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2017年1月 4日 (水)

霧幻の函 Phantom share ①

ルーイス・キャロルの『不思議の国のアリス』は不思議な物語だと、そのsequenceに触れたときに感じた。この場合、アリスの行き先の世界が〈不思議〉だから不思議な物語だと述べているのではナイ。いわばこの物語のドラマツルギーは主人公アリスにとっては「巻き込まれ」でもなく、「致し方なく」でもなく、「決意をもって」でもナイ、なんの前触れもなく突然起こる、いってみれば「降りかかり」で、アリスが「不思議の世界」に行かねばならない理由はほんとうは何もナイ。それは落とし穴に落ちるように突然に身に降りかかる〈災厄〉のようなもので、タイトルこそロマンチックだが、これを『アリスの災難』としてもマチガイではナイように思える。しかし、ほんとうはそうではナイ。

 その世界、アリスの訪れる(正確には迷い込む)「不思議の国」のepisodeが難解なパズルを提出されているように感じられるのは、物語の進行の行き当たりばったり(即興)が、それぞれキャロルの数学者としての嗜好性に依る奇妙な設問のように仕立て上げられているからで、けっきょく問題は解かれぬままに(というか、何が問題なのかワカラヌままに)、続編の『鏡の国のアリス』においては、主人公アリスはチェスの枡目を次に進まねばならず、行き着くところまで行ってしまって、さらにそこに待っている〈黒の女王〉の最後の「無理難題」も解かれぬままに、元の世界にもどって来てしまう。正・続、どちらもいわゆる「夢落ち」ではあるが、夢というものはそれ自体不思議なものではナイ(と、フロイトは分析してみせたが、たしかに「不思議な夢をみた」という述懐があるのだから、夢もいろいろなのだろう)。私がアリスの彷徨った物語を〈不思議〉というのは前述したとおり、ひとことでいってしまえば〈物語そのものがワカラナイ〉という理由による。

おそらくそれは、作者のルーイス・キャロルの逡巡する態度に由来している。つまり、彼は誰よりも(読者よりも)多く大きく躊躇っていると思ってイイ。それは、語っていることが即興だったからではナイ(続編の『鏡の国のアリス』は最初から執筆の形態をとっている)。アリスへのmotionをキャロル(本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。職業、数学者・数学教師)は持て余しているのだ。彼はアリスをかっさらったはいいが、確信犯ではなく、それが出来心、というよりアリスの誘惑に負けてしまっての結果だったという所以で、アリスをどうするかについて常に怯えを懐きながら、おそるおそるではあるが、なんとかこれを煙に巻かんとして、苦吟しているご様子だ。

どうしてそんなことになったのかを推測すると、「この物語はアリスがアリス自身の頭の中、もう少しいうならばアリスの夢の中に侵入していく」という体裁、あるいは構造を持っているからだと思われる。これは単なるmeta構造ではナイ。数学者らしい構想ではあるが、アリスの進入は侵入に近くなり、ドジソンのような数学者にとっては、未だ解かれぬ命題、いわば「アリスの定理」というものになってしまったことによる。

かくのごとく、創られた物語のほうは、その世界にやって来た存在に対して成す術を持たず、それゆえに来訪者であるstrangerのアリスもまた、ラビリンスに翻弄されつつもそのAporiaに答える者としての登場人物と成らざるを得なくなるという、双方で奇妙な世界の〈共有〉を余儀なくされる、いわば歴史の重力と同相なのだが、それこそは私たちが答を得ようとして苦慮する「〈私〉の人生」と称しているものにふさわしいのではナイだろうか。

 

十四歳の誕生日に私は電動の鉛筆削りと、1ダースの鉛筆を祖父からプレゼントされた。六角柱の棒をその機械の中央に小さく空いた穴に押し込んでいくと、棒は次第に短くなり、終には殆ど円錐に近くなって鉛筆の体をなさなくなる。何処かで削るという行為をやめなければならないのだが、機械は削ることだけをその使命、機能としているので、こちらが押し込んでいくという行為をやめない限り、鉛筆は次々と姿を消し、とうとう私は1ダースの鉛筆を全て円錐にしてしまった。このとき、私は奇妙な妄想に囚われた。エジプトのピラミッドは正四角錐だが、あれはほんとうは先端の部分であって、砂中には本体部分が埋まっていて、いわゆる全体像はエンピツのような塔になっているのではナイか。この妄想はさらに進んで、塔では底辺が存在するので、底辺のナイ(つまり帰着点のナイ)もう一方の正四角錐が埋まっていて、要するにピラミッドを掘り出してみると、それは正八面体であり、地上にはそれが半分だけ露出しているのではナイか、という、なんの意味もナイが途方もない妄想だ。

 

ここからはその頃の私が頻繁にみた、ある〈夢〉の話になる。

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