合わせる顔がナイ、と、「一億総〈おしん〉」となって、目刺しだけで飯を食い、焼酎を立ち飲みして働いた結果だということを、」
「身に沁みて知ってる世代なんですね、〇〇さんは」
〇〇さんというのは私のことだろう。
「ゴメンなさいね、私たち豊かなもんだから、いまどきのpoorなんて知れてんですよねえ」
「いや、といって、こんな希望のナイ時代は許されるべきでは、アリマセン」
「私もこのあいだ、売春しちゃったんですよ」
えええっ、
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